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やがてハッピーエンド

主人とのなれそめですか? はい、まあ…いえいえ、そんなおおそれたことはないのですけれど。ふつうの…はい、恋愛結婚…です、はい。

そうですか? はあ。いえとんでもない。では、はあ。

主人とは、高校生のころの同級生でして、はい…そう…なりますね。いえ、ま、えっと、ふふ、いえいえ、はい。そういうことにしておきましょう(笑)。

それで、私は当時、友だちがひとりもいなかったんですね。特にいじめられてたわけでもないんですけど、ずっとひとりで過ごしていました。休み時間になると、文庫本を読みだすような…といっても、耳はクラスの話し声や笑い声をすこしでも聞きとってやろうとしていたんですけどね(笑)。え? だって悔しいじゃないですか! 何をそんなに楽しいことがあるんだ、こっちは好きで本なんか読んでないんだぞって(笑)。そうですよ。まあ当時は、何をそんなにくだらないことで楽しんでいるんだ、私はもっと、そうですね、高尚でいてもっとくだらないもので楽しんでいるんだぞっておもってましたけども。そうです、単に友達が欲しかった(笑)。クラスの雑音の中にいると、友達がいるような気がしたのかもしれませんねえ。ま、ともかく、休みの日になるとひとりで電車に乗って玉川上水まで行くような子供でした。そうです玉川上水。はい。なんというか、ロマンチックな? 同級生たちは遊びに行くとなるといろんな場所を知ってたのでしょうけど、どこかに遊びに行くってなったら私は玉川上水ぐらいしか知らなかったんですよ。何にもないんですけどね(笑)。はい、しかもひとりで。あのころバスに乗るのが怖くて、ずっと歩いていましたね。ポテポテ歩いていると、頭の中でずっと会話が続くんですね。はい。私とクラスメートととの(笑)。聞き耳を立てていたおかげで情報ははいってますから、恋愛相談なんか耳にはいったら、私ならこうアドバイスしてあげるのに、とかをずっと(笑)。そうです! 不思議とあいつらなんか地獄に落ちればいい、という思考ではなく、私ならこうやって助けてあげられるのに、というような思考でしたね…はい。やはりそこは根っこがサービス業向きだったのではないですか(笑)。

そんな、ヒーロー、ヒロイン妄想を繰り広げながら、年がら年中歩いていました。おこづかいもたいしてあるわけじゃなく、どうしても水分をとらないような散歩になって、夏の暑い日に一回熱中症で倒れてしまったこともありました。…あははは、いえ、主人は関係ありません。当時ガングロギャルっていましたでしょう? ま、同年代ぐらいなんですけど、たまたま通りがかった彼女たちが介抱してくれて、救急車も呼んでくれて…。そうそう、ココアを飲ませてくれて…。たまったものじゃないですよ。ココアならあるんだけどっていう彼女たちのつぶやきに、ボーッとする意識の中で、ココアはダメでしょってツッコミましたよ。熱中症で倒れた人にココアは…ダメでしょ(笑)。飲みましたけど…はい、だって申し訳ないじゃないですか(笑)。それで飲んだのですけど、のどに痰がからんで呼吸困難になりました…それで救急車です(笑)。

はい、それで、不思議な縁というか、世界は狭いというか、そのガングロギャルたちと同級生の主人が知りあいだったんですね。主人の姉の知りあいだったんです。

主人は、クラスの人気者と言いますか、なんでしょう…クラスのバランスを保つというか…悪い子たちの中にもいるし、オタクの子たちの中にもいるし、女子とも仲がいいし、といっても一匹狼のようなところもあるし…なんといいますか、みんなを笑わせたい、みんなが笑顔にならなければ自分がつまらない、というような、不思議な人でした。あとになって聞いた話だと、クラスで唯一笑顔を見せない私をなんとかしてやろうとずっと考えていたらしいんですけど、その機会がなかったらしいんですね。え? うーん…そういうものですか? それならもっと早く話しかけてくれれば良かったのに(笑)。まあ、当時の誰も話しかけてこないでっていう雰囲気を出していた私がわるいんですけども。

それで、次に学校へ行く日に、教室で主人から声をかけられたんです。

やーいおまえんち、ワックドナルド! って。

はい。ハンバーガーショップの。ええ。うちはもちろんハンバーガー屋さんではありません。ふつうの家庭です。はい、子供といっても、もう17ぐらいですか、それなのに、こう、わざとでしょうけど、大きな声で小さな子みたく…。そうですね、子供じみた…でも、それが当時の彼なりの優しさだったんですね。私の反応をうかがうということもあったでしょうが、当時の私は他人から、大丈夫だったか、なんて心配や善意を押し付けられたらきっとパニックになって何か変なことをしていたかもしれません。え? いえ、なんせ他人なんて自分の頭の中にしかいませんでしたから。いきなり心配なんかされたら、当時の私のちんけなプライドが許しません。

私は当然、彼を無視して、その後普段どおりに1日を送っていたんですけど、次の日も、また次の日も、彼は私の家がハンバーガーチェーン店であることをなじってくるんですね。もちろん私の家はハンバーガー屋さんじゃないんですけど、1週間ずっとです。あいさつ代わりにそう言って、それから話しかけてくることもなく。

私はずっと無視していたんですけど、彼は発信力がありましたから、だんだんとこう、クラスがざわついてくるんですね。私の家がハンバーガー屋さんなんじゃないかどうかと。

友達がひとりもいませんでしたから、それを知ってる人はいないんですね。少し遠くの私立へいったものですから、私の地元とも縁がありませんし。

どうしたものかと私は弱りました。これがいじめというものかと思ったりもしたものです(笑)。でも、土曜の放課後、彼がようやくまともに話しかけてきたんです。

それは、お前倒れたんだって? あんなとこでなにしてたんだ? というような、ふつうの会話でした。ああこの人はふつうの会話ができる人なんだと思って、ほっとしたのを覚えてます。不思議と私は彼とふつうに、といってもポツポツと訊かれたことを答えるだけでしたが、ふつうの会話をしていました。高校生になってほとんどはじめて他人と不必要な会話をしました。うれしかったですね…。いま考えると、それが彼の作戦だったのかもしれません。ふつうじゃない私とふつうに会話を成立させるための準備として、突拍子のないことを言い続けていたのかもしれません。

それから、日曜日に、彼が私の散歩についていくといってきました。デート? いいえ、そんなものではありませんよ。彼がクラス中に聞こえるように言ったんです。こいつの家がワックドナルドかどうか改めて確かめてくる、と。ええ、しつこい(笑)。そういう建前なんでしょうかねえ…。

私は平静を保っていましたけど、内心すごくうれしかったんです。彼は顔も悪くなかったですし(笑)。うれしくて、でも同時に絶望したんです。だって、男の子とどこに行くかなにするか、なにを喋ればいいんのか、なにを着ていくか、まるっきりわからないんです。妄想はたくさんしていたんですけど、いざとなると…(笑)。すごくうれしかったんですけど、家に帰ってから同じくらい落ち込みました。たくさん、寝ないでいろんなことを悩みました。

それでまあ、当日着ていった服が、これは思考が袋小路にはまった結果、学校指定のジャージの上に古びたダッフルコートを着ていくという、残念なものでしたね(笑)。これは理由があるんです。というより、その理屈に私自身が負けたというか、誤った判断に持っていかれたというか。彼からも言われたんですけど、地味に大胆なカッコしてるなお前って。そうしたら答える準備ができてたんですね。いや、たくさん歩くからこれが一番歩きやすいカッコなんだ、と(笑)。

彼は、なるほど確かに、と言って妙に納得してました(笑)。

それで、まあ、一緒に出かけたんです。行くところもないので、玉川上水付近へ(笑)。あんなとこただの住宅地なんですけどね(笑)。でもそこは私の庭みたいなものですから安心なんです(笑)。それでとにかくずっと歩くんです。会話ですか? ありませんでしたね。彼も、もくもくと歩いてました。

それでだいたい1週して、また駅前にもどってきたんです。歩きはじめてだいぶ経って、ついに彼が言葉を発したんです。疲れた、ワックのポテトが食べたい、と。

ええ、そうなんです。彼も店内でうれしそうに言ったことをよく覚えています。

俺は世界で一番ワックのポテトが好きだ、って、とってもうれしそうに(笑)。

そこですね。ああ私はこの人と恋人になっていずれ結婚するんだと確信したのは。え? なんでです? おかしくはないですよ。だって彼は世界で一番ワックのポテトが好きなんですから。ほんとうに愛しているんですよワックを。そんなワックを興味のない人への嫌がらせの道具に使うわけないでしょう。彼は、みんなが好きでみんなから愛されてましたけど、ほんとの彼はとても不器用で、無口で、必死になってみんなを笑わせていたんです。それが、そのときわかったんです。だから、この人と結婚するんだと思ったんですよ。

だから、お店を出るときに、笑顔で言ったんです。私の家はワックドナルドだ、と。彼は、それはとてもいいね、と言って…え? わかりませんか? まあ…ほっといてください(笑)。

それから、私は彼からいろんなことを学びましたよ。例えば、友達ですね。私が普段妄想していたことを実際に言葉や文章にして相手に伝えれば、山は動く、ということと、他人は所詮他人ということです。これはとても驚きでした。もちろん言葉に出すと責任がついて回りますから、今でも慎重に言葉を選ぶクセがあって、ぎこちなくなってしまうときもありますが、主人がよくそういった細かいところをフォローしてくれました。ええ、妄想は役にたちましたよ。だって頭の中では一人二役三役ですから。常に私がこう言ったら相手はどう思うか、その自問自答の繰り返しなんですよ。ずっと聞き耳を立ててきましたからね、ずっと人を観察、分析してきたってことになってたんです。人生っておもしろいものですよ。

そうですか。そうですねえ、夫婦仲は良かったですよ。でも実際結婚したあとだって、主人から好きだとか愛してるだなんて言われたことはありません。むしろ主人はずっと無口で、たまにポツリとなにかを言うような、まるで高校生のころの私みたいな人でした。でも、その姿を、私にだけは見せてくれるんですよ。それが主人の愛情表現なんです。言葉にはとても代えられないものでした。私も、主人の前では笑顔でしたね。もちろん主人が私にそうしていろと言ったわけではありません。私は主人が私のことを大事に思ってくれていると感じていましたから、笑顔になるんです。主人は、とくになにもしていないのに私が笑顔になることで、無償の笑顔を受け取ることで、私を大事に思ってくれるのです。私の家はワックですから(笑)。きっと主人も世界で一番愛してくれたとおもいますよ(笑)。


成功の証言〜その35 芋を愛し、芋に愛された男の愛した人〜


フライドポテトの常識を覆した男、堀田ミズオ略伝


東京に生まれたミズオは、幼い頃からフライドポテトに目がないことで有名だった。後年ミズオは「芋にメがあったら食えないじゃないか」と、憤慨していたという。

高校進学後、生涯の伴侶、ワック田ポテ美と出逢い、交際。高校生活において、「偏差値をあげるより芋をあげろ」「一教室一フライヤー」「チャイムと同時に塩をふれ」「殴るなら芋で殴れ芋で」等のいわゆるフレンチフライムーブメントを起こすなど、その芋にかける愛と人の上に立つ才能の片鱗を見せる。

大学在学時に、アルバイトをしていた乾物屋の主人から跡取りとして養子縁組の話をもらい、受諾し、越田姓となる。これを期にポテ美と結婚。大学を中退する。

数年後、乾物屋の若旦那として働いている折に、ワックの業績悪化を告げるニュースを聞き一念発起。「揚げた芋が乾物じゃないなら、いったいこの世のなにが乾物だというのだ」との、いわゆるポテト乾物論争の末、両親を説き伏せ、ワック(のポテト)を救うため、江戸から続く乾物屋をフライドポテト専門店へ転身させる。

ワック(のポテト)への愛からくるこのミズオの行動であったが、ミズオのその激しいワック愛からくる様々な言動により、ワックドナルドから商標侵害や特許侵害の疑い等で告訴されるなど、業界から敵視される。

憧れのワックドナルドから敵視されたミズオは、この時期深く落ち込み、死ぬことを考え玉川上水まで足を運ぶが、思ったより水が無くまた思ったより冷たかったことと、玉川上水近隣にある某アニメ美術館帰りの家族連れが自社の商品を食べながら幸せそうに歩いている姿をみて、思いとどまる。

立ち直ったミズオは即刻自社のキャラクターを某ドナルド寄りの見た目から、某アニメスタジオっぽいものに変える等のキャンペーンを展開し、ワックドナルドとの和解に成功する。

その後、「べったりフライドポテト」「フライドポテトっち」「生フライドポテト」等のフライドポテトの常識を覆した商品がヒットし、順調に業績を伸ばし、のちに大企業となる礎を築くも、狭心症のため43歳の若さにてこの世を去る。朝昼晩と飯のおかずに山盛りフライドポテトを食べるような日常の食生活に、病いの原因があったとされる。なお、最期の言葉は「しなびてもポテト」。




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