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第1-1章

第1章 出会い・・・



 ――ピー、ピー、ピー

 どこか遠くから音が聞こえてくる。次第に音が近づいてくるように聞こえる。これは、心拍計の音だろうか? なんでこんな音が聞こえてくるのだろうか? それに、体が重くてあまり動かないし。地面が軟らかい。

 どうやらどこかに寝かされているようだ。

重たい瞼を開いてみると、そこには天井があった。辺りを見回して見ると、病院? のような場所だった。

 そして、そこには同い年くらいの一人の女性が本を読んでいた。

 窓からの柔らかな陽光が降り注ぎ、大人びた雰囲気をかもし出している彼女をより素敵に映し出していた。

「こ、ここは?」

 どうにか声を絞り出してみた。

「あ、目が覚めた? はぁーよかったぁ」

 安堵するかのように彼女が胸を撫で下ろしていた。

 しかし、彼女は誰なのだろうか? 会ったことがあるような気がするが、思い出せない。思い出そうとすると頭が痛み思考を妨げる。

「君は、誰?」

「あー覚えてないんだ。まぁ、しょうがないか。アンタ、私と話してた時も意識が半分くらいしかないように見えたし、その後すぐ倒れちゃったし。まったく、大変だったんだからね」

 なぜだか親しげに話しかけてくる

「何があたったか聞きたい?」

 このまま何があったのか解らないままと言うのは嫌なので聞いてみることにした。

 そして、彼女が語った。それがこれだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


――一日前

 場所は御友高校前公園、この辺りでは一番大きな公園だが、朝の時間はほとんど人通りの無い場所。

遅刻ギリギリで急いでいた真希はパンをくわえたまま、公園を駆け抜けようとしたが、突然「君、ちょっと待って」と声を掛けられた。

 辺りを見回すと、ベンチに倒れこむように力なく横たわっている男がいた。

「な、何か」

 嫌な予感を感じつつも返事をした。

 そして、こう返ってきた。

「そのパンくれませんか?」

「――? はい?」

 予想外の言葉に絶句して固まる。

「お願いです。そのパン下さい」

 頭だけを動かし、脱力した声をだす。

「え、いや、なんで?」

 怯えながら、戸惑いながら答える。

「色々と事情があって四日間程ほとんど何も食べてないんです」

 生気のない声で返す。

 見ている限りでは本当に何も食べていないようだし、何というか、全身から〝負〟のオーラのようなものが漂っている。

 仕方がないので、嫌だが、パンをあげることにした。

「は、はい、どうそ」

「どうも、ありがとうございます。」

 彼が私からパンを受け取り、そして、すぐさまパンを食べきった。

(あ、そういえばこんなことをしている場合ではないじゃないんだった! 急がないと遅刻する!)

「んじゃぁ、私は急いでいるから、じゃぁね」

 去ろうとしたが、また「まって」と声を掛けるなり、おもむろに立った。

 今まで寝転んでいたせいでよくわからなかったが、身長が170cm以上はあるようだが、今は力がないせいか、少し猫背気味になっている。

「な、何?」

(早く学校行かなきゃ行けないんだからはやくしてよ!)

「パンをくれて、本当にありが―――」

 頭を下げ律儀に礼をするのかと思いきや、下げた頭は停止することなく、そのまま倒れた。

「え、あ、ちょ、アンタ、どうしたの!」

 急いで駆け寄り、声を掛けながら体を揺すってみたが、反応がない。どうやら気を失っているようだ。

「え、ちょっと、どうしよう。とりあえず119番? あ、でも、なんかワケありみたいだし、どうしよう」

 そう思いながら、少し考えた。

「仕方ない、とりあえず研究所ラボに連れてくかぁ」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 これが昨日あったことだそうだ。

 正直こんなことをしたのか、と話を聞きながら驚いていた。

「それじゃあ、君が俺をここまで運んでくれたの?」

「そうよ、大変だったんだから。それに、アンタのおかげ学校は遅刻。まったく、いい迷惑だったわ」

(俺のせいで遅刻させてしまったのか。悪いことをしてしまったな)

 そう思いつつも、一つの疑問を呈してみた。

「それにしても、どうやってここまで運んでくれたの?」

 どう見ても彼女の体格は普通の女子高生と同じで、男を一人で担ぐには無理がありそうに見えたからだ。

「ああ、それは簡単、私、風使い(エアロプレイヤー)だから、その能力で運んだの」

「へぇ、そうだったんだ」

 どうりで、俺を運ぶことが出来たわけだ。

 

風使い――風を扱うことが出来る能力者の総称。

 そう、ここは、このような能力者が普通にいる世界――並立空間パラレルワールド

ここ、並立空間は日本のどこからか行くことが可能な日本独自の空間である。

 この空間を知るものは並立空間の外のでは、極一部の者しかおらず、日本独自の空間のようだ。

 なぜ並立空間の中に能力者が沢山居るかと、並立空間の外の世界で能力が使える者、使う素質のある者が、この世界に集められているからだ。

 そして、この世界では能力の開発がされている。

 この開発によって沢山の者が能力を扱うことが可能になった。

 能力者は扱うことが可能な力によって0~10のレベルにランク分けされる。


「風使いにしてもよく運べたよなぁ」

素直に感心していた。

「え、何で?」

「確か風使いの能力で人を運ぶのってそれなりのレベルがなくちゃ出来ないだろ。それに」

 自分の体の怪我を確かめながら言う。

「ぜんぜん切り傷とかも出来てないみたいだし。風使いの能力で力任せに運んだら、風で軽く肌が切れたりするのにそれがない。君すごいね」

「んまぁ、レベル9だからね」

 誇らしげに、自慢げに答えた。

「へぇ、すごいね」

 素直に驚いた。

 突然思い出したように彼女が訊く。

「そういえば、アンタ、なんて名前なの? 私は、彩吹あやぶき 真希まき

よ」

「俺は、桜の空って書いて、桜空おうぞら 創真そうまって言います。」

「へぇ、桜空ってなんか綺麗な苗字ね」

「俺もそう思うよ」

 お互いにこやかに話す。

「じゃあよろしくね、創真」

「こちらこそ、彩吹さん」

 と、いきなり真希が睨んできた。

「創真!」

「はい!」

 反射的に返事をしていた。

「私たちはもう友達なんだから、下の名前で呼びなさい! それに〝さん〟を付けるのも禁止! わかった?」

「は、はい…真希」

 正直言って女子の下の名前を呼び捨てで呼ぶのは、呼びにくい。

「よろしい」

 にこやかに、笑顔になる。

「それに」

 続けてなにか言い出した。

「その少しよそよそしい話し方やめなさい。私たちはもう友達なの、だからその話し方はなし!いいね、わかった?」

「いや、でも、俺は助けてもら――」

「人が倒れていたら助ける。私は、そんな当たり前のことをしただけ、だから、気にしなくていいのよ」

 真希が俺の話を遮った。

「だから、よそよそしい話し方はなし、いいね?」

 真希は俺の顔を覗き込んできた。

「わかったよ」

 根負けして答える

「わかったならよろしい」

 笑顔でいった。

 まだ真希と会って少ししか経っていないがわかったことがある。それは、明るくてだいぶ強引な性格をしているということだ。もう一つは、真希が綺麗だということだ。

(こんな綺麗な人と同じ空間に一緒に居れるということは、正直言って嬉しい。こんないいことがあるなら倒れるのも別に悪くないな)

 こんなことを思っていたところに真希が声を掛けた。

「そういえば創真はあんなとこに居たわけ?」

 俺は無意識のうちに俯いていたみたいだった。

「あ、別に答えたくなかったら言わなくていいから」

 訊いてはいけないことを尋ねてしまったのかと真希は焦った。

 少し間を置いてから創真が口を開く。

「とある施設から逃げ出してきたんだ」

「それってどんなとこ?」

「それはちょっと・・・」

「そう・・・じゃあこれでこの話はおしまい! それじゃあ、私は恵理奈さんを呼んでくるね」

 言い切るなり立ち上がった。

「恵理奈さんって誰?」

「ん、ああ、そういえばまだ言ってなかったわね。恵理奈さんはこの研究所の所長さんよ。創真のことを治療してくれたのも恵理奈さんよ。」

 そう言い残して部屋を出て行った。

(ここは研究所だったのか、それにしては医療設備は整っていてすごいな)

 辺りを見回して見ると、一見病院と思える程の設備が整っていた。

 しばらく部屋の中を見回していたら真希が誰かを連れて戻ってきた。

「この人が恵理奈さんよ」

 そこには白衣を着た身長150cm半ばの女性がいた。

「目覚めたみたいだな。具合はどうだ」

 やや中性的ではあるが女性らしい声だった。

「おかけ様でもう大丈夫そうです」

「どうやらそうみたいだな。診察するから服をめくれ」

「あ、はい」

 胸に聴診器が当てられた。

「これなら、明日にでも全快してるだろう」

 体に付いていた医療機器が外された。

「そうですか、ありがとうごぞいます」

「良かったじゃん、たいしたことなくて」

「ああ、そうだな」

 安心したことによって少し力が抜けたように答える。

「もう大丈夫そうだから私は戻らせてもらうぞ」

 そう言って部屋を出ようと途中で思い出したかのように言葉を残す。

「どうせ明日までは外には出させんから、この中でも案内してやってくれ真希」

 少し驚いたように答える。

「え、中見せちゃっていいんですか?」

「こいつだったら別にかまわん」

 恵理奈さんが俺のことを見ながら言う。

「私は人を見ることに関しては自身があってね、お前がここの情報を外に漏らしたりしないやつだということはわかる」

 どうやらある程度信用されているようだった。

「それじゃあな」

 白衣を翻し部屋を出て行った。

「それじゃあ、恵理奈さんの許可も出たことだし、中見て回るって言っても、実際見られて困るようなものはないんだけどね?」

「そうか、することも他になさそうだし、そうするよ」

 そう言いながら体を起こす。

「そういえばもう動けるの?」

「ああ、大丈夫そうだ。目が覚めてからだいぶ経つしな」

 微笑みながら答える。

 そして、ベッドから立ち上がる。が。

「おっと」

 ふらついて倒れそうになった。

「あぶない!」

 倒れかけた創真の体を真希が支える。

「ありがとう」

 空笑いになりながらも礼をする。

 そんな創真に呆れと心配の含まれた声が返ってくる。

「創真、まだ動くの辛いなら別に無理しなくていいんだからね」

「いや、別に無理はしてないよ。ただいきなり立ったから、少し立ちくらみしただけだから。心配しなくていいよ」

 笑顔を作り誤魔化し答える。

「本当に大丈夫なの」

 真希が顔を覗き込んでくる。

 体を支えてもらっているおかげもあって、体は密着しており、真希の顔が近くてドキドキした。

 近くで真希を見てやっぱり綺麗だなぁ、と思った。

「なにボーっとしてんの?」

 訝しげに見ていた。

「い、いやなんでもないよ」

(みとれていた。なんて言えないしな)

「もう普通に立てるから離していいよ」

(本当はもっとこうしていたかったけど。まぁ、しょうがない)

「そう、じゃあ離すけど。」

 そして離れた。

 まだ心配してくれている真希が訊く。

「歩くの辛いなら肩貸すけど?」

(え、いいの!?)

 そんなことを思ったが、これ以上心配をさせたくないので、断った。

 断りはしたが、やはり後悔が大きかった。

(そりゃそうだろ、年頃の俺がこんな綺麗な女子の肩をかりられるなんて、滅多にある事ではないだろ。それに、肩をかりてずっと歩いていたらドキドキで、また倒れるわ! 想像するだけでもドキドキするのに)

 そんなことを考えていたところに真希が「じゃあ、行こうか」と、声を掛けてきたので、部屋を後にすることにした。

 部屋を出た所は短めの廊下になっていた。

「まぁ見る所って言ってもこの先のメインルームくらいしかないんだけどね」

 そして、ドアが開けられた。

「おお、広っ」

 流石メインルームということだけはあってとても広かった。

 部屋の作りは二階建てで20畳を優に超えた広さがあるが、所狭しに色々な機材が置かれている。

 入った場所から右側には、大小様々なサイズの液晶モニターやパソコンが設置されている。

 そして、今出たドアとその反対側の壁には二階に上がるための階段がある。

 二階はモニターと反対側の方にあり、下から見ている限りでは大体、一階の三分の二くらいの広さに見えた。

 そして、残りの三分の一のスペースであるモニターの上は、一二階が吹き抜けになっており、天井が高く、とても開放感がある。

「すごいな」

ありきたりではあるが、素直で率直な感想を言う。

「そうかなぁ、私はもう見慣れちゃってるからねぇ」

 見慣れていたら感想もそんなとこか、そう思いながらまだ辺りを見回していた。

「あっ、復活したですか!」

 突然元気な女の子の声が聞こえた。

 そして、声の主がこちらに来た。

「元気になったんですね! よかったです!」

 女の子が目の前に来た。

「僕は浅石あさいし 流深るみです! よろしくです!」

 小さくお辞儀をする。

 お辞儀をする際、手を前で揃えた時に気が付いたのだが、明らかに服の袖が腕の長さより長い白衣を着ていた。そして何故か白衣にはフードが付いていが、あまり気にしないことにした。

 髪型はショートヘアすこしクセが付いている。

 明るくて、元気で小さな女の子だ。

「僕はまだ小学生ですけど、立派なここのメンバーなんですよ!」

 誇らしげに張ると言うのには成長がまだ足りない胸を張る。

「へぇ、すごいね。俺は桜空 創真。よろしくね」

「はい! よろしくです!」

 あいさつを済ませたので、流深は席に戻ってキーボードで何かを打ち始めた。

「元気な子だな」

「まあね」

「それにしても、よくあの手で流深ちゃんはキーボードをうてるな」

 誰もがそう思うだろう。なぜなら、キーボードを打っている最中も白衣の袖は余っていて、キーボードに垂れ下がっていたからだ。

「やっぱりそう思うよね。だからそれで打ちにくくないの? って訊いてみんだけど」

「どうだった?」

「『なんのことですか?』って首傾げてたよ。流深にとっては至って普通のことみたいね」

 呆れ笑いしながら教えてくれた。

「ああ、そうなんだ」

 俺も笑い返した。

 そして、もう一つ疑問に思っていたことを訊く。

「さっき、流深ちゃんが〝チーム〟とか言ってたけど、それはなんだ?」

 真希が「あぁ、そんなこと」といって教えてくれた。

「チームってのはそんな大袈裟なものじゃなくて、ここで集まって恵理奈さんの研究を手伝っている人たちのことよ」

「へぇそうなんだ。恵理奈さんってどんな研究をしているの?」

「研究って言ってもほとんど自分が作りたいものを好き勝手造っているだけなのよ。それに他の人も、自分がやりたいことを好き勝手にしているの」

「そ、そうなんだ」

 苦笑いしながらまた訊く。

「でも、研究所なんだし、依頼あとかは来ないの?」

「たまにはくるけど・・・」

「けど、なんなの?」

「恵理奈さんは自分が興味のあること以外の依頼は全部断っちゃうのよ」

 ああ、思わず納得した。

 さっき、少ししか会ってないが、何と言うか、唯我独尊というか、周りの人に流されない、そんな雰囲気を持っていたからだ。

「そんなんでここ、維持いていけるのか?」

 もう、苦笑いしかできない。

「あぁ、それなら大丈夫よ」

「どういうこと?」

「恵理奈さんのお姉さんが、いろんな会社とか経営しているのよ。それでそこからお金が入ってくるから、資金的な問題は一切なし、てことよ」

「恵理子さんって色々と凄い人なんだな」

 さっきから苦笑いしかできていない。

「もう本当に凄い人だよ。色々と・・・」

 少し重い空気になった時に、上から足音が聞こえてきた。

 音の方を向くと恵理奈さんが階段から降りてきていた。

「なんだ、二人とも私を凝視して」

「「いえ、なんでもないです」」

 綺麗にハモった。

「そういえば、桜空」

「なんですか?」

「お前、今晩の寝床はどうするつもりだ?

 唐突に訊かれた。

「できれば此処に泊めてもらえると助かるんですが・・・」

「泊まることは構わん。ただ飯はないからな」

 キッパリと言い切る。

「ないんですか・・・」

「ああ、ない。私と流深の分しか」

「あるんじゃないですか!」

「何度も言わせるな。お前の分はない」

「そんな・・・」

「それに、治療してやったんだ。それ以上を求めるのは贅沢と言うのではないか?」

「うっ」

 そのことを言われると反論できない。

 そんなやり取りに呆れたのか、真希が口を挟んできた。

「あーもう、だったら家でご飯食べてく?」

「マジで、いいの」

「たぶん大丈夫だと思うよ。ちょっと真央に訊いてみるから待ってね」

 そういって携帯を取り出してどこかへ電話をかけ始めた。

「おう! 待ってる!」

 やっぱ真希は良い奴だなっと思って恵理奈さんに一つ訊く

「真央って誰ですか」

「真希の妹だ」

「そうなんですか」

 妹がいるんだと思いながら真希に目をやるともう電話が終わっていた。

「OK! 大丈夫だって」

「あぁよかった。本当に助かるよ」

 真希ちゃんマジ天使! と思っていたら一つの疑問が浮かんだ。

「真希ってお姉ちゃんなんだよな?」

「そうだけど」

「なんで家にことを妹に訊くんだ?」

「いや、そのー、何と言うか――」

 はぐらかしている最中に推理してみる事にした。

(ご飯を作る――料理――妹に訊く、あっ!)

「真希」っと尋ねると、短く「何」と返された。なので俺の推理の答えを尋ねてみた。

「料理できないの?」

「――――うん」

 やっぱりそうなんだ。

「まあ、気にすることはないよ」

「そうだよね、いまどき料理ができなくったって生きていけるよね」

 壊れたように笑いだしていた。どうやら結構気にしていたみたいだった。

 妹が料理できて、姉が出来ないのか。こんなことを思ったが、余計気にさせるだけだとおもったので訊かない事にした。

「とりあえず、まぁ、ご飯期待しておくよ」

「味に関しては、私のお墨付きだから安心して良いよ」

 さっきまでの落ち込んでいた態度とは打って変わって、元気になった。

「そうそう、ついでだしそのまま泊まっていっていいよ」

「え、いいの?」

「いいよ、いいよ。電話した時に、真央に友達が今日、家に泊まってくって言っといたら、張り切ってご飯作るっていてたから、大丈夫よ」

「男友達をねぇ」

 半笑いしながら言う。

「別に私は気にしないからいいのよ。それに・・・」

「それに?」

「なんか変なことしようとしたら、殺すから」

「そ、そんなことしないって」

 やべぇ、目がマジだった。変なことしようとしたらマジで殺すな、これは。もちろんそんなことはする気はないが。

「ならいいんだけど」

 目がまだ怖くって見ることができない。

「そうだ、創真」

「何?」

「アンタ、ゲストで家に来るんだしなんか一発芸とかやりなさいよ」

「何で!?」

「いや、だって泊めてあげるんだからそれくらいしなさいよ」

「でも俺、一発芸とか持ってないぞ」

「だったら、手品でも何でもいいから、なんかやりなさいよ」

「うーん、じゃあ・・・手品やるか」

「お、じゃあ今何か一つやってみてよ」

「今か!?」

「うん、今」

 期待の満ちた表情で返された。

「・・・わかったよ。なんでもいいだろ」

「いいよ!」

「それじゃぁっ」と切り出して辺りを見回して使えそうなものを探す。

 すると、物干し竿があったのでこれを使うことにした。

「恵理奈さんこれ使っても・・・」

 いつの間にか恵理奈さんがいなくなっていた。まあいいかと思って。

「それじゃあ、今からこの物干し竿を消してみせます」

二メートル近くある物干し竿を左手でもった。そして右手の人差し指と親指をくっつけて輪を作り、この中を通すと物干し竿が消えると言い放ってから、右手の輪の中に物干し竿を落とした。

「おー」

 真希の歓声と拍手が響いた。

 無事成功。物干し竿は右手の輪を通った所から消えていった。

「創真! アンタ思ってたのより、凄いのやるじゃない!」

「それはどうも」

「もう一つやってよ」

「いいけどこれで最後な」

「うん、わかった」

「それじゃあ、なんか適当な布頂戴」

「なんでもいいの?」

「透けてたりしなければいいよ」

「んじゃあこれで」

 真希がカバンからミニタオルを取り出した。

「じゃあこれでやるな」

「待ってました」

 拍手し歓迎する。

「じゃあ、今からこのテーブルの上に何かを出したいとおもいます」

 真希のミニタオルをテーブルの上に敷いた。

「タオルを上に捲ったらいるからなそれじゃあ、3・2・1」

 それーと勢いよくハンカチを捲った。そしてそこには亀がいた。

「大成――」

 いきなり頭に重たい痛みが広がった。

「痛っ―、なにすんだよ」

 真希が創真のことを殴っていた。

「なにってアンタ、勝手にかー君を手品に使わないでよ」

「かー君ってこの亀のことか? ネーミングセンスなさす、うわっ」

 いきなり真希に胸座を掴み上げられた。

「今、何かいった?」

(やべ、怒ってる)

「かー君っていい名前だなぁって言いました!」

「そうでしょう、そうでしょう」

(よかった、どうやら正解だったみたいだ)

「もう、かー君を手品に使っちゃ駄目だからね」

 もうすでに、かー君を元の水槽に戻していた。

「さて、ご飯の時間までまだ大分あるし、手品以外で何しましょうか?」

(ああ、もう手品は駄目なんですか)

 確かにご飯の時間まだにはまだ大分時間が余っていたので、適当な質問をしてみた。

「ここの発明品とかで遊べる物とかないの?」

「うーん」

 唸りながら辺りを見回していた。

「あ、あった」

 何か見つけたようだ。

「これなんか結構面白いよ」

 そういって一つの機械を指差していた。

「これ何なの?」

 椅子が二つありその椅子から幾つものコードが延びていた。そしてその椅子に上にヘルメットとゴーグルがくっついた物からまたコードが幾つも延びていた。そしてそれらのコードは大きめの箱型の機械に繋がっていた。

「アンタ、これ知らないの!」

「知らないけど・・・そんなに有名な物なの?」

「まぁほとんどの人がこれのことを知っているよ。今はほとんどのゲームセンターにも置いてあるし、学校にもある置いてあるしね」

「へぇ、そうなんだ。で、これは何なの?」

仮想戦闘機バトルシュミレーターよ」

「で、どうやって使う?」

「本当に知らないんだぁ。まぁ見た通り、ヘルメットとゴーグルを着けて座るだけよ。そうすれば、感覚的には別の世界に飛ばされてそこで自分の能力とか使って対戦できるの。これは古いタイプだけど、新しいのはゴーグルだけで楽なのよね」

「へぇ、すごいな!」

「じゃあ、やってみましょう」

 真希が張り切っていたが「ちょっと待って」と静止した。

「何?」

「これ、危険とかないの」

「ないよ」

「だって、能力使って攻撃したりするんだろ。怪我とかしないのか?」

「それは大丈夫よ。実際攻撃しているわけじゃないんだから。まぁ痛みはあるけど・・・」

「ん? 最後のほう何て言った? 小声で聞き取れなかったんだけど」

「ああ、なんでもない、なんでもない」

 適当にはぐらかす。

「それじゃあ、始めましょうか」

 意気揚々と椅子に座り、馴れた手つきでヘルメットとゴーグルを装着した。

「じゃあ、俺も、っと」

 作業の一つ一つを確認しながらゆっくりと装着した。

 装着した瞬間、電気のようなものが全身を駆け巡った様な感覚がし、意識と言うか、精神と言うか、感覚と言うかよくわからないが、何かが何処かに飛んだ気がした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


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