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 僕の家は、建坪のそこそこ大きい、庭付き一軒家。駐車場もあるが、そこに車はない。高校一年生の僕と来年から中学生になる妹しか住んでいないのだから、当然といえば当然だ。敷地面積は周りの一戸建てより少し大きく、周りの家の1.5倍程度と言ったところか。一般企業勤めのサラリーマンには少し手に入れがたい家かもしれない。なんにせよ、この家が、親の残してくれた、財産の一つだった。残してくれたというより残されたと言うべきかもしれない。

 僕は、幼いころから、物心ついたころから、この家で生活していた。

 僕と橘天理は家についた。

 リビングのドアを開けると、僕の目線の先にはゲーム機を持った妹がいた。足を伸ばして床にお尻をつけて、ソファーを背もたれにしていた。

 ちなみに、この妹、現在は学校に行っていない。 

 いわゆる不登校である。

 とはいっても、3年前からほぼ不可抗力的な引きこもりになったわけだし、そこから脱却できたのはつい一か月前のことである。もう小学校は卒業間近のなか、もう小学校に行くのは諦めて中学校からきちんと通うという事で決着した。

「ただいま」

「おかえりー。お兄ちゃん」返事はするが、顔はゲーム画面の方を向いたままだった。

 僕はため息をしたが、この妹の態度が原因ではない。

 散らかりきった部屋をみてである。

 リビングは、雑然としていた。

 床の上にもテーブルの上にも本が散らかり、積まれて置いてあるか、開いたまま置かれた本も何冊かあった。テーブルの上には、ペットボトルとコップと昼食を食べた後であろう皿と、食いさしのお菓子があった。

 あと、一応、妹の前には算数のドリルが開いたままに置いてある。というのも、妹は、小学校の3年くらいから学校に行っていないものだから、勉強の面はその時でもってストップしてしまっている。どうやら国語は問題ないらしい。数学ができれば他の科目も出来ると豪語する奴は多いが、僕はそうではなく、国語能力が学問の基礎だと僕は思っている。だから、おおよその頭の出来はいいのだと思っている。しかし、算数は壊滅的にダメだった。こればっかりは仕方ないだろう。算数は勉強する機会がなければ、そうそう伸びるものじゃない。計算だって、足し引き掛け算くらいなら日常でも使うことがあるかもしれないが、割り算となればそうは使わない。

 そして、いま彼女が目下苦しんでいるのが割り算だった。

 正直、足し引きの計算も遅くておぼつかないところがあるのだが、とりあえず今は、もうすぐ始まる中学校に向けて周りに追いつくことが先決である。

 しかし、昨日は昨日で、その日のうちに部屋の片づけておいたのだが、一人で一日で、どうしてこう散らかるのだろう。

「オイース、悪魔ちゃん」僕の後ろから、頭を出すように、天理は言った。

「うげっ、天理ちゃんも来てるのか」

 妹は意外となれなれしく、橘のことを呼ぶ。

「そうだぞ、お客さんが来てるんだから、ゲームはお終いにしろ」僕は言った。

「え、いいよ。別に」橘天理はそう言って、床に散らばっている本を何冊か拾った。

「神話関係だったり、聖書関係だったり、いっぱいあるねー。どうしたの?自分探し?」

 ドキッとする発言だったが、ユーモアのある発言でもある。

 妹は、ゲームを片付けようとしたが(四つん這いでゲーム機の方に近づいて行った)

「いいよ、悪魔ちゃん。いっしょにゲームをしよう」

 と天理が行った。

「天理ちゃんもゲームとかするの?」

「するよー。今はあんまりしないけど」

「うーんでも、二人でできるようなのあったかなあ。ていうか、どんなゲームしてたの?ファミコンとかで遊んでたの?」

「失礼な。初めて買ったのはプレステ3だったよ。とはいっても、過去のタイトルのばっかりやってたけど。RPGは昔のタイトルの方が面白いと思うんだよなー。こんなこと言うと回顧厨みたいだけど」

「みたいじゃなくて、言ってることは明らかにそうだけどね。でも、そう言うんだったら、やってみたいな。お兄ちゃん。買ってほしいな~」

「いや、まだそこにはたくさんの手つかずのソフトがあるんだけど」僕は答えた。

「何でもするから」

「ん?今何でもっていたよね」反応したのは、橘天理だった。

「フフッ。言った。何すればいいんだろ」

「かっこいい。とかでも言っとけば良いんじゃない?しっぽが生えてきて、しっぽ振って喜ぶよ」

 あれ?なんだかさっきから、彼女の中の僕の立ち位置というか、キャラは一体どんな風なんだろうか。

 夕食までの間、一緒にゲームをしたり、勉強を見てやったりしていた。何かもう、近所の子どもと遊んであげる世話好きの優しいお姉さんみたいだった。妹は、天理が来た時に嫌そうな答え方をしたが、まんざらでもないようだ


 夕食を三人で食べて、時間は8時を回っていた。

「さて、それでは、そろそろ失礼しようかな」

 そういって橘天理が立ちあがった。

「家まで送って行きましょうか?」

 僕は一応尋ねてみた。まだ真夜中ではないとはいえ、女子高生が夜道を一人で歩くことは勧められたことではない。もっとも、彼女はただの女子高生ではないが。下手したら僕より強いのだが。というか確実に強いのだが。

 そう考えると、送りとどけた後、僕が一人でいることの方が危険なのかもしれないが、それは僕が暴漢・痴漢に出くわすことはまずありえないだろうから、特に考慮すべきことでもあるまい。

「そうか、そうだな。それではお願いしよう」

 え?意外だった。昨日おとといは、同じようなこといったけど、その時は別にいいと断ったではないか。飽くまで今日も礼儀程度の気持ちで言ったのだが。だたのきまぐれだろうか?

 妹は、テレビを見ていたが、なんだか眠そうな目をしていた。

「おい、ちょっと遅くなるだろうから、適当にお風呂入れて、それから寝るんだぞ」

 橘天理は、これを聞いて、にやにやしながら

「え?なんで、どういった具合でちょっと遅くなるの?」と言った。

 いや、お前の家まで歩いたら20分はかかるだろうが。そういう意味だよ。

 それ以外の意味持たせてくれるのかよ。

 妹は、空返事をして、僕は妹にそれだけ言って、家を出た。


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