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第3-1章

   第3章 パーティーお開き



「お姉ぇ帰って来るの遅いですねぇ」

 真希が買いだしに行ってからもう一時間は経っていただろうか。

「まだ一時間くらいだし買うものに悩んでいるんじゃない?」

 創真が真央ちゃんに答える。

「お姉ぇならもうとっくに帰ってきていいんですよ。コンビニは歩いて五分くらいの所だし、お姉ぇが買い物にこんなに悩むはずがないんですよ」

 心配しているせいか語尾がどんどん弱くなっていく。

「確かに悩んでいなかったな」

 昼間に買い物につき合わされていたときの事を思い出していた。

 買い物の仕方は目に付いた気に入ったものはすぐ買うと言う感じで全く悩むような素振りが見られなかった。

「だから心配なんです」

 また言葉弱く答える。

「じゃあ俺がちょっと見てくるよ」

 言い放ち部屋を後にしようとする。

「コンビニは玄関を出てずっと真っ直ぐの所にあります」

 真央ちゃんが場所を告げる。

「おう、わかった。じゃあ行ってくるよ」

 言いながら軽く右手を上げる。

「はい、行ってらっしゃい」

 真希のことが心配なのだろうか、ずっと弱々しい話し方だった。

(まったく、真希の奴、妹にこんなに心配させやがって、姉なんからもっとしっかりしろよな全く)

 心中で悪態をつきながら階段を上り、メインルームに繋がる扉を開け進み、玄関へたどり着き外に出る。

「ん?」

 外に出て何かに気づいた。

「こんな時間に手紙って届くものか?」

 気になったので、郵便受けに入っている封筒を取り出す。

「送り先、差出人名なし、消印もなしってことは、直接ここに入れたってことか」

 封筒を見回しながら考える。

「流石に俺が開ける訳にも行かないし恵理奈さんに渡すか」

 先程出たばかりの研究所の中に引き返す。

「恵理奈さん」

「何だ」

「郵便受けの中に怪しげな封筒が入っていたので渡しておこうと」

 持っていた封筒を差し出す。

「そうか」

 封筒を受け取り中身を確認する。


 クシャ、


 中身を確認するや否や、恵理奈さんが封筒の中に入っていた紙を強く握っていた。

 表情もいつもと変わっていた恵理奈さんに恐る恐る訊く。

「どうしたんですか?」

「真希が誘拐された」

「え?」

(え、なんで、なんかの冗談?)

 予想打にしない事態に困惑して、頭の中が混乱していた。

「おい、大丈夫か!」

(恵理奈さん一体どうしたんだ? 何に大丈夫かって訊いているんだ?)


 バシッ、


「いてっ」

「しっかり意識を保て」

 いつの間にか地面にへたり込んでいた。どうやら混乱して意識が朦朧としていた所を恵理奈さんが叩いて覚醒させたようだ。

「すいません」

「いいから落ち着け。私は流深を連れて来る」

 気持ちを落ち着かせるために四五度深呼吸をする。

 そして、皆がパーティールームから駆けてくる。

「真希ちゃんが誘拐されたですって!」

 流深ちゃんが先頭を気って走ってくる。

「ああ、本当みたいだ」

 俯き篭った声で答える。

「僕が絶対に見つけるです!」

(そういえばさっき恵理奈さんは流深ちゃんを連れてくるって言ってたな、という事は流深ちゃんには真希を見つける何かしらの術があるのか)

 そう思い、暗くなっていた心の中に微かな光が零れてきた気がした。

「頼むよそれでどうやって探すんだ?」

「周辺の防犯カメラにハッキングして真希ちゃんの足取りを追います!」

 言い放ちすぐさまパソコンへと向かい、幾つものパソコンを操作し始める。

「だから、流深ちゃんを呼んだんですね」

 道徳的なことを注意したいが今はそれど頃ではなかった。

「ああ、何処で覚えたのか知らんが、ハッキングの技術は私以上だ」

 パソコンのモニターを見ながら答える。

 恵理奈さんもできるんですか、そう思ったが口にはしない。

 実際問題今現在ではこの方法でしか探す術がないのは事実。唯一の希望を批判し止めさせるわけにはいかない。

「後どのくらい掛かりそう? 流深ちゃん」

「もう、防犯カメラへの浸入おわってます! 今は真希ちゃんをさがしています! あ、

いた!」

 真希が黒いスーツだろうか? その男に後ろから口を押さえられ身動きを取れないようにさせられていた。そして突然消えた。

「えっ!? 消えましたよ?」

 皆に訊く。

「おそらく防犯カメラには映らないよう自動車に細工をしたようだな」

「そうみたいです! 今から防犯カメラのサーモグラフィーモードで追跡します!」

 答えが帰って次の手が打たれる。

「で、今どこかわかる?」

 流深ちゃんに訊く。

「残念ながらわからないですぅ。エリア8に入った辺りからサーモグラフィーでも追跡出来なくなりました」

 落ち込んでいるのか俯きがちに答える。

「エリア8っていったらここから来たの方だな、わかった、捜しに行ってくる」

「待て!」

恵理奈さんの静止にも気付かず、勢いよく研究所から飛び出る。

「行ったか」

 静止仕切れなかった恵理奈さんがつぶやく。

「流深、真希の居所はわかったか?」

「いいえ、まだですぅ。エリア8に入ってから全く足取りが掴めないですぅ」

 モニターに向かったまま悔しさを滲ませる表情で答える。

「となると、あいつだけが頼みの綱という事か」

「はい、そうです!」

「見失うなよ」

「はい、わかってます! 絶対に見失いません!」

 そして、部屋にキーボードを打つ音だけが響く。

 流深ちゃんは、パソコンに向かい、恵理奈さんは流深ちゃんのサーポートに入る。真央ちゃんは真希の無事を必死に願う。

 多数あるモニターの内の一つは自動車の通ったルートが表示されていた。

 多数あるモニターの内の一つは何処かの地図を表示され赤い点が点滅していた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 月明りに照らされる夜空の元、走るシルエットが街中を駆け、公園へと抜ける。

(真希、どこだよ)

 何も考えず無我夢中で走っていたらここに着いた。

 走っていた理由はただ一つ真希を探していたからだ。

公園に来たのは付き合いがまだ短いながらも一番思い入れが、思い出があるからだろう。

(エリア8って言えば向こうの方向か)

 北の方角を遠く見つめ暫く立ち尽くす。

 辺りは静寂に包まれていた。立ち尽くしていつ創真自身も動く気配が一向になかった

 動いているものは時たま吹く風に煽られ、揺れる、指輪にチェーンを通して作られたネックレスだけであり、風で揺れるたびに光を反射し輝いていた。

 静寂の中に立ち尽くす創真、真希を探しているにも関わらずいまだに動く気配がみられない。

(みつけた!)

 心中で大きく叫ぶ。

 静は破られ地面をける音が響く。

 静は破られ体が動き出す。

 創真が暗い闇の中へと駆ける。

 駆けて行く者が見えなくなる瞬間に一つの小さな輝きが見えた。

 そして、闇夜の中人の気配が完璧に消えた


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「少し買いすぎちゃったかな」

 手に下げているレジ袋を眺めて言葉を漏らす。

「皆も待っているし早く帰らないとね」

 研究所の方に進もうとした刹那、何者かに取り押さえられた。

(え、何!? とりあえず、風でぶっ飛ばすか?)

 など、思案している最中に取り押さえている男が耳元でつぶやく。

「抵抗をするな、そうすればお前の身の安全は保障する」

(抵抗するなってこの状態でしない方がおかしいてしょうが!)

 ぶっ飛ばすと決意する。

 男が続けてつぶやく。

「保障するのはお前だけであって、研究所にいる者の安全を保障するか否かは、お前の態度しだいだ」

(まさかこんなのが向こうにもいるの? それともただのはったり? いや、今はこいつの言う事を聞いておく事が先決か?)

 万が一、研究所の方にもこんな奴らいる可能性を考えて今は大人しく従う事にした。

 そして、自動車の中に連れ込まれる。

 私の後に続き男も自動車に乗り込む。

「どうも、いらっしゃいませ。彩吹真希さん」

 運転席の方から女性の声がする。

「どうも、ご招待頂きありがとうございます」

(なんなのよ、一体こいつらはいったい何? とりあえず今は弱気なところは見せるべきではない。努めて強気でいかないと)

「あら、威勢のいい元気な子で」

「それはどうも、で、なんの御用でしょうか? わざわざ世間話をするためにこんな事をするとは思えないんだけど」

「あら、そんな焦んないで本題は後で話してあげるから。まずは携帯電話を出してもらえないかしら」

「残念ながら、今は持っていないわ。近くのコンビニに行くだけのつもりで、こんな寄り道をする予定はなかったもので」

(ホントなんで携帯もってこなかったのかしら)

「あら、そう、ならいいけれど。ならここからは本題ね、もうわかっていると思うけれど私たちはあなたの事を誘拐させてもらうわ」

(まぁ、どっからどう見ても誘拐だしね)

「私を誘拐してどうするつもりなのかしら?」

(ここは、相手の目的を知るためにも、なるべく多く話して情報を得ないと)

「目的ねぇ、それは後で話すとしてあなたのご両親はどうしているのだっけ」

「私の両親がどうかしたんですか」

「いいえ、ただの興味本位で訊いているだけよ。で、どうしているのだっけ?」

「最先端区域で働いているわよ」

「そう、最先端区域で働いているわね」

(知っているのならなぜ訊くのかしら)

続けて自動車を運転している女が話す。

「最先端区域って、凄いところよね、研究設備は物凄く充実しているし、いい所よね」

「そうみたいですね、それがどうかしたんでしょうか」

「私もね最先端区域で働きたいのよ。でも、まだ私には招かれるだけの実績がないのよ」

「だから、それと私を誘拐する事に何か意味があるんですか」

 真希の話を聞いているのか、いないのか、わからないが女が話を続ける。

「自分で言うのも難だけれど、私は科学者としての実力はかなりのものなのに、なぜ招待されない」

(自意識過剰なだけなんじゃ)

「そして、辺りを見回して気がついた。研究所に備え付けられている機材がどれだけ低スペックでクオリティーが低いかを、こんなものでは素晴らしい実績なんて残す事はできない、と」

「そうなんですか」

 適当に相槌を打つ。

「そうなのよ、だから私は誘拐をした」

「唐突に答えだしましたね。正直いって文が幾つか飛んでて何を言いたいのかわからないんですけれど」

「あら、わからないの? 簡単なことよ、あなたを使って身代金を請求しようって事よ」

「それだったら、なんで私なんかを誘拐するのかしら、他の人を狙った方がお金が手に入るのに」

「あら、そんなかまととぶらなくっていいのよ。ある程度の事は調べてあるんだから。あなたの両親は最先端区域で働いているわね」

「それは、さっきも言ったと思いますけど」

「その両親から毎月、大量の生活費を振り込まれているみたいね」

「まあ、よくご存知で」

「それでも振り込まれえているお金は給料の極一部みたいのよね」

「へぇ、そうなんですか。でも、誘拐する相手が私でよかったです」

「ええ、私たちも最初からあなたをターゲットにしていたから意見が一致して嬉しいわ」

「なんで私を?」

「理由は簡単。御友恵理奈は確かにお金を持っているけれど狙うにしてもリスクが高すぎる。私たちも流石にレベル8を相手にしたくはないわ。そして浅石流深こいつを誘拐して、御友恵理奈から巻き上げようと思ったけれどこいつもレベル7と厄介。最後に彩吹真央、彩吹真央このどちらかを誘拐するとしたら、あなたになったわけ」

「私を選んでくれたことは感謝します」

「真希の方にした理由は簡単二人ともレベル3なら、姉の方を誘拐して妹を自由に動かす。姉が危険な身にあるって知れば、あなたより従順に動いてくれそうだしね」

「その判断は正解ですね。私が残されていたら、どんな手段でも使って乗り込んでいましたし」

(本当に私の方でよかったわ。真央は本当にレベル3だから。私ならその気になればいつでもここから出られるし)

 自動車が十字路を左へと曲がる。

「さて、もうそろそろ私の研究所が近い事ですし」

一拍間を空けて話す。

「眠ってもらうわ」


 ビリッ、


 真希の隣に座っていた男がスタンガンで真希を気絶させる。

 朦朧とする意識の中、最後に車窓からの夜空が見えた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「恵理奈さん!」

 キーボードの音だけが響いていた部屋に大きな声が轟く。

「どうした」

「いきなり移動しました!」

 焦り、驚いていた。

「どこに行った」

「エリア8の15―8です!」

「馬鹿な、さっきまで公園に居たのだぞ」

 恵理奈さんも珍しく驚いていた。

「はい、走り出したと思ったら次の瞬間には移動していました!」

「電波は問題なく受信しているか」

「はい、なんの不具合もでてないです!」

「ならいったいなんなんだ。まさか・・・いやありえないな」

 何か考えが浮かんだが、一瞬で一蹴した。

「桜空の能力は確か速遠兼眼レベル10だったな」

 流深ちゃんに確認を取る。

「はい、そうです!」

「人は一人一つの能力しか持てない。なら、これはどう説明すればいい」

 創真の瞬間移動に困惑する。

「実際の能力は瞬間移動テレポート系の能力だったが、テストで上手く欺いたか? いや、それでもおかしい。御友高校前公園からエリア8の15―8までの距離は瞬間移動レベル10でも一回で飛べる距離ではない。流深、他の場所で電波は発信されたか?」

「いいえ、されてないです!」

「そうか・・・手掛かりが他にない以上そこに向かう。流深、行くぞ」

「はい、行きます!」

 二人が颯爽と玄関へと向かう。

「真央、留守番頼んだぞ、必ず連れて帰ってくる」

「はい、わかりました。待ってます」

 赴く者、佇む者、ここで二者に別れる。前者二人は玄関を立ち、後者は椅子に座り祈りを送る。立つ場所は違えど、同じ思いを持つ者達の心は一つである。

 研究所の隣に建つガレージへと向かう。

 ガレージへと着き、シャッターを開け、勢いよく、綺麗にバイクに跨る恵理奈さん、その後ろにちょこんと座る流深ちゃん。

「流深、あれの準備をしとけ、大きな戦いになる可能性が高い」

「はい、わかりました!」

 返事をするなり垂れ下がっていた袖を捲った。

 シャッターが自動で閉まり、バイクを噴かす音が辺りに響く。

「行くぞ」

「はい!」

 バイクの轟音が響きわたり、テールランプが赤く尾を引いて行く、何もかもを包み込むかの様に黒く染まった空の下を。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



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