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プロローグ

 プロローグ


 真希の誘拐事件が発生してからの二日後、創真は未だに布団の中で眠りついている。けれども、もう起きなくてはならない。

 理由は一つ。

 今日から学校へと登校することが可能となったからだ。だが、それなのにまだ寝ている。人間だから寝たいという欲求に打ち勝つことが難しいことはわかる。けれど、事件収束後、研究所ラボに戻ってすぐさまパーティーを再開し、そのお陰で、一睡もすることなく昼過ぎまで騒ぎに騒いでいたのだから、これで起きられないというのは、ただの自業自得なだけだ。

 ただですら、真希救出の際に体力を消費していたというのに、それに加え、寝ずに騒ぐという暴挙に出たおかげで、体力が風前の灯となるまで削り切っていたが、そんな体に鞭打ってどうにか研究所から真希宅まで帰宅し、ソファー兼ベッドに倒れこみ、夕食を食べることなく朝を迎えようとしている。

更に真希も同じ様に、どうにか帰宅することはできたが、玄関に入り靴を脱いだところで精根尽きその場に倒れこんだ。なので、真央ちゃんにどうにか介抱をさせて真希は自室て床に着くことができた。

 同じ様な肉体的疲労、何も分からない中で唯一人で待ち続けるという同等以上の精神的疲労をしているはずの真央ちゃんは驚くほどに元気であった。

 小学生の体力は凄いなと感心してもいたが、それ以上に真希と創真は追いかけ、追いかけられという状況をパーティー中何度も繰り返していたので、それが真央ちゃんとの体力の残量を違えた原因のネックになっているのはいわずもがなである。

 そして登校日の朝、何者かの脚が創真の元へと近寄る。

「がはっ!!」

(えっ、何!? この痛みは? 敵集? 敵集か! いや、違うな、同じ轍は踏まんぞ。これの正体は――)

「真希! 普通に起こせ!」

 身体を勢いよく起こし、腹を踏んだ張本人へと憤怒を表わす。

「あ、お兄ぃ、おはようございます」

「真央ちゃんかい――――!!」

 まさかの相手だった。こんないい子の塊のように思っていた真央ちゃんにこんな起こされ方をされて、寝起き早々に大声を上げていた。

「お布団と間違えて踏んでしまいました。ごめんなさい」

 ペコリ、といった感じに頭を下げる。

(ちゃんと謝ってくれたし、故意でやったわけじゃないみたいだから、赦しますか)

「ああ、いいよ、気にしていないから、それに真希に比べて全然重たくなかったからさ」

 本人が目の前にいないからこそ言える真実を言った。すると、背後から、ポキッ、ポキッと小気味よく骨を鳴らす音が聞こえた時にはもうすでに、自身の生殺与奪権は一人の人に握られた。

「今、アンタ、なんか大変失礼なことを言わなかったかしら」

 紡がれる言葉の節々には殺気めいたものが含まれており、目を見て真偽を確かめようにも、垂れ下がった髪で眼を確認できない状態のまま、ジワリ、ジワリと創真との距離を詰めていく。

「い、いえ、何も言っていないでございますよ」

 あまりの空気に慄き、ソファーから尻もちをついて落ち、後退る。

「私が重たい、とかそんな風なことをいっていたように聴こえたのだけれども」

 着実に一歩一歩と創真に向け脚を運ぶ。

「それはきっとあれだ、空耳ってやつだ。そうに違いない」

 冷や汗を垂らしながら距離を詰められまいと、手で床を押して後ろに下がり続けている。

「そんなことはないわ、この耳でしっかりと聴いたもの」

 下がり続けていたが背中に何かがぶつかって気がつく、後ろにはもう壁しかなく、これ以上下がることができないという状況に。

「え、いやそれじゃあ、あの――」

 何か別の言い訳を考えろ、と頭に命令をしてはいるものの、互いの距離がもう一メートルを切っており、殺気やプレッシャーがより伝わってきて、冷静になり切れない。

「言い残すことがあるなら、聴いてあげないこともないわよ」

 これが残された最後の希望、口八丁で誤魔化す最後の機会。

「じゃ、じゃあ、暴力は良くないと思いますよ」

 真っ先に浮かんだ言葉はこれだった、命乞いにしても安すぎる言葉だが、真希が動きを止める。助かったのか、という一抹の希望がみえてきた気がした。

「それで?」

 所詮気がしただけであったが。

「いや、だから、その」

 死亡宣告を受けたのと同義だった。

「いいたいことはそれだけ?」

 たれ髪の隙間から、どれだけの血を見てきたのか測り知ることのできない闇を孕んだ双眸が覗く。

「……はい」

 断罪をするために掌が握りしめられ、制裁を下すための拳になった。

「はっ!!」

 断罪の拳が上から下へと振り降ろされ、創真の腹へと鉄槌を下した。

「ギャァァァァ――――」

 裁かれ死にゆく者の断末魔だけが、その場に響いた。


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