誰が為に鐘は鳴る〜とある作家の発狂〜
ひしめく民衆のなかには、ところどころまるで鳥肌のたった肌のように、親に肩車されぴょこりぴょこりと頭抜けた子供たち。子供たちは無邪気にその開けた視界を楽しんでいたり、不安定な足場を怖がっていたりしている。
「なんで死ぬの?」
子供たちのなかにはそんな質問を何の気なしに口にする。開けた視界のまんなかには、簡素な木組みの舞台があり、舞台上にはギロチンがある。すでに処刑者は断頭台に拘束されているが、彼の頭にはずた袋が被せられていた。
「…偉いひとの言いつけを守らないで、悪いことをしたからだよ。だから…いや、とにかくお前たちは見ていないといけないよ」
パパはふだんのクセで、だからお前もママの言うことをちゃんと聞かないといけないよ、とつけ足そうとしたが、そんなこと言っている場面じゃない、とのみこんだ。
群衆の頭上を覆う天幕は、一面ものの見事に灰色の空模様。いまにも雪の舞い落ちてきそうな曇天は、絶好の処刑日和だ。
そんな空模様もあって、群衆が集められてから時がどれだけ過ぎたかわからない。
子供たちが、不思議とタイミングをあわせ、一斉にぐずりはじめようとしたその時、処刑台の上に覆面姿の官吏が登場した。
彼らは拘束された男の罪状を高らかに朗々と語ると、その最後に処刑時刻の到来を報せるベルを打ちならした。
官吏は男に被せられていた袋のひもを解き、頭頂部の髪をむんずとつかむと、民衆に男の顔をひけらかした。男の顔は全体的にふくれて、全体的に暗い紫色をしていた。その顔色の原因が長いあいだ断頭台に拘束されたせいで鬱血したのだと考える民は一人もいない。凄惨なリンチを受けたに違いない。思えば先刻からずっと、男はぴくりとも動かない。拘束されているとはいえ、男の肢体が屠殺された豚のようにだらんと力の抜けた状態で、ピンク色に濁った生気のない眼。男はすでに事切れているのではないかと思われた。
しかし、たっぷりと官吏の手により顔をあらためさせていたその終盤、男の口からゲゲゲゲゲと不気味な音がした。音とともに変化した男の表情から、どうやらそれは笑い声らしかった。男には歯がなかった。おそらく喉も潰されて、声帯に息を通すとそんな不気味な音にしかならないのだろう。男がことここに至ってなぜ笑い声をあげるのかは、もはや誰にもわからない。
官吏が不快な音を止めようと、手に持った棒で、断頭台から突き出ている男の顔を横叩きに殴りつけた。男の顔は手打ちしたゴムまりみたいにへこみ、すこし揺れた。音は止んだ。
群衆は、官吏に殴りつけられた男の姿を見て、声を張り上げた。怒号ではない。歓喜の声だ。賞賛の声だ。すこしおっとりとしたこの国の国民にようやく現実と感情が一致したようだ。
その群衆の声のなか相反するように、官吏の手によって粛々と刃につながる縄が切られた。
男の首がポヨンと処刑台の上に転がり、今も心臓が動いている証として脈動のリズムで切断面から弱々しく噴出する血しぶきをみて、群衆は言葉にならない歓声を上げた。特に前列に位置どった者たちは狂喜乱舞した。
肩車組は、それでも冷静に危険を察知して、ゆっくりとその場から遠ざかりはじめた。
祭りのあとの帰り道、とある親子の会話。
「パパ。偉いひとの言うことを聞かなかったから死んだって、でもあの人は王様だから一番偉い人なんじゃないの?」
質問を繰り返しながら言語とウソを学ぶ成長段階にある子供の素朴な疑問に、パパは応える。
「王も偉かったけど、この国ので一番偉いのは、実は俺たちみんななんだよ。革命なんだよ。革命なんだ」
パパはそう言うと、数回首を振った。我が子の手前、自身の興奮を隠し、冷静に努めようとしたのだ。
「ちょっとむずかしいかな。ははっ。要はママの言いつけを守らなかったのさ。守らなかったから、すごく怒られて、それでも悪いことをやめなかったから、こうなった。ま、ともかくお前はこれで歴史の生き証人になったんだ。これはとてもいいことだよ。これはパパたちができる君たちへの最高のプレゼントだ。すごいことだよ。すごいことがおこったんだ」
そんなことを、興奮と冷静のはざまでうんうん唸りながらパパは語りつけたが、子供が急に歩きながら寝ていることにきがついて、口を閉じた。
この国の大まかな歴史や風土、文化や慣習、法律、地理、政治などを書いていくと長くなってしまって非常に面倒くさい。というかもう面倒くさい。ので、国民の栄養源は昆虫食で周囲の国から気味悪がられているだとか、周囲を高い山と海で囲まれているだとか、変則的な議員内閣制で貴族院が実質的な拒否権を持っているだとか、それらの設定がこのあと説明もなしに突然書かれるかもしれないが、無視してくれればいい。ほんと、テーマや伝えたいことがある文章というのは書くのが楽だし、書かなければならないことが多くてついつい文章量に弾みがつくが、書いててつまらないのがたまにきずだ。山登りに行くのに必要なもの、必要になるかもしれないものでリュックを満たすのは、そりゃ当然の行為だけど、まるっきり役にたたないもので満たすよりは簡単だと思う。逆にいえば、全く無関係なもので埋められたリュックをもつ者がまっとうな山登り装備をしようとする者を批難するのはおかしい。挙げ句の果てには、教典で埋められたリュックでもってあたかもヒマラヤを登頂してきたというツラをする者もいるから、面倒くさい。私を含めて大勢の人々はヒマラヤ登山にほんとに必要なものを知らないから、もう面倒くさい。本来ならまっとうな準備をする方が簡単だが、道具や知識、訓練に専門性が要求される。それに比べて役にたたないものっていうのは、なんでも詰めこめるから厄介だ。私みたいにあえて役にたたないものをリュックに詰めようとすると、たとえば読みかけのマンガなんか、いやそれだと燃やして暖をとったり防寒具にできてしまうし遭難して助かりそうにない時に続きが気になって人生に後悔したりしないじゃん、といったまっとうな、役にたっちゃう方の理由にもとづいて却下するが、まっとうな方の理由をまるっきり理解してない者はマンガ本があれば燃やして暖も取れるし防寒具にもなるからものすごく役に立つ、というその狭い了見で山登りにはコミックをと推奨してきたりする。たくさんマンガ本を持って山に登るのは単なる苦行で、苦行というのは人間の頭を往々にかたくする。もともと無理筋な理屈にこだわると、登山中にマンガ本を燃やした火で食べるインスタントラーメンは最高! などと無理筋な主張をしはじめる。そこでもって、それはゴミや山火事につながるぞ、とまっとうな方の登山家が指摘すると、マンガ本は再生紙でー、灰は高地であってもやがて自然にかえりー、ガスバーナーのガスは爆発する危険がー、山火事はガスの火でもー、とどのつまりあなたたちは自然破壊者だー、とか言い始めて、非常に面倒くさい。無理筋の苦行の道を歩むものは、たいがい自身の行いのひとつでも否定されたら歩んできた人生の意義を失うことになるから、面倒くさい。もうあいつらにはあるとされるゴールに向かうことしかできないのだから面倒くさい。まさしく苦行である。ジャイアント馬場最強説並の苦行だ。しかも、ゴールにたどり着いたら苦行と相応の見返りがある、もしくは、見返りを要求するから面倒くさい。苦行の末にたどり着いた場所って、天竺とか、地上の楽園みたいなものを想定したいじゃないですか。それが見返りですよ。もうね、あいつらは年がら年中ダイエット中のデブなんですよ。痩せたら、まあ、ゴールなんですけど、まず痩せない。目の前にケーキあったら、砂漠でオアシスかのごとくすぐ飛びついちゃう。しかも、そのくせ痩せたら自分が美男美女になると信じてる。なんならだから私は美男美女なんですよと言い張る。そんなデブがゴールであるところの痩せになったらどうなるかというと、これで好きなだけケーキ食べられる! ってなる。ダイエットにまつわる様々な知識がある痩せられないデブなんですよ。なんなら都合のいい理屈引っ張ってきてケーキ爆食いダイエットとかしはじめたり、痩せるためにはいったんもっと太れ! とかね、本末顛倒じゃないかって話ですよ。とはいえ、基本奴らは飢えてるんですよ。ダイエット中だから。だからこそケーキ目の前に出されたら食べちゃうんですけど、ワンホール一気に。飢えてるあいつらは、好きに食ったり飲んだりしてる奴らが気に食わなくなるんですよ。お前らは毎日ケーキ食べ放題でいいですねって思いこむんですよ。結論ありきになっていくんですよ。そんなわけないだろ、と。そんなことするのは痩せというゴールにたどり着いたお前たちだけだよと。これをね、心理学ではミラーイメージっていうんですよ。平和と自由を守るためのデモとうたってそのデモに反対の立場からものをいう人相手に暴力行為を平気でするような人たちがいたとして、そんな人に権力を与えたらどうなるかは目に見えているじゃないですか。言わずもがな平和と自由はなくなりますよ。あなたたちのゴールにある見返りはなんですかって話ですよ。彼らの考えるところの平和と自由を強制できる立場でしょってことですからね。よく、あの人は偉い大学出てるのにどうしてってのも同じですよ。甲子園出場した選手だってその後プロに行く人もいれば、もう甲子園に出られたしその実績を自慢していくけどももう汗はかきたくないって人もいる。甲子園には出られなかったけど大学や社会人、独立リーグや渡米なんかしてずっと野球を続けていく人もいる。野球を続けた人と野球をやめた人、将来どっちが野球上手くなるのかっていったらだいたい前者じゃないですか。甲子園の優勝投手だって10年20年球を投げてなかったら、そこいらの草野球のピッチャーよりヘボくなることもありますよ、そりゃ。ゴールにたどり着いても人生は続いていくもんだから、しょうがないからあとはどうにかしてそこを守る人生がはじまりますね。偉い大学を出たことがゴールだったら、あとはその見返りをうまく使って凡庸に生きていきたくなりますよ。そのためにがんばったんだし。まあ、そんなことは置いといて、何かを守ろうとすると、人、というか生き物は攻撃的になります。育児中の野生動物に近づくのは非常に危険だということは常識ですね。テリトリーを持つ動物も、魚なんかわかりやすいですけど、自分のテリトリー内に何かがきたら攻撃しますね。あれです。もう面倒くさいのであれであれしますけど、敵を攻撃するってのは、なんらかを守る方法として、非常に楽な手段であり、非常に効果的であり、非常な愉悦を備えているんです。独裁者ってそうじゃないですか。粛正ですよ。いままでピーチクパーチク文句をつけてきたり、なにか自分の知らないところでゴニョゴニョしているやつを問答無用で証拠もなしにバンと殺す。すごく楽で効果的で愉悦ですよね。だって大人数の意見をまとめるためにすったもんだの議論をしたり、法整備に着手したり、第三者に訴えたり、そんなことすると時間も金もかかるし楽しくないですからね。ちゃんとしようとしたら並々ならぬ苦労しますよ。どんなことがあっても意見を曲げない奴ってたくさんいるし、しかもだいたいそういう人たちの意見ってバラバラだし、公平にやろうとしたら第三者に自分の意見が反映されるとは限らないし。だいたいの独裁者は自分のことを正義だと思ってるからなおさら苦労するだろうし。しかも疑心暗鬼にかかってるから、基本まわりは敵だらけだし。そりゃ粛正しますよ。すごい快楽だとおもいますよ粛正は。一度やったらやめられないと思いますよ。もう二度とそいつに邪魔されないんですからね。でも、ひとりの人間ってのは10個何かをすれば半分くらいはまちがってるものじゃないですか。そのまちがいを否定した時に、粛正の対象にされたらたまったもんじゃない。だから周りの者は是正しないし、自分の身を守るためには部下に気骨ある奴がいたらたまらないから早めに芽をつむ。恐怖政治ですね。なんだかもう面倒くさいのであれしますけど、本日はミラーイメージと自分が守るべきものに実体がない時ほど人は敵を作るということを覚えてもらって、上述したような内容に物語のエッセンスを加えた創作物(そう、著者は面倒くさがりをよそおって、物語の核となる部分をふんわりと巧妙に隠していたのです!)を読んでもらえたら楽しんでもらえたらなと思っています。では。
さて、簡単にだが、この国の革命前夜の話は、かえすがえすも簡単にだが、説明しておかなければならない。
まず、昔の話として、この王国は征服王朝である。ざっくりいうと、いろいろあって国内の被征服側の民族主義者がテロを頻発させていた。
そのテロの鎮圧に功をあげたのが、この物語の主人公で、エリート軍人とエリート法政官的な人たちの間に生まれしエリート軍人である。
主人公はなんとかレンジャー的なステレオタイプの仲間とともに次々と抵抗組織を鎮圧し、国民のヒーロー的な存在になる。
だが、正義のためとはいえ、主人公たちはいささかやりすぎた。世間からおそれられるようになる。
そんなとき、主人公レンジャーたちが敵組織に囚われる。そのとき、敵組織から情けをかけられ、そこそこ良い扱いを受ける。が、敵組織幹部との正義等にかかる論争に主人公が負ける。そのことが主人公をダークサイドにおとしていく。すなわち、問答無用にうってでる。
敵組織と王国との取引で主人公たちは解放される。この取引で敵組織は自治領を得る。この結果に主人公は憤慨、王国に不信感を抱く。
敵組織は案外まともだったので、平和が訪れる。それを良しとしない主人公チームは、敵を攻める名分を探る。が、王国側としては戦いを起こすつもりもなく、敵組織との関係も良い感じだったので、敵組織に関するかなり無理筋の疑惑をでっち上げる。ピンク的なレンジャーが軽いノリで「だったら大量破壊兵器的なものを敵組織の陣地に置いてくればいいじゃない」的なことをまじめに提案するが、さすがにそれを実行するのはむずかしく、「独断で敵基地に奇襲をかけ殲滅したのち、自分たちが持ってきた大量破壊兵器的なものを置いてくる」ことにする。
そのでっちあげ作戦は成功し、敵組織の魂胆を事前に叩き潰したかたちの、主人公を正義の象徴として制圧戦がはじまる。
でも、王国は対話ムードで戦いに乗り気じゃないので、何かと主人公チームを抑えようとする。この間王国と主人公サイドにちょっとしたすれ違い、内偵情報の行き違いなど、が頻発し、ほぼ敵対関係になる。王国側が調査し、主人公チームにでっちあげの疑惑が湧いてくると、主人公は自身の名声を利用し、王は敵組織とつながっていると民衆を扇動する。
民とどさくさ紛れに軍のごく一部を掌握した主人公は、自身の犯した罪などを適宜、王になすりつけながら、敵組織を殲滅する。
戦いを終え、総括が行われるなか、王側と王国軍、主人公チームと王国軍の一部が明確に敵対する。民衆は主人公と軍の一部による印象操作の末、後者に味方する。変則的な議員内閣制のなかで独特の権力を持っていた貴族院を、主人公がコネとかいろいろ使って味方につける。貴族院の協力で王国建立時のとある古い法律が現在も生きていることを「発見」する。すなわち、貴族院主催の国民選挙のようなものをすれば、王を断罪できるという感じのもの。
いろいろあって、王を追いおとす。主人公は人民はみな平等であるとかなんとか宣言する。と同時に、人民が平等であるためには王が必要であること、王のもとであるから人民は平等であったことを理解する。
冒頭の処刑シーンののち、主人公が独裁恐怖政治をはじめる。最初主人公はまともに政治をしていたが、まともにまじめにやると時間がかかりすぎることにいらだちを強めて、王の必要性だとか貴族院の見返り要求とかいろいろあって、「現実的に」そういう道を進むことになった。緑レンジャー的な奴を粛正する悲劇が発生したりする。貴族院は粛正した。とうぜん、多数の民衆が主人公に不信感をおぼえる。インテリ層がうざいのでこれも粛正する。
あんまりいろいろなくて、下野した王国軍の一部などが蜂起。ちょっとあって、冒頭の処刑シーンが王から主人公に代わって、繰り返しですかねー的なエンディングを迎えるのであった。まさしく誰が為に鐘は鳴るですねー的な。なお、思想の影響だとか、ゴールと見返りだとか、エリートの成り行きだとかなんだとかをところどころにはさむ。了。
…あれ? おかしいな。簡単な物語の背景を説明するつもりが、なんだか一遍の長編小説を書き終えた気分がする。
これはおかしいな。こんなおかしな気分ははじめてだ。おかしいなあ。こんなおかしな気持ちじゃとても壮大な物語を書く気になれない。これ長くなるし。書けば絶対におもしろくしてやる自信があるけど、絶対に長くなるし、なんだか書き終えた気がするおかしな気分だし。頭痛いからやめようとおもう。
おわり




