第1-1章
第一章登校!
学校の登校時間は8時40分までとなっている。その時間を一秒でも過ぎれば遅刻扱いにされてしまう。
創真は初登校ということもあるので、遅くても10分前には着きたいと思っていた。
そして今は体力を消費して回復しきっていないので、遅刻しまいとダッシュなどという事態は御免被りたい訳だ。つまりは歩いて向かいたい。
歩いて高校まで行くとなると約25分ほど掛かる。つまり確実に10分前に着くように家を出るためには8時5分に出発する必要がある。
創真は真央ちゃんに起こされた事によって7時頃には目が覚めていた、あくまでも覚めていた、だ。だが、今現在は眠っている。正確に言えば眠らされた、真希によって。強制的な二度寝になって。
そして、今眠りから目覚め時計に目をやると。7時58分。走ることを覚悟すればまだ時間があるが、歩いて行くためにはかなり際どい時間帯だ。
目覚めたばかりの体で、痛みの残っているような感覚を味わいながら「真希のやつ、手加減ってものを知らないのか?」と心中でぼやく。
このまま腹をさすっていても、走ることへの道にしかならないので制服へと着替える。
制服は昨日研究所に届いたので、帰宅する際に一緒に持ってきた。なんと親切な事に恵理奈さんが日用品セットを用意しておいてくれたのでそれも持ち帰ってきた。
急いで制服へと着替え時計に目をやると時刻は8時1分。
勢いそのままにキッチンへと向かい、一言。
「手加減しろや! 真希! 一瞬三途の川が見えたぞ!」
「あ、そうなの、ドンマイ」
全く気にする風もなく受け答える。
「とりあえずそのことはよくないけどもういいや、もうそろそろ行くんだろ?」
「ええそうよ、後二三分で行くつもりよ」
「とりあえず、朝飯を食いたいんだが」
「なら、サッサと食べちゃってね」
不敵なな笑顔で創真を見つめる。そんだけの時間で食べきれるのかと挑発するように。
「オッケー、サッサと食う」
(今日の朝食はトースト、ベーコン、目玉焼き、ザ・朝食って感じだな。ならこうやって)
トーストの上にベーコンを乗せ、更にその上に目玉焼きを乗せる。そしてすぐさまそれを食べ切った。
「はや」
真希が思わずつぶやいていた。
「早食いは結構得意なんだよ、特に腹が減ってると更に早くなる」
「ふ~ん、どうでもいい特技ね」
「まぁそうかもな、でも便利ちゃっ、便利だぞ」
「はいはい、そんなことどうでもいいから、歯磨いて顔洗っちゃいなさい」
「はーい」
(この会話だけを聞いていたらまるで母と子みたいだな)
そんな事を思いながらも歯を磨き終え、顔も洗い、出発の準備が整う。
「二三分オーバーしたけれどこれなら歩いて行っても問題ないわね」
「そうだな、というよりも真希が俺のことを殴らなければこんなにせわしなくする必要もなかったんだが」
「それは、アンタがいけないんでしょ、それとももう一度寝る?」
拳を構えて創真のほうを向く。
「よし、じゃあ行こうか」
「そうしましょう」
当初の予定より二三分遅れて玄関に立ち、ローファーへと履き替える。
「いってきまーす」
元気に明るく声を出す真希。
「いってきます」
落ち着いた風に声を出す創真。
「同伴出勤おつかれさまです」
二階から真央ちゃんの返事が返ってくる。
「だから違うって!」
予想通りの答えを返す。
「やっぱり恒例だな」
「ん?」
物凄い勢いで創真のことを睨みつける。
「ほ、ほら、いつまでも突っ立てないで行こう」
「ええ、そうね」
という事でようやく学校へ向かって歩き始める。
真希の家があるここは住宅街の中心からは若干外れており、研究所許可域と呼ばれる、研究所が多く建つ場所の近くに立てられている。
研究所許可域などというものがある理由は簡単だ。安全性のことを考慮して住宅街となるべく分離させるためである。
そしてこの住宅街のはずれ、研究所許可域に住む人は多くが研究所の関係者である。
真希は恵理奈さんの研究所の関係者だからというのも理由のひとつでそこに住んでいる。
「ここら辺だとまだあんまり学生はいないんだな」
創真が辺りを見渡しながら訊く。
「そうね、でも後五分くらい歩けばそれなりに人も増えてくるから」
「へぇ、そうなんだ」
「そうよ、あっ、そういえば創真」
「ん? なんだ」
「アンタ学校に着いたらどうすればいいかわかってる?」
「ああ、わかってるぞ」
「んじゃあ、何をするのか言ってみなさい」
「まぁ復習がてら確認するか。最初は事務室にいって名前を言って職員室に案内してもらってからの教室に案内してくれるそうだ」
言われた通り手順をざっと説明した。
「へぇそうなんだ」
「知らなかったのかよ! だったらなんで確認させた!」
「いや、ただ転校生ってどういう風に案内されるのかなって気になっただけ」
おどけた笑顔で答えてきた。
「そうですか、それに転校生じゃなくて、編入生だけど、んまぁそんなのどうでもいいか」
「そう、どうでもいいこと。それを知らない私たちはただの転校生ってみて囃し立てるだけだから」
「そんなアニメや漫画みたいに囲み取材状態になるのかね」
「なるんじゃないかしら、あのクラスなら」
視線を上に流して何かを想像しているようだった。
「ん? あのクラスならって、真希は俺がどのクラスに行くのか知っているのか?」
「いや、しらないけれどそうしてくれているんじゃない」
「そうしてくれるってどういうことだ?」
「じゃあヒント一」
言葉と同時に人差し指を立て、続けて話す。
「理事長」
「理事長? あっ、そういえばそうか」
(忘れていたが、理事長は恵理奈さんの姉で、そのコネを使って編入試験を受けたんだったな)
「そう、だから、一緒にしてくれているんじゃないかなって思ったわけ」
「そうだな、一緒だといいな」
「ええ」
心なしか少し楽しそうな表情をしているようにも見える。その答えが創真が同じクラスになる事を思ってなのか、それともクラスメイトに会えることが楽しみなのか、またはその両方か、はたまた、それ以外か、答えは本人のみぞ知る。
(これはちょっと面白そうだしからかってみるか)
その若干の変化に気がついてかそんな事を考える。
「そうだな、真希がそんなに俺と同じクラスがいいって言ってくれているんだし、本当に一緒がいいな」
「え、あ、え? 馬鹿! 別にそんなこと言ってないでしょ!」
不意の言葉に慌てふためく真希。
(お、案外当たりか)
「私はねアンタが同じクラスのほうが何かと都合がいいからそういっただけよ、他意はない」
「ほー他意がないにしてはずいぶんと動揺してはいませんかな?」
「いや、だから、別にそれは・・・」
ここで下に俯き言葉が途切れた。
「それは?」
その続きを聞こうと聞き返す。
そして俯いたまま、落ち着きを取り戻して冷静になったような声で続きを話す。
「もういい、面倒くさいから潰す」
突然で唐突な答えが返ってきた、冷静を通り過ぎ、冷徹な瞳が向けられた。
その冷たい瞳の中には一つの炎があった、唯一つの目的を成すための野心から生れたのであろう炎が、それは先程言葉にした通り“潰す”その一言のために。
「あ、あのぅ、真希さん?」
怯えた声で、顔を引き攣らせながら訊く。
その言葉に「なにかしら」とホラー映画にでも出てくるような人形のように不自然に身体を揺らしながら近づき答える。
「ちょっとというか、大分怖いですよ」
「その命もらったぁぁぁ」
文脈を無視して創真に向け走り出す。
「断る!」
追いつかれないように真希から全力で逃げ始める。
刹那、
ブォーン、
物凄い音を立て身体の右側を何から通り過ぎた。
「おま、能力を使うのは反則だろ!」
通り抜けて行ったものは真希の作り出した風の刃であった。
「今のは警告よ! 次は当てる、それが嫌なら止まりなさい!」
(とりあえず超えの雰囲気だけはいつも通りに戻ったみたいだな)
そう判断し、命の危険はなくなったのでとりあえず止まる。
「止まったぞ」
「殴る!」
言葉と同時に拳が創真に向け飛び掛る。
「これで、殴られたじゃ、だめ?」
咄嗟のことなのでその拳を掌で受け止めガードしていた。
「駄目☆」
「ですよねぇ」
笑顔の真希が引き攣った表情の創真に一撃を喰らわせた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あーすっきりしたぁ」
満足げな表情で歩く真希。
その隣を頬を押さえながら歩く創真。
(この、沸点の低すぎる性格をどうにかして欲しいな、その分すぐ冷めるみたいだけど、一発殴るとかそういう目的は冷静な状態になっても遂行するみたいだ)
あまり真希をからかい過ぎると、命に関わると知った高一の春。
生きていることを実感させてくれる太陽に感謝しながら歩みを進めていく。
時間が経ったことで多少なりは頬の痛みが和らいできた頃、曲がり道を右に曲がるとそこには多くの学生たちがいる。
自分と同じ制服を着て同じ目的地へと向かうこれから一緒に学ぶこととなる同志たちが大勢歩いている。
「角一つ曲がっただけでこんなに人が増えるんだな」
驚きをそのまま声にした。
曲がる前にも数名は同じ学校の人はいたけれど、それでも数人、両手で数え切れる程度しか見かけなかった。
「そうなのよね、ここからなぜか一気に人が多くなるのよ、まぁ私たちもここを使うその他大勢の中なんだからあんま気にしなくてもいいんじゃない?」
「まぁそうだな」
大して気になったわけでもなく、ただ単に学生の多さに驚いただけなので、さほど興味はなかった。
その他大勢の中に加わりながら歩くこと数分、学校の手前、御友高校前公園の中に入った。
「試験受けに学校行った時もこの道を通って行ったはずなのになんか初めて通った感覚がするよ」
その原因は真希、それは確か。
「私もアンタと来たのは初めてな気がする」
その疑問に答えて見せる。
「今回はちゃんと歩いて登校しているからだろうな、朝っぱらから走らされるのは御免だ」
「ああそうか、前来た時は休日だったし、アンタ私のジャージ着てたからか、うん、納得」
創真の言葉をすべて無視して答えを導き出した真希。
(まあいいや、言い返したところで無駄だろうし)
こんなことを思いながら公園を抜け、学校の門をくぐる。
「じゃあ、俺はこっちからだから後でな」
事務室へ向かうために真希とは異なる方へと進む。
「そうね、後でね」
教室へ向かうために創真とは異なる方へと進む。
お互いが違う方向へと進んで行く。
「同じクラスだといいなぁ」
誰にも聞こえないくらいの小さな声でつぶやき、創真の後姿を横目で一瞬見た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
どうもこんにちは337(みみな)と申します。
今回は『あ、どうも、拾われました。』をここまで読んで頂きありがとうございます。
なんだかんだでこの作品を更新できたのは、なんと9か月振りみたいですね。自分自身でも驚いています。
この作品は元々同じタイトルの再投稿版となっていまして、投稿済みだったやつを多少手直しを加えていたのですが、今回からやっと新しいところに入れました。
この続きはいつ上げあられるかわからないですけれど、長い目で待っていてもらえると幸いです。
最後に他に書いている『なんでこんなに兄姉弟妹が!?』と『見えるから。』という作品も書いているのでよかったら読んでみてください。
それでは337でした。