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僕は小山の、神社へ続く石段の前で、前にある道路の反対側で座り込んでじっと考えていた。

 行きしなより、明らかに状態は悪くなっている。

 体が震えている。歯をかみしめていないと、小刻みに震えてしまう。

 これは寒さのせいなのか、それとも別の何かなのか。

「行くべきか、行かざるべきか」

 僕は大きく息を吐いた。目を開き、小さくうなづく。

 そんなの、決まっていることじゃないか。

 もう決めたのだ。

 僕は石段を登り始めた。

 神社へ続く石段の入り口のところには、街灯があったが、さびれて誰もいない神社に続く石段のわきに街灯なんてあるわけない。登るほどに、徐々に徐々に暗闇につつまれる。

 僕は携帯を取り出し、ライトをつけた。直進性のない、弱い明かりだったが、無いよりはマシだし足元を照らすくらいのことはできた。

 吐き気がしてきた。

 しんどい。体がだるい。

 石段を登るにつれて、空気が重くなり、明らかな異様さを感じた。

 これ以上近くに来るなという、無言の警告があるみたいだった。

 多分、この”嫌な感じ”を数百倍に薄めたものが虫の知らせとか胸騒ぎと表現されるのではないかと僕は想像する。通常ならば、今ここに近づくということが、有り得無い事なのかもしれない。誰寄せ付けない雰囲気。まるで結界を張ったように。

 このような体の不調があらわれるのは、僕の魂の半分が悪魔だからだろうか。それとも、普通の人間でも、このように感じるのだろうか。どちらであるか、僕には判断できなかった。

 橘天理ならば、分かるだろう。 

 彼女ならば、この異常が何であるのか、どういった種類のものであるのか、分かるに違いない。

 どうして、彼女はここを素通りしたのだろう。

 そしてどうして、僕はこのことを彼女にきかなかったのだろう。

 のど元過ぎれば熱さ忘れるというがまさにそれだ。ひどい風邪をひいて高熱にうなされても治ってしまえばその時の苦しみは忘れてしまう。

 冬の寒さの中で、夏の暑さを思い出すことは出来ない。特に寒さが厳しいときには。

 その逆もしかり。

 橘天理を送るときに感じた感覚も、そして、きっと今感じているい気持ち悪さも、この場所を離れれば無くなってしまい、そして、無くなってしまえば、それは取りとめて大事では無い事のように感じてしまうのだ。

 実際、彼女のアパートの部屋にいた時がそうだ。あの部屋に入ったのは、初めてだったし、女の子の住むところに二人きりでいるというシチュエーションだったのに、不思議に思うくらい、リラックスできていた。ここは守られているという安心感があった。

「僕は今、弱気になっている」

 僕は口に出して言った。

 だけど、石段を登り続ける。

 石段の終点には、灰色の鳥居があった。それをくぐって広くなったところにでる。

 さて、どこにいる?

 どこが怪異の源だ?

 僕は少し上がった呼吸を静め、耳に注意を集中させる。

 あたりは真っ暗で、視覚は役に立たない。今、一番頼りになるのは音だ。

 冷たい風は合間無く吹いている。風に吹かれて乾いた葉っぱのこすれる音がする。

 その中に、僅かに、別の種類の音が混じっていた。何か地面をたたくような音と、人のうめき声のようなもの。

 その音の方向は、前方、右側からだった。

 境内を抜けて、社の後ろ側に出る。社の後ろ側は、杉林が広がっていた。

 杉林の方を注意深く見ると、そこに明かりがみえた。人工的な明かりだ。きっと懐中電灯だろう。その明かりは動かず、光線が横に伸びているので地面に横にしておいているのだろう。

 人の息遣いが聞こえる。そこに人がいるのは間違いないようだ。

 向こうは、まだこちらに気づいていない。

 僕の携帯のライトは足元を照らすだけで、僕は何となくだけど無意識のうちにライトの明かりの部分をを隠すように手で覆っていた。それでも、この暗闇のなかでは、明かりが漏れて目立つだろう。

 僕は意を決して少し近づき、ライトを前方に向けた。

「キャッ…」

 短い悲鳴がした。と、ともにそこにいるであろう人は、懐中電灯をこちらに抜けた。

 まぶしい。どうやら結構立派な懐中電灯のようで、僕の顔が照らし出される。そのまぶしさに、僕はとっさに顔の前に手をやった。

「誰?……九鬼…君?」

 僕の名前を知っている?

「そうだけど」僕はそう答えて、近づいていって、明かりで照らした。

 一瞬、わが目を疑った。

 そこにいた人は竹内雛だった。顔と名前だけは知っている、小学校来の同級生。

 しかし、そこに驚いたのではない。

 彼女の足もとにあったものに、である。 

 竹内雛はひざをついていたのを、僕を見て、お尻をついて女の子座りのようになった。

 その膝の先にあったのは、人の服だった。そして、頭があるであろうところに、頭がなかった。

 しかし、それらが、人形であることは、すぐにわかった。そして、頭のところには肌色の破片と金色の人形の髪の毛があった。

 そして、竹内雛の右手は、石が握られていた。

 よく分からない。よく分からないが、この子は、人形の頭を壊していたのだ。

 二人の間には沈黙があった。それがどれくらいの時間だったかは分からない。多分それは一瞬のことだったはずだ。でも、僕は驚きと状況の把握で精いっぱいで、それはとても長く感じた。竹内雛がまた僕の名前を呼んで、その静寂は破られた。

「……助けて……」

 彼女は消え入りそうな声で、だけど確かにそう言った。


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