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きみを守るためにぼくができるたったひとつのこと

「ねえダーリン、こっち向い…ねえダーリン、こっち向い…ねえきみ、ちょっとこっちを向いて私がいかにきみにとってかわいい存在かを恥ずかしがらずにのたまってみなよ」

「カバの歌をうたうならうたうでちゃんと歌えよ…急になに?」

「愛に飢えているでそうろう、愛に飢えているでそうろう!」

「…うざいことこの上ないな」

「まあまあ、そう言わずに。きっとたのしいよ? きっともれなくたのしいよ? とどまることを知らないたのしさが私ときみとを包みこんで、やがてふたりはありあまる幾億のたのしさに溺れて、溺れ死ぬよ? たのしさ土左衛門だよ? 息もできずに苦しいはずなのに、その顔は今にもケラケラ笑いだしそうになっているんだ。土左衛門の白むくれた顔色と相まって、私たちは、そう、まるでふたりはピエロのよう…ピエロとは、たのしさに溺れて死んだ土左衛門の成仏しきれない魂を、天使があわれにおもって地上へと返したすがたなのだ」

「前から気になってたけど、きみ、アイデアに困るとピエロに逃げるクセあるよね。あらゆる物事をピエロに収束させていくクセあるよ。…物事をピエロに収束させていくクセってなんだよ。あれだろ? きみが会社の社長だったら、商品開発の社内コンペとかなんかイベントの企画会議とかすると、最終的に毎回ピエロ関連に落ち着くんだろ? 月めくりのカレンダーなんか作ろうもんなら毎月ピエロの登場だ。凧揚げをするピエロとか花見をするピエロとか海の家でカキ氷を食べるピエロとか稲刈りをするピエロとかトックリのセーター着た丸顔の兄妹がコタツに入ってるのを見てるピエロとか……サーカスでもそこまでピエロを推さないからね」

「うん」

「………うん、じゃないよ。おれけっこう長くしゃべったのにうんの一言で片づけようとするなよ」

「あまりに長くてさ。月めくりって言葉はなんだか新鮮だねってことぐらいしか思わなくって。ごめんね?」

「なにその急なトーンの変化は。きみ発信だからね? ひとりで長くしゃべるくだりはきみ発信だからね? もうやる気なくすわ」

「まあまあ、そんなことおっしゃらずに、さあ、とっとと私のかわいさを」

「ええ? まあ、きみはかわいいとこあるね」

「ほう、それはどんなとこが?」

「そうだなあ、まず、きみはよく歩きながら屁をこく。プップクプップク屁をこくよきみは。かわいいねえ。どっか近くで幼な子が音のなる靴を履いてプギプギ歩いてるのかなと思ったら、隣できみが屁をこいているだけだったということが多々ある」

「それ、かわいいのかい? かわいさなのかいそれ?」

「かわいいねえ、ポンポン船みたいで」

「あたい、屁をこく勢いで歩みをすすめてるわけじゃないよ?」

「他にはそうだねえ」

「あたい、屁をこく勢いで歩みをすすめてるわけじゃないよ?」

「へそまわりが汚ないとことか、かわいいねえ」

「あたい、屁をこく勢いで歩みをすすめてるわけじゃないよ?」

「脇毛の処理が雑なこととかも、かわいらしいもんさ。あと、身長もそうだけど、全体的にデカい」

「全体的にデカくてムダ毛を無駄にせず、腹のきたねえ歩くたんびに屁をこくやつってそれもうバケモノだよね」

「もうね、かわいくてたまらない。もしおれが不幸にも今死んでしまったら、犬に生まれ変わってでもきみといっしょにいるよ。きみを悲しくなんかさせるものか」

「まあなんて殊勝な心がけなんでしょう」

「ぼかぁ、かわいいきみが喜ぶためならなんだってやれる男さ」

「うれしいことをのたまってまあ」

「雪の降る寒い日に裸で外をかけまわってきみが笑うなら、やることに躊躇いはないぜ」

「それは見ものだけども、縁は切らせてもらいますよ」

「ぼかぁ、きみを守るよ。きみを守る騎士に、飼われている犬になってでもきみを守るよ」

「さっきから思ってたけど、おまえが犬になりたいだけじゃねえかそれ」

「番犬となってね、騎士様の留守を狙うドロボウに噛みついてやるんだ」

「せめて私を守れよ。関係ないとこで犬としてまっとうな活躍すんな」

「関係はあるさ。そのドロボウがきみだから」

「最悪なやつじゃないか私」

「まあでも、うん。最終的にはきみを守るよ」

「最終的にはってどんな紆余曲折を経たんだよ。まあでも守ってくれるなら、いいか」

「おれは立派な土佐犬だからね。大半のことからきみを」

「土佐犬なの?」

「え?」

「いやいや、土佐犬って。すげー怖いじゃん?」

「でもすげー強いじゃん」

「まあそうだけども、なんかこうシュッとした中型犬でイメージしてたから」

「牛みてえなサイズの土佐犬だよおれは」

「そうか…なんかせっかく生まれ変わってもらっておいてなんだけど、残念だよ。しかしそんなやつに噛まれてよく無事だったな私は」

「まあきみもなかなかなバケモノだからね」

「なるほど。ここでこの戯れを終わらせればそれなりにおあとがよいけど、終わらせない」

「終わらせろよ」

「今日ね、夢を見たんだ。私は川で洗濯をしていると、上流から淡いピンク色の服をきた織田信長が、どんぶらこっこと流れてきてね。私はハッとして、流れてくる織田信長を見つめることしかできなかったんだけど、ついに目の前にきたときに信長と目があったの。そしたら信長が、で、あるか。って冷静なお顔でひと言おっしゃって…それっきり織田信長は川下へとどんぶらこっこどんぶらこっこと流れていったわ…おあとがよろしいようで」

「よろしくはないよ」

「大丈夫大丈夫、だって織田信長はピエロのメイクしてたから。今の話を映像化したあかつきには、ちゃんとオチてるから」

「なら、いいや」

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