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ここ三日間ほど連続して、橘天理は、僕と一緒に下校している。そして、僕の家にあがり、夕食まで一緒にとるという日々がつづいていた。夕食と言っても、レトルト食品が中心の食卓だが。なんにせよ、僕たち、僕と妹の様子を見ることが目的なのだと僕は想像する。早い話が監視だ。僕はそう思っている。
考えてみれば当然のことだろう。僕たち兄妹は一体の悪魔の魂を半々にしてそれぞれの体内におさめている。もし本質が悪魔であるならば、抜け道を見つけようとするはずである。こういった規則や契約を破ることが悪魔の本質であろうし。
気になっていたし、帰る道中、特に話題もなかったものだから、橘天理にこのことを聞いてみた。
「監視?君たちの生活を?」天理は、答えた。
「はい」
「はあ、いやあ私は盗撮とかそういう趣味ないから」
「いえ、そう言うことを言ってるんじゃなくて」違う方向に勘違いされている。ていうか、わざとだろ。からかっていってるだけだろ。
「そもそも、盗撮ってどこが興奮するポイントなのか分からないんだけど、そこら辺の九鬼君の趣味を押し付けられても、ちょっと……」
「だから、違うっちゅうねん」
僕が聞きたいのは、全国をめぐって、謂わば悪魔祓い稼業をしていたという彼女が、この街にとどまって、いつの間にやら高校に転校までしたことだ。
完全に居つくつもりではないか。
実際、僕は制服をきた彼女を見てかなり驚いたのだった。それは、エクソシストだという彼女に、高校に通う身分がちゃんとあることや、年齢相応に二年生に転校してきたものだから、少なくとも1年分の高校の単位を取得していたという小さい点(決して小さくないし大事な点だ。現実世界を生きる者にとっては)もあったけど、それ以上に制服を着た彼女が完全な女子高生であったことだ。
それは、ザ・女子高生といった感じだった。
今まで僕が見たどんな女子高生より女子高生だった。
ショーウィンドーにいれた見本としての女子高生だった。
僕は少し眩暈がしたくらいだ。
「まあ、冗談はこれくらいにして、」天理は話を続けた。
「私的には、君たちの監視とか見張りとか、そういう意図はないよ。強いて言うなら、曲がりなりにもちょっと特殊な能力をもつ君たちと、友好的な関係を築いておけば役に立つこともあるかもなって、思っているくらいさ。あと、確かに監督責任みたいものはあるよ。君たちのような存在を作った張本人でもあるからね。でもそれは私が、君たちの家に行こうが行くまいが、関係ないよ。それとは関係なしに、君たちの動向はかなり綿密に捉えている。例えば、君の妹・悪魔ちゃんは夜、寝静まった後、どんな姿になっているかも知っているよ。夜になると別人のように豹変するものね。おっといけない。夜になると豹変するだなんて、誤解を与える表現だったね。訂正しておこう。ていうか、変な意味はないと付け加えておこう」
話は分かった。僕たちを監視する意図はあまりないことも。本当かどうかは分からないけど、彼女が僕にうそをつくような必要は無いから、きっと本当のことなのだろう。彼女が、僕にうそをついたって仕方ない。僕は嘘をついてまで出し抜くような相手では無いからだ。
しかし、どうしてこうも茶化すようなことを付け加えるのだろう。そういうひょうひょうしいところが、橘天理だと言えば、それまでなのだが。
「誰も誤解なんてしませんよ。どういう風に誤解するんですか」僕は言った。
「淫乱になるとか」
「直球すぎる!」
「痴女になるとか」
「やめろ。人の妹で変なことを想像するんじゃない」
「しかしどうだろう、最近にわかに妹萌えブームが到来しつつあるような気がするし、兄妹関係において、一線超えてしまうなんてタブーだけれど、ここはあえてタブー超克することが、求められているのかもしれないよ」
「そんなことしたらジャンルが変わるし、掲載するところが微妙に変わってします」
具体的に言えば、18禁の方に。
「大丈夫だよ。そんなもの。何を言っているんだ。文学にエロはつきものじゃないか。SEX描写くらい、なんのそのだ」
「これは決して文学じゃねよ。ていうかもうSEXとか言っちゃってるよ」
「うーむ。文学作品とは、何を持ってそう定義されるかという問題はそう簡単な問題ではないが、ここはちょっと脇に置いておいて、要はきちっとした情景描写があればそれらしく見えるのだろう?なに、SEXシーンのみ文学作品なみに重厚な描写を加えればいいんじゃないかな?」
「それはもう単なる官能小説だ!」
しかし、官能小説的展開なんて僕にとっては願ったり叶ったりの展開ではないか。そんなことを思いながら、僕は自宅に到着した。