5話
「噂には聞いてたけど、一人暮らしなんだ」
「ああ、別にどうだっていいだろ」
「結構広い家だよね。うらやましい」
「そ、そうか」
「うん…」
なんで井波がそんなに悲しそうな顔するんだ?沈黙に耐えかねた俺は
「なぁ、勉強しないのか?」
とりあえず沈黙を破っておいた。
「うん、勉強しっよか」
井波はすぐに笑顔を取り戻した。俺の見間違えじゃないか、そう疑ってしまうほどの速さで。こいつもきっと過去に何かあったんじゃないか、俺は密かにそう思った。
「なあ、何の勉強するんだ」
「現国と数学だよ。真冬ちゃん、文系でしょ?俺は理系だから、ちょうどいいかなって思ったんだけど」
「うん」
ものすごく気まずい。空気が重すぎる。できることなら、この場からすぐに逃げ出したい。でも、そんなことはできない。井波だって気まずいはずだ。俺がなんとかしなくては…。
「さっさと勉強終わらせよーぜ」
「あぁ」
そこからは無言の状態が続いた。気まずいと言えば気まずいのだが、自分がやらなくてはならないことがあるから、さっきよりは大分ましだった。結局、一言もしゃべらずに、「勉強会」とか言う名のただの集まりは終わってしまった。「勉強会なのに教えあわないって…」内心疑問に思いながらも、俺はそんなことを言うのが野暮だと分かっているから何も言わなかった。
「なぁ、井波。飯、食べてくか?」
「え、いいの⁉」
井波の目が輝いて見える。そんなに家が嫌なのか?なら尚更
「あぁ、遠慮すんな」
俺の家で食べていけばいい。