第3-3章
「もう準備はできてるか」
「はい! できてます!」
物凄い早さで進むバイクの上で確認を取る。
法廷速度を守っているのかと訊かれたら、自信をもって「いいえ」と答えられる程に。
「そうか、ならいい。もう少しで着くからな」
「はい!」
街灯もまばらになってきた道を進む。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
扉を押そうとした際にかけられた声に驚き制止していた。
「ええ、そうよ。私の鞄をこの中に忘れたみたいなのよ」
創真よりも先に答える。
「あら、そうだったの」
いまだに声だけがシャッターの奥、おそらくガレージから聞こえる。
「だから取らせてもらうわね」
「わかったわ、入らせてあげる。だだし」
そう言ってから言葉を止める。
「ただし何よ」
一向に言い出そうとしないので苛立って訊く。
「私が直接あなたを案内するけれど」
いい放った刹那、ガレージから巨大な何かが飛び出てきた。
「えっ!?」
また驚く真希。
「王道パターンだな」
妙な事を呟く創真。
ガレージから出てきた物は、シルエットからは人形と思われる巨大ロボットだった。
腕があり、胴があり、頭がある、脚はキャタピラになっていた。
「いや、アンタ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
焦る真希。
「ん、ああ、そうだな。こりゃそんなこと言ってる場合じゃなさそうだな」
冷静な創真。
「とりあえずここは逃げる?」
「その方が良さそうだな、パターン的には指先から銃弾が飛んでくるなんてことありそうだし」
会話が聞こえていたらしくロボットから声がくる。
「あら、その通りよ。よくわかったわね」
「マジっすか! よし、逃げるぞ真希」
適当に言ったことが当たったことに驚き、急いで逃げると決める。
「あら、そうはさせないわよ、あなたには散々邪魔をされちゃたしね。無事に還すようなことはしないわ」
ロボットの右腕を創真に向ける。向けた腕の先にある五本の指な先がドームのように開き、中かに銃口が見える。
「終わりよ」
女の冷酷な声が終わりを告げる。
声の直後に無数の銃弾が地面に着弾した音が轟く。
撃たれた後には静寂と砂煙が残る。
「さあ、邪魔者が排除されたしあなたをもう一度招待してあげるわ」
「誰が排除されたって?」
砂煙が立ち上る中から声がする。
「!」
今度は女の方が驚かされる。
「助かったよ、真希」
「ホントよ、アンタどんだけ無茶したいわけよ」
「あら、一体どんな手品を使ったのかしら」
疑問に思う女。
「手品じゃなくてただ能力を使っただけよ。アンタの右腕を見てみ」
創真に向けられていたはずの腕が狙いよりも下に向けられていた。
「なるほどそういうことね」
腕が真希の上からの風の攻撃により押されたことに気づく。
「そういうことよ。今度は全身を吹っ飛ばしてあげようか」
強気でいい放つ。
「だから、高レベルの能力者は嫌なのよ」
ロボットからそう呟かれる。
「それはすみませんね」
呟きに対して答える。
女は「聞こえていたのね」と言ってから話を続ける。
「私が高レベルの能力者が嫌いな理由は簡単に言えば嫉妬かしら。レベルが高いと言うことの優越感に浸っているのが許せないのよね」
真希が「そうなの」とうなずいて話を聞く。
「こんなは理由ならレベルの低い人なら皆抱いている様な理由よね、でもね、これが一番の要因なのよ。優位者はその地位を甘んじて受けとる。低レベル者には手が届かないものだというのに、そういうのが許せないのよ」
女の言葉を黙って聞いていた真希は少しの時間考えを巡らせてから口を開く。
「そうよね確かに、私もそう思うわ。でもね、レベルの高い人たちが皆あなたのいう優位者だとは思わないわ」
「あら、そういう発言は優位者だからできるのではないかしら」
「私はそうは思わない。少なくともあなたがそんなことをいうのは他の能力者に失礼だと思うわ」
「あら、どういうことかしら。レベルが高いそれだけで優位になるんじゃない? あなたが今生活している学校という空間でもレベルが高いだけで、持て囃される。能力をひけらかして悦に入る。そんな人もいるんじゃないかしら」
もう一度の沈黙。
「ええ、確かにそんな人もいるわ」
沈黙の中で思ったことを伝える。
「でもだからってそれがなんなの? 能力っていうのはどこまで突き詰めても所詮はただの能力。それ以上でも以下でもないのよ、そんなんで判断するな、アンタは自分のレベルに甘えて、今たっている場所に満足を得ているからそう思うんじゃないかしら」
「結局そういう考えは優位に立っているから言えるじゃないかしら。そんな人に私たちの気持ちがわかるのかしら」
「わかるよ!」
大きな声で叫び、ロボットの奥にいる女を見据えるかのように見つめろ。
「私はね元々はレベル3だったのよ、まあだからってそのことで劣等感を感じたことはなかったのよ」
今度は女の方が話を聞く。
「でもね、両親が最先端区域に行った時に思ったのよ、私のお父さんとお母さんは本当に凄い人なんだって、だから、だからこそ、そんな両親を超えたい、物凄く驚かせたいそう思ってから私が両親を超える事ができる事はないかって考えて思いついたのが能力なのよ、勉強は嫌いだったから科学者でトップを取る事は諦めたけれど、能力者の中ではトップを取りたい、取るって決めたの。それからは恵理奈さんに手伝ってもらって7年間ずっと能力開発をしてきたのよ。もちろん今も続けているわ。あなたは諦めないことを諦めた。私は諦めていないそれだけの差よ」
女は無言だった。何も言い返さないという事は、真希が言っていた事が的外れではなかったという事だろう。
「だから私は自分のレベルの事を自慢したりはしない、アンタが私をレベル3だと思ってたように、学校の人も皆レベル3だと思っている。尊敬されるようなことは何一つしていないんだし、それで持て囃されるのも嫌だしね」
「あら、だったら正当な評価を受けなさい。それが努力に見合う当然の対価なのだから。それに、そんな理由でレベル3と偽っているのなら、他のレベル3の人に対して失礼になるんじゃないかしら」
三度目の沈黙。
「そうね、わかった。私はもう自分のレベルを偽らない」
何かを得心し、決意した強い声。
「そう、それはいい心がけね。最後のご講義ありがとうございました」
いい終えた刹那、右腕を真希へと向ける。
「あなた達を始末して逃げさせてもらうわ」
銃弾が放たれる直前に真希の前に回りこみ、右腕をまえに突き出す創真。
「創真逃げて! 今回は間に合わない!」
目の前には私を庇おうと立っている創真が見えたと同時に、銃弾が飛び二人へと向かう。そして、人の命を奪うには十分すぎるほどの灰色の雨が降った。
「え!?」
状況を理解できずにいる創真と女。
「あっ!」
状況を理解し、安堵のため息を漏らす真希。
なぜ二人が無事だったのかその理由は、二人とロボットの間に突如現れた黒い塊にあった。
その塊が銃弾を受け止め二人を守ったのであった。
「あら、今度こそどんな手品なのかしら。皆目見当がつかないわ」
無理難題を突きつけられ困惑する。
「だから、能力よ」
その問題に真希が一瞬で答える。
「あら、ありえないじゃな。あなたの空気を操作する能力のではこんな事は不可能じゃないかしら」
「誰が私の能力って言った?」
「あら、じゃあ誰かしら」
「気付かないの? この音に」
どこからか、唸るような音が近くで聞こえる。
「あら、確かに何か聞こえるわね」
「あ、本当だ」
二人が気づく。
「アンタ、逃げるなら今のうちよ」
「あら、それは私に言っているのかしら」
「他に誰かいるかしら」
辺りを見回しながら言う。
「あら、いないけれど、あなた達を倒すまでは逃げないわ」
「そう、ならいいけれど」
忠告は聞き入れられなかった。
そして、唸る音を出していた正体が到着する。
「危機一髪です!」
「二人とも無事か」
唸る音の正体はバイク乗っていたのは恵理奈さんと流深ちゃん。
「流深、助かったわ」
二人がバイクから降りる。
「はい、助けました!」
「無事そうだな」
「はい、大丈夫です」
真希が答える。
「一気に片付けるです!」
言い放った直後流深ちゃんの腕の先、袖を捲られた手から青白い光がでた。
「創真、急いで下がって!」
「え、何で」
「いいからっ」
状況を理解する猶予も与えられず、真希によって恵理奈さんの方へと吹き飛ばされる。
飛んだ創真とすれ違うように黒い塊が飛ぶ。
黒く巨大な塊は津波のようにロボットへと進んでゆく。その幅は研究所の敷地程あり、高さはロボットをゆうに越していた。
黒い波がロボットに衝突する。
圧倒的な質量と威力で押し流されるかと思ったが、少し後退しただけで立っていた。
黒い波が通った後は黒く染められていた。波は敷地全体を通り抜け眼前に見える景色は、黒く染め上げられたものだった。
創真の前に辺りを染めたものがあったので手にとってみる。
「これは・・・砂鉄?」
「ああ、そうだ」
答えた直後辺り一面を覆っている砂鉄の一部に恵理奈さんが触れた。
「うわっ、凄っ」
創真が驚いた理由は目の前にあった大量の砂鉄が大きな一枚の鉄板へと変化していたからだ。
「そうか、流深ちゃんの能力は発電系で恵理奈さんは物質結合系の能力者なんだ、しかも上位の」
「ああ、そうだ」
短く答え、再び鉄板に触れる。するとロボットの足下の鉄板が綺麗に切られたようになり、地面とロボットにくっつくように鉄板が二分された。
「流深、頼んだ」
「はい!」
返事をした直後、指先から光が広がる。
刹那、砂鉄の津波により、塗装は剥がれ、表面は荒い鑢の目になったロボットが浮き上がり、真希と創真のいた建物へと飛んで行く。
飛ばされた先にも、もちろん鉄板があり、打ち付けられ、両腕を開かせられ大の字の様になり、地面から若干浮いた形で静止した。
「さて、これでようやく落ち着いて話せるな」
振り向き続けて話す恵理奈さん。
「二人とも本当に無事そうだな、安心した」
怪我をしていないかと二人を見回す。
「ええ、私はなんともないわよ」
笑顔で返す真希。
「俺もさっき真希に飛ばされて擦りむいた以外は大丈夫です」
答えてから飛ばした張本人に一瞥するが顔を逸らされる。
無事を確認し終えたので敵の方へと振り返る。
「たっぷり礼をさせてもらおうか。浮華冷菜!」
ロボット越しの相手を睨みつける。
「あら、よくご存知で」
ロボットから浮華冷菜の声が返ってくる。
「恵理奈さんアイツと知り合いなんですか!?」
真希が訊く。
「いや、直接会うのは初めてだ。だが、あの兵器を見てそう思った」
「どんな奴なんですか?」
今度は創真が訊く。
「確か元々は能力者監視委員に所属していたんだ」
「能力者が暴動を起こしたりしないか見張る警察みたいな所ですね」
「ああ、そうだ。そこの技術部、暴動などが起きた際、鎮圧に使う武器の開発する部署に居たんだが、鎮圧する際に必要以上な威力の武器、端的に言えば殺人兵器を作るようになり追放されたと聞いてる。あれとかを造り始めたんだろうな」
そのあれこと、ロボットを見つめる。
「確かにあんなのを作り始めたら追放されますね」
「あら、追放されたのではなくて私から辞めたのよ」
浮華がロボット越しに答える。
(あ、聞こえていたんだ)
心中でつぶやく創真。
「もし、大規模な暴動が起きたら。もし、高レベルの能力者が暴動を起こしたら。
それを踏まえて新たな武器を開発していたのに、それは只の殺人の兵器だとか言われたのよ。それで頭にきて抜けたのよ」
「それはただの逆切れなんじゃ・・・ それにその人が言っていたことは正しいと思うのは俺だけだろうか。現にさっき殺されかけた訳だし」
銃撃されたときの事を思い出す。
「確かに私も殺されかけたわ」
ここに二人の証人がいる。
それに対し浮華はこう反論した。
「あら、あなた達を殺すつもりは最初からないわよ、さっき撃ったのはゴム弾。威力こそ強めにしてはいるけれど、殺傷能力はないわ」
「殺傷能力がなかったら良いって訳じゃないでしょ! もし喰らっていたら私たちは大怪我していたかもしれないじゃない!」
真希が浮華の反論に噛み付く。
「あら、実際には喰らっていないから、気にする事はないんじゃないかしら」
悪びれた風もなく返した。
「喰らった、喰らわなかったとかじゃなくて、私が言いたいのは――」
真希の言葉の途中恵理奈さんが腕を真希の前に出し静止させる。
「もういい、こいつはさっさと動けなくして警察に突き出す」
「あら、あなた達にそんなことができるかしら」
「ああ、そんなポンコツロボは破壊する」
言い放ち目の前にある鉄板にもう一度触れる。
すると、鉄板の一部が銃弾の様な形に変化した。
「流深!」
「はいです!」
返事と同時に流深ちゃんの指先から青白い火花が散り、刹那、銃弾の形をした鉄塊を浮かせる。
浮かんでいる鉄塊は先程撃たれたゴム弾とは比にならない程の数があった。
「えいっ!」
流深ちゃんの短い掛け声を機に、浮いた鉄塊がロボットに近い方から順々に飛んで行く。そしてそれらが全てロボットへと直撃する。
金属同士がぶつかり合う音が響き終え、静寂になる。ぶつかり砕けた鉄塊は中を漂ったり、地面に着地していた。
攻撃を受けたロボットは撃たれる前と同じ姿でそこにあった。
多少ボディーに傷が増えてはいたがそれだけだった。
「流石に硬いな」
恵理奈さんがつぶやく。
「あら、これで攻撃はおわりかしら」
浮華が挑発の声を上げる。
「いや、まだある。流深、アイツを覆ってくれ」
「はいです!」
恵理奈さんの指示に通りに、流深ちゃんがまだ中に浮いていた大量の砂鉄を操り、ロボットを覆い包む。
そして、近場の鉄板に触れ、ロボットを覆っていた砂鉄を固め、鉄板へと変化させ、動けなくする。
「では、終わらせるか」
言ってからロボットの下へと一歩ずつ近づいて行く恵理菜さん。
その後に続こうとする三人。だが、
「真希と流深はそこに残れ」
恵理奈さんが告げる。
「何でですか!」「ボクも行くです!」
真希と流深ちゃんが不平を言う。
「真希は流深の護衛。流深は非常時の時そこにいる方が都合がいいからだ」
「わかりました」「わかったですぅ」
二人とも渋々納得する。
「じゃあ、創真はそっちなんですか?」
やはり納得がいかないのか質問をする。
「それはそっちに置いて置いても意味がなさそうだからこっちにした。それだけだ」
(なんか俺、どうでもいい理由でこっちなんだ)
「あ~あ、なるほど。納得しました。」
「それで納得すんのかよ!」
思わず声を上げていた。
「だってこれ以上に納得できる理由がある?」
「ないですね。そうですね」
(ここで突っかかっていても無駄なだけだな)
という事で、二手に別れてから歩き、ロボットの前に到着。
近くに来てちゃんと見るとやはりでかい。
「まずは腕から分解するか」
俺に教えてくれたのか、ただの独り言かはわからないが、つぶやいてから、軽く地面の鉄板を蹴り、自身が乗っている部分を持ち上げ、台のようにし腕の正面に着く。
どうやって分解するのか興味心身で見つめる。
最初に鉄板に触れ、それをもぎ取り捨て、そこにロボットのボディーが現れ、手を触れ目をつぶる。
(どんな金属を使っているのか探しているのか、確か物質結合の能力で物を変化させるには、それが何なのか理解していないと能力が使えないみたいだからな)
「わかった」
つぶやいた直後にロボットの右腕が落ちた。
次に同じ要領で左腕を落とし、キャタピラと胴の接合部分も切り落とした。
(決着ていうのは案外呆気なくつくもんだな)
最後に胴を真っ二つに割る。
「あら、わたしの負けかしら」
操縦席に座っていた浮華が両手を挙げて中から出てきた。
「なんて言うと思ったかしら」
言葉と同時に両腕を下げ、袖口に仕込んでいた拳銃を二丁取り出し、恵理奈さんへと向け連射する。咄嗟にそれを避けるために右側へと飛び込む様に回転し、鉄板の敷かれた地面の上を転がる。
「流石にやるわね」
咄嗟の攻撃を避けるだけではなく、もう攻撃の効かない状態になっていた。
浮華と恵理奈さんの間には二人を隔てる様に一枚の壁が出来上がっていた。
その壁は鉄製、回避した際の転がった一瞬で地に手をふれて壁を形成した。
注意が自分に来ていない事に気付いた創真が浮華の背中目掛けて走り出す。
足音を殺した走り方で背中へ近寄り、勢いと腕力を込めた拳を浮華に放つ。
感づかれる事なく放った拳が浮華の背中へ着々と進み、命中し吹き飛ばす。
だが、吹き飛ばされたであろう場所には誰も居らず、細長い何かがあった。
細長く立った四本のなにか。辿るように下方から上方へと視線を滑らせる。
最初に見つけたのは人の脚。次は腕と胴。次は頭。その顔をよく見つめる。
それは見覚えのある、最近であった人物。今対峙している敵。浮華だった。
細く延びた四本の棒は支える脚。その脚は浮華の首の後ろ辺りから延びる。
黒い脚が浮華を少し浮かせた状態にし、支える。背中に何かの機械が有る。
「あら、後ろからの攻撃なんて卑怯じゃないかしら。おかげ様で起動しちゃったじゃない」
言う事を聞かない子供に諭すかのように創真に告げる。
「そんなよくわからない物を使うよりは、卑怯じゃないと思うけどな」
よくわからない、という言葉に反応したのか述べだした。
「あら、これはただの安全装置よ。まだ開発中だけれど、なかなかいいのよ。自身の危険に気付いた時に身を護ってくれるのよ。今回は気付くことができなかったけれど、本体を攻撃してくれて助かったわ。もうあなたの攻撃は当たらないわよ」
「へぇ、面白そうだな」
安い挑発に乗り、浮華へ向け走り出す。
そして、四本足に支えられている浮華の直前に迫る。
(脚の中に入り込むのは危険そうだな)
試しにと支えている脚の一本に蹴りをかましてみるが、やはり人の蹴り程度ではビクともしなかった。
「あら、その程度かしら。次は私の番ね」
そう言った直後に背中に背負っている本体から二本の棒を新たに出し、腕として使う。
そしてその腕で左前足に当たる脚を蹴った創真に向け突きを放つ。
放たれた突きに体を半身捻ってかわし、腕が地に着く直前に掴み投げる。
敵の運動エネルギーを利用し投げ飛ばそうとしたが、後ろ足に当たる棒が浮く程度が限界だった。
タイミングを完璧に合わせたウルトラCの技であったが、バランスを崩すのが精一杯だった。
反対の腕で突っ張り体制を立て直した浮華が今度は突きではなく、薙ぎ払うように攻撃をしようとしたが、体制を崩した間に創真のことを見失っていた。
「うっ」
いきなり低く苦しそうな声が上がり、浮華が崩れ落ちる。
倒れた理由は僅かな隙に死角となる真下に走りこみ、腹に一撃を決めていた。
そして、一瞥しその場を離れる。
「恵理奈さん」
「ああ」
短いやり取りだったが、それだけで伝わった。
返事をした直後地面に手を付き、浮華の機械でできた手足を鉄で動けなくし、歩き一歩ずつ近づいて行き、動けなくなった浮華の背後に立つ。
「今度こそチェックメイトだな」
「そうみたいね」
苦しそうな声を上げる。
その声を聞いてから浮華の背負っている機械に触れ、先程のロボットと同様に砕いた。
「片付いたな」
浮華の事を見下ろし、携帯を取り出し何処かへ電話をかける。
「私だ、終わったから来い」
一言だけを告げて携帯をしまう。
そして、数十秒後に5台の車が来る。
一人の男が先じて車から出て声を上げる。
「御友! ホシはどこだ!」
「一人はここにいる、他の奴はそいつが知っている」
ホシって犯人のことなんだぁっと思っていたら、話が回ってきた。
「で、どこにいるんだ?」
男が創真の近くに駆け寄ってきて訊く。
「あの建物の中に十人ちょっといます」
「そうか、人数が多いな、応援を呼んでくれ」
つぶやいてから、乗っていた車の助手席に乗っていた男が「はい!」と返事をする。
「今から突っ込むぞ! ついて来い!」
男が他の車に乗っている人達に告げる。
そして、車に乗っていた全員が建物の中へと突入する。
「恵理奈さんあの人は誰なんですか」
「ああ、アイツは竹口、刑事だ」
「へぇ、そうなんですか。どういう知り合いなんですか?」
「単なる大学時代の友人だ」
と、そこに真希と流深ちゃんが合流する。
「二人とも怪我してない?」
真希の駆け寄っての第一声。
「大丈夫だ」「俺も大丈夫!」
恵理奈さんと創真が答える。
「安心したです!」
真希の気持ちを代弁した流深ちゃんが笑顔で返す。
そこに竹口が建物の中から出てきて訊く。
「中の奴らをやったの誰だ」
真剣な眼差しが向けられる。
「あっ、それ俺です」
挙手する。
「よくやったな、お前すげぇよ」
微笑を含んだような声でかえす。
「竹口丁度いいところに来た。この二人を送っていってくれ」
恵理奈さんが創真と真希を指す。
「はぁ、なんでだよ。警察はタクシーじゃねえぞ。御友が送って行けよ」
あからさまに拒絶をする。
「構わんが私はバイクで来ている。ということは警察が4人乗りを推奨するという事でいいんだな」
(これは軽い脅迫だな)
「いや、そんなことは言ってないが、っ、あー、もう、送ってきゃいいんだろ」
頭を掻きながら嫌々承諾する。
(流石恵理奈さんだな)
心中で苦笑いの創真。
(とりあえず帰る足ができたからいいか。いいよな、うん)
無理矢理押し入るようで申し訳なく思う。
「それじゃあ竹口さん、よろしくお願いします」
創真がそんな事を思っていたのに遠慮なしの真希。
「お願いします」
それに続く創真。
「あいよ、ほら、サッサと乗りな」
乗ってきた車に戻る竹口。
「「はーい」」
小学生のように返事する二人。
そして乗り込む。いつの間にかに恵理奈さんと流深ちゃんもバイクに跨っていた。
「御友、先導してくれ」
「ああ」
ということで出発して研究所へと向かう。
空の色はもう黒だけではなく、赤から青へのグラデーションがかかり始めていた。