第1-4章
歩くこと数十分、広い公園に着いた。
「ここは?」
「ここは、創真を拾った、御友高校前公園よ」
「拾ったって俺は物扱いですか!」
「そんな細かいこと気にしない」
「そうですか・・・」
(どうせ、しつこく訊いても全部流されるんだろうな)
「ついでに、ここの先に明日アンタが行く学校があるから」
「そうなんだ。御友高校っていうのか?」
「そうよ。ついでだし、学校も見に行く?」
「いいよ、どうせ明日行くんだし。それよりもう少しここでゆっくりして行きたいし」
「そう、じゃあそうしようか」
「うん」
近くにあったベンチに座るなり、唐突に創真が口を開いた。
「なんかさ、いいよな、こういうの」
「どんなのよ?」
「こうやって、ゆっくりと景色を眺めてたりするの」
そして、空を見上げた。
「空も綺麗だしさ」
夕刻になり、見事な茜色に染められた空を眺めている。
釣られて真希も眺める。
「本当だ・・・」
空がこんなにも綺麗だったなんて始めて気づいた。
(今まで、当然のように見てきていたものが、これほど美しく見えるのはなぜだろう?
この、止まるような時の中で眺めているからだろうか?
ほのぼのとした気持ちで眺めているからだろうか?
それとも、創真が隣にいるから? ・・・それはないな。うん)
それから、二人はどの位の時間空を眺めていたのだろうか?
気がついた時には、夜空が茜空の半分を暗く染められていた。
「ほら、創真いつまで空見てるの? 真央がもうご飯作り終わってる頃だし行くよ」
「もう、そんな時間なのか。じゃあ行くか」
名残惜しげにベンチから立つ。
「あ、ずっと空見てたから首が」
創真がボキボキと首を鳴らす。
「そんなことしてないでサッサと行くよ」
体を伸ばしていた創真を急かす。
そして公園を後にして、真希の家へと向かう。
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十分ほど歩いていたら真希家に着いた。
「ここが、私の家よ」
周囲の住宅にも馴染んでいる二階建ての家だった。
「よくありそうな家だな」
「文句があるなら野宿でもする?」
笑顔で脅迫をする。
「そんなことないので野宿は勘弁!」
手を合わせて頭を下げる。
「そう、じゃあ入って」
真希がドアノブに手を掛けドアを開ける。
「ただいまー」
勢いよく中に入る。
「おじゃまします」
恐る恐る入る。
「いらっしぁ――」
驚いた顔で固まっていた。
「お、姉ぇ、友達ってその人?」
「そうよ」
疑いの眼差しで。
「彼氏の間違いじゃなくて?」
「違う―――!」
「そんな、恥ずかしがっちゃって」
「恥ずかしがってなんかないって。いいから、創真も上がちゃって」
「ほら、下の名前で呼んじゃって。やっぱり彼氏なんじゃないの」
「だから違うって」
言いながら真央ちゃんにデコピンをする。
「痛っ。えーと、創真さんでしたっけ? 早く入って下さい」
笑顔が向けられた。
「え、んあ、うん」
二人のやり取りに呆気に取られていた俺に声が掛けられた。
ようやく靴を脱ぐことができた。
(真希も元気だけど真央ちゃんも元気だなぁ。賑やかそうでいいことだ。うん)
「それじゃあ、もうそろそろでご飯ができるので、リビングでいちゃいちゃしてて下さい」
俺は苦笑いをし、真希は「するか――!」と、叫んでいた。
真央ちゃんは廊下を真っ直ぐ行った所にあるキッチンへと向かう。
「元気な妹さんで」
「元気なんだけど、いつもあんなんなのよ」
「それは、大変そうで」
廊下を少し進んで左側にあるリビングへと入る。
リビングに入るなり創真が「それじゃあ」と、言い出したので「何」と、尋ねる。
「真央ちゃんの許可も得たし、いちゃいちゃするか」
「そう、じゃあ、目を瞑って両手を広げて」
「こうか?」
「そう、よ!」
そして、創真の鳩尾に思いっきり拳をぶつける。
「がっ!」
短く言葉を発して創真が倒れこむ。
「ま、真希さん? あの――」
引き攣った顔で真希を見上げる。
「ん、なにもう一発お願いします。そう、わかった。じゃあもう一ぱ――」
「ふざけた事言ってすいませんでした!」
土下座をして謝る。
「そう、それじゃあ、許してあげるわ。だから、顔を上げなさい」
「あ、はい」
真希がデコピンをするかのように、人差し指と親指を合わせ、それを弾いた。
刹那、俺の髪の毛先が切られた。
「次そう言うこと言ったら、どうなるかわかるわね」
「は、はい」
背筋がゾッとした。
(ちょっとふざけただけなのに、ここまでしなくてもいいんじゃ・・・)
「じゃあ私、真央を手伝ってくるね」
「料理できないんじゃ?」
「食器出したり、料理を運ぶ位ならできるから」
手を振りながらキッチンへと向かった。
今日初めての一人の時間だ。
何をしていればいいのだろう? わからない。
とりあえず、仰向けに寝転んで考えてみることにした。
ふと、真希って本当に良い奴だなぁと、思った。
そりゃあそうだろう。こんな、見ず知らずの俺なんかを助けてくれて。こんなに、良い人が本当にいるんだな。
今日一日を振り返ってみて感じるのが、今までこんなに楽しい日って言うのは初めてだしな。
不思議なことは、まだ真希と出会ってから一日しか経ってないのに(実際は昨日拾われたのも入れて二日)こんなに仲良くなれているってことだ。
この一番の要因は真希が気を使って親しくいてくれているのが大きいだろうな。
一日ってこんなに短かったんだな。
今までは、早く過ぎ去れ、と思ってた時間がこんなにも愛おしく思えるなんて。少し前の俺には信じられないだろうな。
自嘲気味に思う。
ふと、キッチンを見てみた。真希が丁度食器を運んでいた。
あれで躓いたりしなかなぁ、と思っていたらそうなった。
食器を落として割れるかと思いきや、地面に着くギリギリの所で、風を起こして食器を浮かせていた。
真央ちゃんに叱られてるのを見ながら、真希にばれない様に忍び笑いをする。
普段はしっかりしているのに料理が絡むと、すっかり駄目になるのかな。
なんかもう見るに耐えないので手伝おうとキッチンへと歩みを進める。
「俺が、手伝おうか?」
「大丈夫!」
真希が即答する。
「いや、大丈夫そうに見えなかったから声掛けたんだけど」
「大丈夫たら、大丈夫なの!」
フライパンを持って張り切っている。
「もう、お姉ぇ彼氏の前だからって無理しちゃって」
「誰が無理してるって?」
笑顔でフライパンを振り上げて今にも殴りそうだった。
「いつもやってることだから大丈夫だよね」
真央ちゃんが急いで訂正した。
「そうでしょ」
(冗談でも妹にこんなことするって、真希恐ろしいな)
こんなことを思ったがこれを口にした瞬間、ターゲットが俺に変わるので、言葉を飲み込んだ。
「じゃあ他に何かすること無い?」
「う~ん、じゃあお風呂洗ってきて」
「了解。で、場所どこ?」
「そこでて左側の所」
廊下を指差しながら言う。
「おう、わかった」
そして、去り際に一言
「黒焦げの何かは勘弁してくれよ」
そう言い放ち、急いで風呂へと向かう。
「創真、アンタちょっと待ちな・・・っていないし」
「流石彼氏なだけはあってお姉ぇのことわかってるみたいね」
「だから、・・・もういいや。否定するの疲れたわ。後は任せる」
フライパンを真央へと渡し、リビングへと向かう。
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「さて、勢いで風呂洗いをすることになったがどうすればいいんだ?」
風呂場に入り腕を組み悩む。
「そうだ、まずはズボンを捲ろう。このままでは水が掛かってしまう」
言い放ち、ズボンを膝下まで捲りあげる。
「まずは第一段階クリアだな。あ、靴下脱いでなかった!」
急いで脱ぎ脱衣場へと放る。
「風呂洗いって言うんだし、まずは洗剤とスポンジを確保しないと」
スポンジはすぐに見つけたが、洗剤を探すのに苦労していた。
「何でこんなに容器が沢山ある。とりあえず虱潰しに探すか」
最初に手にしたもの――シャンプー。
二番目――トリートメント。
三番目――ボディーソープ。
四番目――シャンプー。
五番目――シャンプー。
「なんで、シャンプーが三つもあるんだ!」
思わず大きな声を出してしまった。
外から声がした気がしたが、気にしないでおこう。
六番目――浴室用洗剤。
「ビンゴ!」
手に持っているこれと、今まで手に取った五つの物を見比べて気づく。
「これだけ、スプレーの形してたじゃん」
俺ってばかだなぁと思った。見た目的に明らかに違うこれをなぜ最初に取らなかったのかと。
「後はこれを吹き付けて浴槽を磨けばいいのか、と」
浴槽の中に洗剤を噴射する。
「うわぁ、泡が出た」
今までの行動を見ていてわかる通り、風呂洗いなどと言う行為が初めてなので驚いていた。本人は至って真面目に行っているのだが、旗から見たらただの変人だろうな。
噴射する度に不思議に思いながらも何箇所かに洗剤を飛ばした。
「よし、第二段階クリア。後はこれを伸ばしながら磨けばいいんだな」
流石にこの段階ではなんのトラブルも無く磨き終わり、泡をシャワーで流す。そして、栓をする。
「よし、後はお湯を張って終わりか」
給湯と書かれたボタンを押した。
「おわったあー」
両手を高く突き上げ体を伸ばす。
「風呂を洗うのがこんなにも大変だったとは知らなかった」
風呂場をでて、脱衣場で足を拭き、リビングへと向かう。
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