8話 あの2人は夏休みも楽しく過ごすんだろうな
体育祭が終わってから次の登校日、の放課後。
竜輝と冬菜は図書室に居た。
竜輝はお気に入りの本を読む振りをしながら冬菜にどう謝ろうかと悩み、冬菜は竜輝での実験をどう進めるかを考えていた。
体育祭の後と1日の休みを挟んで竜輝は冬菜にどう謝ろうか悩み続けていたのだが妙案は出ないままだった。
妹と母親に呆れられたのは冬菜が何故怒ったかを理解していないからだったが、結局答えは出ていない。
理由も分からず謝ってもまた不愉快な気持ちにさせてしまうと考えると悩むしかできない竜輝だった。
冬菜は1学期中に竜輝ともっと仲良くなって夏休み中に2人で遊園地デートをできるくらいの関係になりたかったのだが、竜輝の矯正に思っていたよりも集中してしまいそんな関係は築けていない。
竜輝は冬菜に遊ぼうと言われれば2つ返事で応えるくらいに冬菜を信用しているのだが冬菜が知るわけもない。
そのまま図書室でズルズルと悩み続ける2人は傍目には物静かな恋人同士にしか見えないと自覚していなかったのだった。
図書室の閉館時間になったようやく2人は重い腰を上げ、ゲタ箱まで無言で歩いた。
竜輝の性格もあって無言を気まずいと感じたことのない2人は初めての気まずさで戸惑っていた。
何を話そうか、何を言えばいいのか。そんな想いが脳内をグルグル駆け巡るだけで先に進まない竜輝はゲタ箱に着く前に冬菜に何でもいいから謝ろうと開き直った。
「あのっ」
「木島君っ」
「「…………」」
竜輝が開き直って謝ろうと思ったタイミングと、冬菜が何でもいいから話をしようと声を発したタイミングが重なってしまった。
「えっと、何でしょうか?」
「いやっ、木島君からで」
「えっ、でも」
「良いから!」
冬菜としては先に話題を作ってもらった方が楽だったので竜輝に話をしてほしかったのだ。
「じゃ、じゃあ俺から」
竜輝の話とは、無論体育祭の後のことについての謝罪だ。冬菜を怒らせたくないと思っている竜輝にはさっきから無言の冬菜は緊張するには十分な迫力を持っていた。
一方の冬菜は初めて見る緊張した竜輝に引っ張られるように緊張した。
今まで無表情だった後輩男子が緊張した様子で自分に話があると言われて期待と不安が混ざり合った妙な感覚に陥っていた。
きっとまた変なこと言って動揺させるつもりなんだろうと自分に予防線を張っていても緊張してしまう、ある意味で初心な冬菜だった。
「この前は先輩の期待に応えられなくてすみませんでした」
誠実な謝罪だった。
しかしこの後にきっと強烈なボディブローが待っているのだと冬菜は予想していた。
視界外からのフックかもしれないとも思っていた。
「それで、先輩が何故怒っていたのか教えてもらえませんか?」
「うっ」
予想通り、予想外な質問をしてきたと冬菜は頬を引き攣らせた。
応えてしまうのは簡単だが、その後が予測不能過ぎた。
竜輝の恋愛に対する考え方まで普通の男子高校生と同じだとは冬菜には思えなかったのだ。
竜輝は周囲から質問されていた御陰で冬菜と自分が恋人と勘違いされていると知っている。冬菜は竜輝が否定している現場を盗み聞きしていたりしたが竜輝の本心は分からない。
竜輝が冬菜をどう思っているのかが分からない。
「え~と、聞きたい?」
「是非」
「理由を聞いても良い?」
「理由を知らないとちゃんと謝れないと思ったので」
「……木島君って、本当に真面目だよね」
「駄目でしたか?」
少し困り顔の竜輝は、冬菜から見たら捨てられた子犬のようだった。
表情は乏しいが中身は普通の高校生なのだ。仲の良い先輩に拒絶されたら竜輝だって当たり前に傷つくと冬菜は知っていた。
「ちょっと、私が恥ずかしくなっちゃう理由だから話したくないの」
「そうですか……」
冬菜の予想通り竜輝は目に見えて落ち込んだ。
竜輝が普通の人と同じくらいの反応をしているということは、それだけ大きく落ち込んだと考えていいのだと冬菜は知っている。
「り、理由は話せないけどさっ」
「はい……」
「今度一緒に遊びに行かない?」
「えっと、どこに?」
「どこでも良いからっ。それで許してあげるよっ」
誤魔化すための方便だったが悪くない案だと思い、冬菜はそのまま夏休みデートの案を押し通すことにした。
「分かりました。その時は俺が持ちます」
「えっ、いやっ、それは駄目だよっ」
いくら許すためのデートとはいえ後輩に全額出してもらうのには抵抗のある冬菜だった。
「私の方が先輩なんだからっ、今回は割り勘にしておこう?」
「でも俺が先輩を」
「良いからっ」
少し強い口調になったのは仕方のないことだった。
竜輝も冬菜の拒絶とも取れる強情さに驚いている。
「今回はさ、私の勘違いで木島君を苦しめちゃったところもあったんだから、お相子ってことにしておこう?」
「……分かりました」
「うん、素直な木島君は好きだよ」
「え、ああ、はい」
「ん? ……っ!」
ナチュラルに好きだと言ってしまったことに竜輝の反応で気付き顔を赤くする冬菜だった。
「後輩としてだよっ、後輩としてっ。じゃあ夏休みに2人で遊園地に行くってことで良いよね?」
恥ずかしさを誤魔化すために無理矢理デートの日程を決めにかかる冬菜だった。竜輝は未だに携帯電話を持っていないのだ。
どこでも良いと言いながら結局は遊園地と決めてしまったことに冬菜は気付かなかった。
「あ、はい。基本的に水曜日と土曜日以外は大丈夫です」
「うんっ、じゃあ細かい場所と時間は今度決めよっか」
下校時間間近のゲタ箱で、仲直りした1組の男女の影があった。
(……もしかして、私、結構大胆なことしちゃった?)
夏休みにわざわざ2人だけで遊ぼうなどと告白しているようなものだ。
よっぽど仲が良い相手ならまだしも竜輝と冬菜は委員会の先輩後輩でしかない。少なくとも冬菜はそう思っている。
そんな2人が夏休みに2人だけで遊園地で遊ぶとなると、どう考えてもおかしなことだ。
(ただの実験で近付いただけだったのに随分親しくなっちゃったな)
嬉しそうにベットから天井を見つめる冬菜は実験のことなど気にしていないように見えた。
(どうにか許してもらえた)
冬菜に遊びに行こうと言われた時は驚いた竜輝だったが家に着いてからは安堵に包まれていた。妹と母親には夏休みに遊びに行くことで許してもらえると話したら微妙な顔をされている。竜輝の鈍感さに呆れた家族だったが何も言わないことにしたのだ。
竜輝の心には冬菜に言われた『好き』が引っ掛かっていた。
竜輝にとって冬菜とは綺麗で優しく、気配りのできる素晴らしい先輩だった。冬菜にだって欠点はあるだろうと思っているが、それを上回る素晴らしさを持っている人だと認識している。
(これからも、話をしたい)
竜輝が初めて自分から話をしたいと思った相手は冬菜だった。
これで1学期は終了です
次回からは夏休みに入ります
でも夏休みのイベントって全部デートっぽい……
まあ、学園恋愛実験ものですし、
題名は校外活動がどうとか言ってますから大丈夫だと思いたいです