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第1話 いきなりで反応できなかった

『フェンリルさん頑張る』の息抜きで書いた小説です

普通なようで天然な少年と、変わっているようで普通な少女の学園生活となっております

木島竜輝は割と名前負けしている男子生徒である。

字面を見てから本人を見るととても竜輝という字が似合わないほどに印象が薄い。

10人の女子にブサイクかと聞けば全員から違うと答えてもらえるだろうが、イケメンかと聞けば同じように違うと答えられるだろう。

高校1年生の平均と比べれば背は少し高いが、それも目立つほどではない。体型も少し細身だが普通と言える範囲だ。顔は目と鼻と口のバランスは崩れていないだけで、まるでマネキンのように特徴が掴めない作りをしている。美術の時間に互いの顔を描くように言われてパートナーが苦労していたほどだ。


そんな彼にも得意科目と不得意科目はある。

国語と数学が得意で化学と社会全般が苦手だ。英語と物理は平均程度だった。校内での学力を見ると真ん中より少し上といったところで、結局特徴のない成績に落ち着く。

よく考えてみれば得意科目で不得意科目分を補っているのだから普通の話である。


趣味は読書で休み時間は持参した本を読んでいることが多い。

席の近い生徒と話をすることもあるが、それも長い時間ではない。授業と授業の間は10分しかないのだから長時間話すこともできるはずがないのだが、彼は昼休みはたいてい1人でどこかに移動する。行先は日によって様々だがクラスメイトはそのことを知らない。


クラスメイトは彼と仲の良い人を教えてくださいと言われても答えられないだろう。何せ彼らも竜輝の友人を知らないのだから。

竜輝と自信を持って友人だと言える人物は少ない。彼は偶々席が近かった生徒と話すだけだ。読んでいる本について話せる生徒も居るがブックカバーがしてあるので本の中身が分かることは稀である。


だから、竜輝のクラスメイトは上級生が竜輝を訪ねてきて驚いた。


2年生の飯島冬菜はそれなりに美人だ。パッチリした二重の目に逆卵型の綺麗な輪郭、よく見ると意外と鼻は高くて、唇も万人受けする小ぶりなものだ。長い髪は毛先の方で結われている。

入学してから今までに10人から告白され全て振っている。しかし男の影は無い。

筆頭と目されていた生徒会書記の男子生徒も雑談で違うと判明した。そもそも書記には中学時代から付き合っている女子が他校に居た。


「木島竜輝君は居る?」


高校2年と高校1年では、当人たちにしか分からない圧倒的年齢差がある。それを感じる人も居れば感じない人も居るが、飯島冬菜に話しかけられた女子生徒は感じる側だった。

冬菜は普通に話しかけたつもりだったのだが、委縮してしまいオズオズと窓際の前から2番目の席を指した。


「ありがとう」


優しげな冬菜の声に女子生徒はなんとか答えられたが、戸惑いと緊張は隠せていなかった。

高校生になって初めてのテスト結果を噛み締めている生徒が多い中、読書に夢中になっている。

テスト結果は帯状の紙切れ1枚、各教科の答案はとっくに返されていて見るのは校内順位くらいのものだ。

冬菜自身は普通に歩いているつもりだが、1年生には悠然と歩いているように感じられていた。偶に冬菜の同学年でさえ少し雰囲気に押されるのだ。1年生に冬菜の雰囲気に対応できる者が居るはずもなく、冬菜と竜輝の間で談笑していた生徒は軒並み道を開けていた。

冬菜は苦笑しそうになるのを抑えていたが、できたかは確信が持てなかった。


「君が木島君で良いのかな?」

「……誰ですか?」


警戒心剥き出しの竜輝は冬菜を知らない。冬菜は2年では成績も良い方だが圧倒的トップでもない限り入学して3か月、部活に入ってなので先輩からの情報も無い竜輝が知るはずもない。冬菜はそれなりに美人と有名だからそういう人が居るということくらいは竜輝もそのうち知ることになっただろう。


「私は2年の飯島冬菜、ちょっと話があるんだけど放課後に会えないかな?」

「今日は無理です」


冬菜の大胆とも取れる発言を竜輝は即拒否した。口調から拒絶というよりも答えを用意していたと思わせる。冬菜も自分からの誘いを即決で断られたことはなかったので少し驚いている。

1番驚きハラハラしているのは周囲のクラスメイトである。


「理由を聞いても良いかしら?」

「知り合いとの待ち合わせがあるんです」


一瞬、クラスメイトは浮足立った。まさか竜輝に女か、と生徒の何人かが期待したが直ぐに止めた。竜輝の表情はあまりにもいつも通りの無表情に近いボンヤリしたものだった。彼女との待ち合わせをあんなボンヤリした顔で話されて堪るかと全員が思った。


「それなら仕方ないわね。なら明日は?」

「平気です。放課後どこに向かえばいいですか?」

「ここに居てくれれば良いわ」

「分かりました」


止めてくれと思ったクラスメイトは悪くないだろう。冬菜の雰囲気で誰も彼もが緊張していたのだ。それがまた来るとなれば休ませてくれと言いたくもなる。

来た時と同じように、悠然と教室を出ていく冬菜を見送った生徒たちは読書を再開した竜輝を見て思う。


『コイツにどんな用事だったんだ?』


その答えは翌日になるまで分からない。

ただ1つ分かるのは、竜輝の反応の薄さを羨ましく思う自分たちが居たということだけだ。




(面白い子だったなぁ)


冬菜の竜輝に対する感想はそんなものだった。

自分が他人にどう見られるかを冬菜は自覚している。同級生どころか気の弱い先輩にすら少し委縮されてしまうのだ、嫌でも自覚することができた。

ましてや後輩ならば緊張でガチガチになるのも仕方がない。しかし竜輝は平然としていた。自分が声を掛けた女子生徒も他の後輩たちも道を開けるのがやっとだったあの教室内で竜輝だけは終始何の反応も無いように見えた。


今廊下を歩いているだけで自分の周囲には人が寄り付かない。どこか緊張した様子でこっちを窺っていると言っても良い。これが普通の反応だ。

だから、普通でない竜輝に冬菜は興味を示した。


(ちょっとは面白いことが起きると良いな)


そんなことを期待されている竜輝は、何も気にせずに読書に勤しんでいる。




(どこかで見た気がする)


それが読書を再開する直前に竜輝が思った冬菜への感想だった。

何の関わりもない先輩を見る機会など校内で擦れ違ったか消去法で入った体育祭実行委員会の会議の場に居たかの2択だろうと思い竜輝は考えることを止めた。

冬菜のクラスも知らないのに連絡を取る手段は無いのだから、素直に明日の放課後を待てばいい。

それよりも大事なのは読書だ。


(結構良いところだ。先生が来るまでもう少し時間があるな)


人には絶対分からない程度にウキウキしながら、竜輝は読書を再開した。


基本的に本編の最後に冬菜と竜輝の感想のようなものが入る予定です

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