第2-1章
第2章 学校へ行こう!
「がはっ!」
え、何!? この痛みは? 敵襲? 敵襲か!
「敵襲だ!」
勢いよく体を起こす。
「いきなり何!?」
「え?」
情けない声を漏らす。
「いや、だって俺の腹に打撃を受けたような痛みが・・・」
「布団と間違えてアンタを踏んだだけだから気にしないで」
「気にするわ! てか、まず謝ろうよ!」
「ああ、布団にね、わかったわ。ごめん」
「俺は布団以下の扱いですか!」
「創真こそあなたの上で寝てすいませんって、布団に謝るべきでしょ?」
「え? いやなんで? ていうかこれが正しい布団の使い方だろ」
「まあ、そういうことにしといてあげるわよ」
「ああそりゃどうも」
投槍に返す。
「今何時だよ」
「八時だけど」
「朝っぱらから、あんま騒がせないでくれ」
「最高の目覚めでしょ」
「そーですね。どーもありがとうございます!」
「そう、じゃあ毎日起こしてあげるわ」
「それだけは勘弁してください」
土下座をして頼む。
「そう、じゃあ止めてあげるわよ」
なんか、物凄く残念そうに見えた。
「まぁ、それはそうとして、もうそろそろ行くから準備しなさい。真央がもうそろそろでご飯できるって言ってたから」
「へーい。じゃあ着替えるか・・・あ!」
「どうしたの?」
「昨日の俺の服洗濯した?」
「うん」
「俺、服あれしかないんですけど・・・」
「ドンマイ」
笑いながら答える。
「俺はなにを着ればいいのでしょうか?」
「私の制服着る?」
「それは旗からみたらただの変人だろ」
「確かに変人だけど・・・ なら、ジャージにする?」
そこは否定してくれないんですか。
「それなら・・・いいか」
「じゃあ取ってくるから待ってね」
「おう」
少し経って戻ってきた。
「はいこれ」
手渡せたのは、赤色のジャージで肩から腕にかけて白い線が二本入っている。ズボンも側面に二本線が入っている。
「まあしょうがないか」
渋々着替える事にする。
「私はご飯食べて待ってるから」
「おう、すぐ行くから」
(ハラもへってるし、すぐ着替えっか)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おまたせ~」
「真央これ美味しいね」
厚焼き玉子を指す。
「そうでしょ、今日のはかなり上手くできたから」
「流石真央ね」
「ふっふーん」
胸を張って誇る。
(あれ、聞こえてなかったのかなもう一度)
「おまたせ~」
「ご馳走様、美味しかったよ、真央」
「どうも、ありがとう」
笑顔で答える。
「ねー無視しないでって! 泣くよ俺、このまま無視し続けるとマジで泣くよ!」
二人に尋ねる。
「はいはい、わかったから、泣かないで」
「お兄ぃ結構可愛いですね」
真央ちゃんの言葉に赤面する。
「いただきまーす」
恥ずかしいので誤魔化すためにご飯を食べ始める。
今日の朝食はご飯、焼き魚、厚焼き玉子と和風で揃えられていた。
「お、マジで美味っ」
「そうでしょ」
だから何で真希が威張る。
「お兄ぃよく似合ってるよ」
(俺が真希のジャージ着てることを絶対おちょくってるだろ)
「褒められてもあんま嬉しくないんだが」
「いいから、早く食べちゃいなさい」
真希が急かす。
「別にそんなに急がなくてもいいんじゃ」
「アンタが試験で苦しむ姿が早く見たいのよ」
「なにその黒い発言わ!」
「だって面白そうなんだもの」
「面白くも何とも無いと思うんですけど・・・」
「それは見てからのお楽しみ。だから早く食べなさい」
「はいはい」
(折角の美味い飯なのに、なんでこんな急かされなくちゃならんのか・・・)
「ご馳走様」
(あーもう食べ終わったよ)
食器を流し台へと運ぶ。
「よし、じゃあ行くよ」
無理矢理手を引っ張って玄関へと連れ去る。
「いや、ちょま、まだ歯も磨いていないんですけど!」
叫ぶが普通に無視される。
「はい! 靴履く! よしじゃあ行くよ」
「あ~もう、はいはい」
勢いに押され靴を履く。
「いっていきまーす!」
「いってきます」
元気な声と疲れた声が木魂する。
「同伴出勤いってらしゃーい」
元気な声が家から響く。
「違うわ!」
「もう、恒例だな」
「何か言った?」
鋭い眼光が向けられる。
「いえ、何も」
「んじゃ、行こー」
「ちょ、走んなくてもいいんじゃ?」
「なんか、気分的に」
「はぁー」
ため息を吐きながら振り回される。そして、十五分程走らされた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここよ」
「やっとついたか。て、おーすげぇ」
御友高校――クラシックな外観で雰囲気のある造りである。
「とりあえず、事務室に行きましょう。こっちよ」
向かう方向を指差し、促す。
「ん、ああ」
校舎に見とれて止まっていた脚を動かし、真希に付いて行く。
正門から右手にある来客兼職員用の玄関前へと着く。
「必要書類とか用意してあるのか?」
「それなら、昨日のうちに恵理奈さんが送っといてくれたみたいよ」
「流石恵理奈さん、手際がいいな」
「いいから行くわよ」
入り口のスロープを登り玄関の中へと入る。
床には黒いタイルが敷き詰められ、壁や天井は清潔感にあふれた純白である。
外装も然ることながら、内装もデザインに凝られていた。
「すいませーん」
事務の職員の人が感じよく返事を返す。
「何の御用でしょうか?」
「こいつが今日編入試験受けるんですけど」
と、俺の事を指差す。
「では、受験される方のお名前の確認をよろしいでしょうか?」
受付の女性が俺に尋ねられた。
若干なんでその服着てんの? という目線を感じたが気にしない。
「平井創真です」
手元にある書類(?)を確認しながら。
「はい、承っております。ではこちらに」
女性が事務室から出て案内を始める。
「じゃ、いこう」
「おう!」
だが、此処で立ち止まる。
「どうしたの、創真?」
「土足でいいのか?」
「いいのよ、うちの学校は、早く行こ」
「あ、うん」
短いやり取りをし、受付の女性に付いて行く。
廊下を突き当たりまで歩き、左に曲がった正面にある部屋へと案内された。扉の上にあるプレートには小会議室と記されていた。
「ここで筆記試験を行います。カンニング防止のため携帯電話などは、私か彼女に預けて下さい」
「あ、俺携帯持ってないんで大丈夫です」
「そですか、では軽く筆記試験の内容について確認しますね。教科は英語、国語、数学の三教科。それぞれ時間は六十分間です。わかりましたか?」
「あ、はい! あの時間が余ったら次の教科を始めてもいいですか? 後、全て解き終わった時に試験終了にして貰いたいんですけど・・・」
「三教科それぞれ間に休憩無しになりますが、それでも構わないのなら可能ですよ」
「それでお願いします」
「はい、わかりました。それでは、試験用紙を持ってきます。筆記用具は持参されましたか?」
「あ、忘れました」
正確には準備する時間もなく、無理矢理連れ出されたんだが。
「では、こちらで用意しますので少々お待ち下さい」
そして、先ほどの道のりを戻る。
「そうだ、創真一つ良い事教えてあげる」
「何だ?」
「この学校は成績優良者には、補助金だかなんだか忘れたけど、まぁ何かしら良い待遇があるから頑張りなさい」
「そういう事はもっと早く言おうよ! それ知ってたら少しは勉強したのにさ」
「だって、今思い出したんだもん。それに、勉強しても意味無いって言ってたのは誰だっけ?」
「さ、さあ、誰だろうね~」
「自業自得ってやつなんだから、頑張んなさい」
「・・・ああ」
俺のテンションが下がってきた所に受付の女性が戻ってきた。
「ては、試験を開始しますので、受験者の方は中に入って下さい」
「あ、はい」
受付の女性に付いて中に入る。
「では、そこのせきに着いて下さい」
「はい」
小会議室という事だけはあって勉強机ではない机が円形に並んでいる。
「私はこの試験の監督をしますので、不備等があったら言って下さい」
「はい」
「では、180分三教科連続の試験開始」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――80分後
「すいません、終わりました」
「早いですね、もういいのですか?」
「大丈夫です」
「それでは、終了します。外で待っていてください」
「はい」
そして、外に出る。
「お待たせ」
真希がいつ持ってきていたのか分からない本を読んでいた。
「思ってたよりは早いじゃない」
「案外簡単だったからな」
「ふ~ん。そういえば何であんな注文したわけ?」
「あんまり真希のこと待たせたくなかったからな。それでだ」
「あっそう」
会議室の中から受付の女性が出てくる。
「別の者が次の試験場へと案内しますのでお待ち下さい」
「え? あ、はい」
(これで終わりじゃないのか?)
「真希、これで終わりじゃないのか?」
「このあとは、能力検査があるのよ」
「何をするんだ?」
「その人の能力のレベルを測るのよ」
「で、どういうことをするんだ?」
「それは人によって違うからわからないわ」
「そうなんだ」
「あ、丁度誰か来たじゃん」
廊下の奥の扉が開けられ、一人のシルエットが見える。
「あれ、どっかで見たことがあるよーな」
真希が目を細めて見ている。
「はろ~真希ちゃん」
「あ、華菜娃さん」
「誰?」
耳打ちで真希に尋ねる。
「恵理奈さんの知り合いで、能力の研究が専門の人よ」
「なーに、ヒソヒソ話してるのかな?」
華菜娃さんが茶化すように訊く。
「今、華菜娃さんの事紹介してたんです」
「あ、どうも、初めまして」
頭を軽く下げる。
「え~と、平井創真君だっけ」
「はい、そうです」
華菜娃さん――見た目は30歳前後の短髪でスラーっとした長身の綺麗な人だ。
「君は何でウチのジャージを着ているのかな?」
(ごもっともな反応だとおもいます。俺も同じ立場だったら絶対に訊いている)
「学校に行くからそこの学校の服装の方がいいと思ったんで」
(これで誤魔化せりゃいいんだけど、何で誤魔化すかって言われたら本当のことを言った方が何で? て訊かれそうだからな)
「そーなの? 私服でもよかったのよ」
「そうですか」
「そーです。あっ、次の能力検査を担当するのが私、鏡 華菜娃です。よろしく」
爽やかな笑顔で手を差し伸ばしてくる。
「よろしくお願いします」
差し出された手を握り、握手をする。
「ところで何でここに居るんですか」
真希が華菜娃さんに疑問を投げかける。
「能力者の割合ってがくせーが約八割じゃない。それに高校生はその中の約四割を占めているから、能力の調査するにはちょーどいいのよ」
「そうなんですか」
「納得してくれた? それじゃー、案内するから付いて来て」
踵を返し、白衣を翻し、先程入って来た扉から外へ出る。
渡り廊下を歩き続け一つの建物の前で脚を止める。
「ここが今回、能力検査を行う実演小屋だから」
「結構大きいし、綺麗ですね」
建物の回りには良く手入れの行き届いた草木が茂っており、実演小屋の外壁には蔦の植物が張り付いており、緑の壁が弧を描いて広がっている。
「鑑賞し終わった? じゃー、中に行くよ」
木製の扉を開け中へと入る。
「うぉ、中も凄い」
思わず声を漏らしてしまった。
中には木目を基調としたモダンな造りになっている。目の前の廊下の両側には向かい合う様に幾つか扉が付いている。
その廊下を渡り辿りついた部屋の中央には螺旋階段が上下に伸びており、それを中心に円形になっている。
今来た廊下とは反対側の方には大きな窓が取り付けられ、太陽の光が降り注いでくる。
窓側の方にはテーブルとイスのセットが幾つか設けられ、壁沿いにはベンチが設けられている。
「ここは、生徒たちの憩いの場として結構使われているの。昼食時には大繁盛しいるのよ」
「確かにそうでしょうね。こんなに良い場所ですし」
「でー、平井君。君の能力はなんだい?」
「えっ、え~と」
(どうしよう、能力何にしよう。あーもう、何でもいいから適当に言うか!)
「・・・目。目の能力です」
(これで、だいじょうぶか?)
「目の能力って事は視力か動体視力の強化又は、透視のどれだい?」
(おお! よかった大丈夫みたいだ)
「視力と動体視力どっちも大丈夫ですよ」
「おー、凄いね。じゃー下だ。付いて来て」
螺旋階段を降り地下2階へと来た。
造りは螺旋階段を中心にして四方に廊下が伸びそれぞれの廊下の右側だけに扉が付いている。
地下も上の階と同じ造りで円形になっていた。
「平井君の能力を検査する部屋はこっちね」
付いていき部屋の中へと入る。
「私も入っていいんですか?」
真希が訊く。
「邪魔さえしなければいいよー」
軽く答える。
「じゃあ失礼しまーす」
真希も中に入る。
「じゃあ。平井君そこに立ってくれ」
テープで目印が張ってあるのでそこの前に立つ。その間に華菜娃さんが何か良く分からない機械の横の椅子に着く。
「じゃー、先に動体視力の検査を始めるから、前を見て」
前って壁しかって思い見ると、壁ではない別のものが広がっていた。
「ここって地下なんじゃ・・・」
目の前に広がっていたのは、広い空間だった。少なく見ての奥行きは1km以上あった。
「これってどういう仕組みなんですか? どう見てもおかしいでしょ」
「ってことはこれを初めて見たのか、これは空間調節って言って、空間の奥行きをある程度変えられるわけ」
「へぇ、凄いですね」
「んじゃー、軽く説明するよ。あそこにピッチングマシーンがあるのが見えるね」
空間調節の中にあるピッチングマシーンを指差す。
「あそこから野球ボールを飛ばすからそこに書かれた数字を当ててね」
手元にある野球ボールに数字を書き横の機械に入れる。
「さっきから気になっていたんですけど、その機械は何なんですか」
箱型の機械にアンテナのような物が一本伸びていた。
「これは、流化転送機って言って空間調節の中にあるあれに送るの」
と、空間調節の中にある、似たような機械を指す。
「あっちのは流化受信機って言って流化送信機から送られた物を受信する物よ」
「でも、何であんな近くにあるのにそんなものを使うんですか」
「あの中って完璧に安定した空間じゃないから、人が入るには危ないからこうゆー機械を使うってわけ」
「そうなんですか」
「でー、ついでにあそこに見えるもう一つの機械は捕球くんで、送ったボールをピッチングマシーンに入れてくれるの」
いつの間にかに送られていた野球ボールを捕球くんが忙しなくピッチングマシーンに入れていた。
「じゃー、始めるけどいい? 三桁の数字が書かれたボールを五つ飛ばすから」
「はい、わかりました」
「んじゃあ、3・2・1・スタート!」
ピッチングマシーンから物凄い勢いでボールが五連続で飛び出した。
「早!」
真希が声を漏らす。
「351、946、476、204、637」
「え、見えたの!?」
真希が驚く。
「はーい、全部正解。時速300㎞だからレベル7だね。もうちょい速さ上げるね」
「はい」
「私、全然ボールを追うので精一杯だったんだけど」
華菜娃さんがボールにまた数字を書き流化転送機に入れる。
「んじゃあ、始めるよ。3・2・1・スタート」
先程よりもさらに早いボールが連続で飛ばされた。
「915、740、335、692、294」
「・・・正解。時速500㎞だからレベル10ね。凄いじゃない!」
「そりゃどうも」
頭に手をのせ軽く頭を下げる。
「あめでとう、創真凄いじゃん」
と、肩を軽く殴る。
「サンキュ」
「この学校初のレベル10ね。今まではレベル8までしかこの学校にはいなかったのよ」
「え、でも真希って――」
いきなり真希に連れ出される。
「創真、私がレベル9ってことは皆には内緒にしてるの」
小声で話す。
「でもなんで?」
「何かと面倒なのよ、学校で一番レベルが高いとなると色々な仕事とか回されるから、嫌なのよ」
「へ~、そういうもんなんだ」
お互いに小声で会話を続けた。
「な~に、二人でいちゃついてるのかな?」
華菜娃さんが近づいて来る。
「いや、なんでもないです!」
真希が慌てて返す。
「そう、じゃー次は視力の方を測るね」
言い放ち、キーボードを操作して、空間調節の操作をする。
「とりあえず最初はレベル5の5㎞からね」
「はい」
「今私が打った言葉がむこーにあるモニターに表示されるから、それを読み上げてね」
「わかりました」
俺は右手で右目を押さえる。
「それでいーの?」
「あ、はい視力はどっちも同じなんで」
「じゃー、はーい、どーぞ」
言い切ると同時に打ち終える。
「・・・・・・」
「どーかしたの?」
華菜娃さんが首をかしげる。
「あれを読むんですか」
左手で指を指しながら訊く。
「そーよ、指示どーりにね。じゃないとカウントしないから」
「・・・はい」
一呼吸置く。
「俺に構わず先に行け!」
「・・・。どうしたの創真。元から壊れてたけど、余計壊れた?」
冷たい視線が注がれる。
「いや、あそこに『俺に構わず先に行け!(感情を込めて)』って書いてあるんだよ!」
必死に弁解する。
「せいかーい」
暢気な声を出す。
「華菜絵さん、なんで、こんなの出すんですか!?」
声を荒げて訊く。
「私が少年漫画が好きだから。それに、なーんか、かっこいーって思ったからよ」
笑顔で答える。
「いまどき、そこまでベタな漫画ってあるんですか?」
呆れながらも訊いてみる。
「それが、たま~にあるのよ」
「すなんですか」
「それじゃー今度は距離倍にして10㎞ね。今度はレベル10だから。ついでにこれが空間調節でできる最大距離ね」
「あのーまたさっきみたいなのを出すんですか?」
「そのつもりよ」
うわ~めっちゃ笑顔だ。
「できれば止めてもらいたいんですけど・・・」
「じゃー考えといてあげる」
考えといてあげるって絶対変える気ないな・・・。
「・・・はい」
「それじゃーどーぞー」
話終えると同時に、キーボードを打ち終える。
「ここは俺が食い止める!」
「・・・」
「真希! 無言は止めて! それに華菜娃さん! やっぱり変えてくれませんでしたね!」
「おー凄いじゃないか。正解だ。視力の方もレベル10だ」
「無視ですか! 俺の事無視で話進めますか!」
「両方レベル10なわけだし、あの距離でボール飛ばしてみよーか」
(これはいくら言っても聞いてくれないな)
「・・・はい」
諦めて指示道理にすることにする。
「始めるから準備しといてくれ」
ボールに数字を書き、流化送信機にボールを入れる。
「・・・はい」
「準備できた? それじゃー3・2・1・スタート」
10㎞先のピッチングマシーンから野球ボールが連続で飛ばされる。
「628、063、118、725、830」
「・・・正解! おめでとー。速遠兼眼レベル10よー」
「とりあえず、おめでと」
ずっと黙っていた真希がやっと口を開く。
「ありがとう」
二人に礼をする。
「この結果なら筆記試験が、れー点でも、たぶん受かるよ」
「おー、本当ですか! よかったぁ」
安心して力が抜ける。
「じゃーこれを持って事務室に行ってくれ」
能力試験結果と書かれた用紙を俺に渡す。
「こういうのって普通監督者が持って行くんじゃ・・・」
「いーのよ、どーせ結果は変わらないんだから」
「そんなんでいいんですか?」
「いーのよ、じゃー早く持って行きなさい」
意地でも持っていく気はないみたいだ。
「じゃ、行こう創真」
「あ、うん」
真希に促され、行く事にした。
扉を開け、螺旋階段を上り外へと出る。
「さっさとこれ渡すか」
「そうね、早く行きましょ」
渡り廊下を渡り、事務室前へと着く。
「すいませーんこれ持ってきました」
事務室の中に告げる。
「え~と、平井創真さんですね。では能力試験結果の用紙を受け取ります」
事務の人に用紙を渡す。
「これが筆記試験の結果です」
事務の人から用紙を渡される。
「早く見して」
真希が急かす。
「よし!」
緊張の一瞬。二つ折りにされている用紙を開く。
「えっ・・・」
真希が驚く。
「全部満点ってアンタどんな頭してんのよ!」
「保障があるって言うから本気で解いたこうなったみたいだな」
空笑いしながら答える。
「へーそうなんだ」
感情のない声が返る。
「平井創真さん合否結果がでましだ。合格です。おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
「こちらに、編入手続きに必要な書類が入っていますので、指定された日までに提出して下さい」
一つの封筒を渡される。
「ありがとうございました」
軽く頭を下げ、そして振り返って真希に話しかける。
「さ、帰ろう」
「そーね、優秀な創真さん」
「何ですかその初めて聞く口調は?」
「いえ、なんでも、じゃあ帰りましょうか」
玄関を出てから真希が携帯電話を取り出し時間を確認し、口を開く。
「丁度昼時だしどこかで食べてく?」
「いいけど、俺一文無しだよ」
「いいわよ、そんくらい奢ってあげるから」
「マジか! サンキュ!」
「ま、合格祝いってことで。少し歩くけどいいでしょ?」
「ただ飯食えるなら何処までも着いて行きます!」
「じゃあ、私はタクシーで行くからアンタは走ってきなさい」
「それは勘弁!」
「まぁ、冗談だけど」
「真希、腹減ったし早く行こう」
「そうね」
真希に付いて何処かへと向かう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆