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第2話 要件は思った以上に普通でした

この小説は基本的に木曜日に更新する予定です

冬菜は約束通り翌日の放課後に竜輝の教室に来た。

教室には昨日の一件が気になって仕方がない野次馬根性の塊のような女子が数名、部活のために教室で着替えていた男子数名が残っていた。

教室に入ってきた冬菜を見て、竜輝を除いた全員が固まる。昨日よりも気合の入った格好だった。スカートは少し短くなり綺麗な脚線を覗かせ、化粧も嫌味じゃない程度にほどこされている。夏が近いこともあり上着を脱いでシャツの袖をまくって細いが健康的な腕を晒し、結っていた髪は解かれ綺麗な黒髪は大人の女性を思わせる。もしミスコンが開かれたら十分優勝を狙えるレベルだった。


昨日よりも断然強い緊張感が教室に漂っている。冬菜の気合の入った格好を見て影響されているのかもしれない。

教室内でただ1人無反応な竜輝は本を読んでいて気付いてないだけだ。冬菜が前の席に座ってようやく来訪に気付いたらしい。本に紫の栞を挟んで机の横に掛けてある鞄にしまった。


「待ってもらっちゃってゴメンね」

「いえ、今日は特に用事も無いので気にしないでください」

「そう、良かったわ。あれ? じゃあ昨日のは気にした方が良いの?」

「どちらでも」

「なら気にしないことにするわ」


冬菜の楽しそうな声にも竜輝は無表情だ。不機嫌とかではなく、元から表情が出にくいだけに感じられる。ただボンヤリしているとも思えるが、首を傾けて先を促しているのは冬菜にも分かった。

だが冬菜は何となく聞いてみたいことがあったので先に質問することにした。立ちっぱなしもなんだと思い、剥き出しの足を組んで竜輝の前の席に足を組んで腰かける。


「このクラスって、もう席替えしたの?」


竜輝の名字は木島、どうあっても窓際にはならないイニシャルだ。このクラスの先頭が『あ』だとしたら急に『き』に飛んだことになる。


「テストが終わった直後にしました」

「ああ、1年生には節目だものね」


何事も初めてというのは貴重だというのが冬菜の持論だった。


「それで、何の話なんですか?」


教室の空気が変わった。

周囲に残っていた生徒たちが盗み聞きしようと必死なのである。当の本人たちはいたってマイペースだ。


「うん、私と君の委員会の話」

「ああ、体育祭実行委員の先輩でしたか」


教室の空気が一気に緩んだ。

生徒たちの意見を代弁するなら『なんだよ、そんな話かよ』である。緊張していた自分たちが馬鹿みたいだとも思っている。

竜輝としてはだから見覚えがあったんだなと納得した瞬間だった。


「君と私は当日の遊撃以外は準備の手伝いくらいしかやることはないよ。私は遊撃の副リーダーになっちゃったから遊撃担当の子に伝えて回ってるの」

「遊撃、ですか?」

「本部に居て人手が足りないって言われたところを手伝いに行くの」

「ああ、分かりました」

「でね、君の出場種目とかってもう決まってるの? シフトを組むのに必要なんだ」

「まだです」

「なら仕方ないかな。じゃあ決まったら教えてくれる?」

「分かりました。教室はどこですか?」

「携帯に連絡してくれれば良いよ」

「持ってません」


教室を沈黙が支配した瞬間だった。

この現代社会で持ってないとは冬菜もクラスメイトも思っていなかったが、クラスメイトは納得した。竜輝と連絡を取って遊んだという生徒を聞いたことが無かったのだ。

しかし、冬菜は1つだけ気になることがあった。


「あれ? じゃあ昨日の約束はどうやってしたの?」

「定期的に顔を合わせる相手なのでその時に約束すれば良いだけです」

「あ、そうなんだ」

「それで、クラスを聞いても良いですか?」

「そうだね。私の教室は2-2、決まったら……君なら気にしないで来れそうだね」

「なら決まったら報告に行きます」

「うん、よろしくね。ところでもう1つ、こっちは相談なんだけどね」


またしても教室の空気が張り詰める。このクラスの生徒たちはよほど冬菜が気になるらしい。先輩からの相談に耳を傾けているだけの竜輝は一般的には普通なはずなのだが、この雰囲気の中で何も気にしていない時点でかなり感性がズレていると言えた。

冬菜は同じ体制で疲れたのか、足を組み換え相談を口にした。


「次の会議までに新しい体育祭の競技案を考えておいてほしいの。じゃ、よろしくね」


そう言って同じように去って行った冬菜を見送って竜輝は帰り支度を始めた。

そうは言っても鞄を持ち上げて席を発つだけだ。冬菜を見送ったのは一瞬だけ新しい競技について考えてて話が終わったと分かってなかっただけだった。

ただ事の成り行きを見守っていた男子生徒の1人が竜輝に話しかけた。


「木島、飯島先輩って」

「体育祭実行委員の先輩らしい」

「いや、同じ仕事する先輩の顔くらい覚えておけよ」


そうは言っても竜輝も自分が遊撃担当だと初めて知ったのだ。

1年生は体育祭で何をすればいいのか分からない。だから1年生の仕事は3年生が割り振り、2年生が教えるのである。

しかし2年で初めて委員会に入る者も居るので説明が必要ない仕事がいくつか用意されている。その内の1つが遊撃だった。

しかしそんなことは言い訳にしかならないし伝えるのも難しいので竜輝は素直に次からは気を付けると言って教室を後にした。




(やっぱり無反応だったなぁ)


冬菜は自分の容姿にそれなりに自信があった。自分が客観的に見て綺麗な部類に入ることを知っていた。昔から男子に告白されてきたのだ、気付かない方がおかしい。

そして昨日の無反応は偶々自分の服装が趣味に合わなかったのかを確かめるために本気で着飾ってみた。しかし竜輝は無反応だった。


これはチャンスだと思った瞬間だった。


恋愛に興味が無い男子やもっと可愛い女子が近くに居る男子でも一瞬だけは自分の方を見る。その後はやはり自分の方を見なくなるが、最初から自分のことを無関心な目で見る男子は初めてだった。

小説やドラマでは竜輝のようなキャラクターが自分のようなキャラクターから熱烈なアタックを受けて最後はハッピーエンド、というのはよくある話だ。


(本当にあんなこと、あるのかな?)


だから冬菜は決めたのかもしれない。竜輝を使ってちょっとした実験をしようと。




(新しい競技……思いつかないな)


帰り道、竜輝は冬菜から出された宿題に頭を悩ませていた。

彼の登下校時間は1時間、家から駅まで徒歩10分、電車が乗り換えなしで40分、駅から学校まで徒歩10分だ。

徒歩の間は読書もできないので暇潰しになるものはないかと考えると冬菜の宿題が思い浮かんだのだ。

しかし思いつかない。


(こうなったら学園物の小説に出てくる競技でも提案してみようか)


彼は冬菜に対して、最近知り合いになった先輩程度の感情しか持っていなかった。


冬菜の竜輝に近付く目的発覚です

変な理由ですね~

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