悪役絶対回避!
その男の子を視界に入れた瞬間に私は唐突に思い出しました。
ここは乙女ゲームの世界だと・・・。
唐突におかしなことを言ってしまい、申し訳ありません。
私は広崎雪姫。5歳です。
え?5歳にしては大人すぎるしゃべりかただって?
そうなのです。
実は私には、生まれたときから前世の記憶というものがあります。
私が生まれた広崎家は、広崎財閥といってさまざまな分野で仕事をやっているまぁいわゆるお金持ちです。
今は、とある家のとあるパーティーに出ています。
お父様が挨拶に出向いている中、お母様と無邪気にお話しているときにふっと視線を感じたので、そちらをむいたらかわいらしい男の子がこちらを見ていました。
なんかどっかで見たことあるなぁと思っていたら、その子の父親らしき人が「ふゆき」と呼びました。
その瞬間、急に頭の中で映像がドバァーーーッとあふれかえり、私は意識を失いました。
「ゆき!?」
というお母様のあわてた声を聞きながら。
目を覚ますとそこは見覚えのある私の部屋でした。
どうやら私はあのまま家に連れて帰られたようです。
「ゆき?おきた?」
「おかあさま。」
あ、お母様ついていてくれたんだ。
・・・大好きです!
お母様のホッと安心したような顔を見て思わず心の中で叫んだ。
「ゆき、おなかすいてない?何か食べる?」
「うん。あのね、おかあさまのおかゆがたべたいです。」
「わかったわ。まっててね。」
「はぁい。」
お母様が部屋を出て行く。
私はぼんやりと天井を見ながら思い出したことを考える。
今まで私はただの転生だと思っていたのですが、どうやらここは、前世でやりこんでいた乙女ゲーム「君と恋咲く学園」の世界らしいです。
このゲームは、花咲学園に転入したヒロインと攻略対象者たちとの恋愛を描く、よくある乙女ゲームだ。
先ほど見た男の子は攻略対象者の一人で藤堂冬樹。
藤堂グループの跡取り息子で、ゲームでは広崎雪姫の婚約者だった。
・・・もうお分かりだろうか?
私の役割は、ヒロインでもモブでもなく、周りに甘やかされ美麗で権力もちの婚約者に執着し、突然出てきたヒロインに婚約者を掻っ攫われ、ヒロインに執拗ないじめを繰り返す・・・悪役キャラなのです。
い、いやぁぁあ!
誰かうそだといってぇえええ!
ぜぇぜぇ・・・。
申し訳ありません。取り乱しました。
落ち着け、わたし。
思い出せ、わたし。
ゲームでは、攻略対象者たちそれぞれに悪役ライバルキャラが存在しました。
個別ルートではそれぞれのルートでしか私たちは出ませんが、逆ハーレムルートでは、全員の悪役ライバルキャラが出ます。
広崎雪姫は、藤堂冬樹ルートと逆ハーレムルートに出ます。
そんな彼女は、逆ハーエンドだと攻略対象者たちに今までの悪事を暴露され学園追放されたうえ、家での居場所もなくなり自殺をします。
藤堂冬樹ルートでは彼に事故を装われて殺されます。
い、いやすぎる!
そんな最後いやすぎる!
・・・絶対回避しよう。そうしよう。
「ゆき?できたわよー♪」
おかゆを作って持ってきてくれたお母様を満面の笑みで迎えながら私は、心に硬く決心をしました。
・・・結論から言わせてもらいましょう。
私は悪役回避に成功しました。
6歳のときにお父様とお母様の離婚話が持ち上がりました。
ゲームでは、私は色々役に立つ(政略結婚的とか政略結婚とか!)ため、お父様に引き取られることになります。
が、しかし、私はお父様が苦手だったのです。
だってお父様、お母様に怒鳴り散らしたり暴力振るったりするときもあるんだもの。
怖いよ。許せないよ。
なので私は泣きながらお母様に引っ付きました。
「いやだぁー!おかあさまがいぃー!」
「ゆ、ゆき!わがまま言わないで、ほら、お父様と一緒ならなぁんでも買ってあげるぞ?」
「いや!おとうさま、こわい!だいっきらい!」
「ゆ、ゆき!?」
なぜかお父様が絶望したような顔をします。
「おかあさまはっ、ゆきのことがきらいなの・・・?」
うるうるっとお母様をみつめました。
「いいえ!大好きよ!」
「じゃあおかあさまといっしょにいてもいい?」
「えぇ、もちろんよ!・・・いいですよね?だんな様。いえ、広崎さん?」
こうして私はお母様、いえ、お母さんに引き取られて葛西雪姫となったのです。
そして、今、私は17歳、高校2年生になりました。
「姫?」
「え?」
「どうしたんだ?ぼーっとして。体調でも悪いのか?」
彼はアイドルグループ「home」のリーダー的存在の一宮麗王20歳。
わたしはれー君と呼んでいる。
私の仲間です。
そう。私は今、アイドルやっています。
きっかけは、12歳のとき。
お母さんと町で歩いているときに大手芸能事務所RAIKAの社長にスカウトされたのです。
RAIKAは、主に男性中心のアイドルが所属する事務所でまぁ、前世でいうじゃ○ーずみたいな感じの事務所です。
最初は断ったんだけれど、社長に熱心に誘われて興味を持って入所しました。
歌も好きだったしね。
それでまぁ、なんやかんやあって、14歳のときに5人組アイドルグループhomeを結成して今に至ります。
「ひーめ!」
「わっ。・・・かお?びっくりしたぁ。」
「へへっ。油断大敵だっ」
今、私に抱きついてきたのは西浦薫18歳。
ちょっと我が強いときもあるけれど基本的にやさしくってスキンシップ大好きなやつだ。
わたしは、「かお」と呼んでいる。
「でも、雪姫がボーっとしているって珍しくない?」
彼は北沢春陽20歳。
とってもやさしくってみんなのお兄ちゃん的存在の人。
私とかおは「はるくん」と呼んでいる。
「・・・・・・。」
くぃっと私の服の袖をつかむのは、有川奏19歳。
私とかおは「かなちゃん」って呼んでいる。
「かなちゃん?」
「・・・なにかあったの?」
心配そうな顔をするかなちゃん。
かなちゃんは、基本的に無口だけど、喋るとよく喋るひとでやさしい。
「あ、うぅん!ちょっと昔のこと思い出していただけ!」
「そっか?ならいいんだけど。」
れー君はほっとした顔をした。
れー君は大人で知的でとってもやさしい。
私が入所したてのときも、よくお世話をしてくれた。
・・・ゲームどおりに進んでいたら、彼らには出会わなかったんだろう。
「homeさん。出番でーす!」
「はーい。今いきまーす!」
スタッフに呼ばれみんな椅子から立ち上がる。
「よし。いくか!」
「おぅ!」
「うん!」
「・・・・(こくん)」
れー君のこえに皆が返事をする。
そして私も笑顔で答えるのだ。
人生は何があるのかわからない。
でも私は、これからも彼らと共に生きていくのだろう。
最後にひとつだけ。
悪役回避できて本当によかった!
今人気の悪役主人公を書いてみたらなんか違う方向になった。
何ででしょう?
子供のころと今の主人公の口調が違うのは、子供のころは家のしつけが厳しかったため。
今はその必要もないため、親しい人には割りと砕けたしゃべり方でしゃべります。(・・・たぶん)