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この家は日本家屋のくせして、やけに明るい。わたしが以前、住んでいたアパートとは段違いだ。おかげでいつもより早く目が覚めてしまった。しばらくボンヤリたそがれていたけれど、起きなきゃと思って立ちあがった。
昨日、雨戸を閉めるのを忘れたことに気づいたのは、台所に行ってからだ。台所の小さな窓から入ってくる朝日がとてもまぶしくて、となりのリビングとして使われている十畳ほどの和室も明るくて、妙だなあと思ったからだった。
以前のわたしだったら、こんな失敗など犯さないだろう。ダメだなあ、うっかりしていた。気をつけなくちゃ。洗面所で顔を洗い、お肌のお手入れをかんたんにやってから、再び台所へ行き、ヤカンに水を入れて火にかけた。
眠気覚ましのインスタントコーヒーをすすりながら、ごきげん通帳を持ってきて食卓用のテーブルに置いた。そして、昨日の続きからまた読みだす。
『四月十日 ごはんがふっくら炊けた。ごきげん』
『四月十一日 靴下が片方でてきた。両方そろってごきげん』
『四月十二日 テレビで柴犬を見た。かわいくてごきげん』
おばあちゃんのごきげんは低コストだ。でも、なんだろう。読めば読むほど笑えて、しかたなかった。おかしいったらない。クスクス笑いながら、気に入った箇所に付箋を貼っていく。あとで隼人に見せるためだ。
どうせ、今日も来るだろう。片づけの手伝いを申し出てきてくれたし、『また来る』と言っていたくらいだから。隼人の真っ黒に日焼けした顔を思い出す。
うしろのページを何気なく見たとき、今まで読んだものと種類が異なる、少し長めの文章にふと気づいた。
「ごきげんのルール……?」
数行に渡って、大きな文字で書かれてあった。とりとめもないものをただ書いているだけだとてっきり思っていたが、祖母なりのルールが存在していたみたいだ。
読んでみると、なかなか興味深い内容だった。
『ごきげんのルール その一 よその人と比べからず』
『ごきげんのルール その二 ごきげんは自分で作るべし』
『ごきげんのルール その三 寝る前にひとつは思い出す』
その下のスペースには、漫画チックなニコニコ顔のネコのイラスト。雲の形のような吹き出しの中に、『寝る子は育つ、ごきげんもだニャー』とあった。
「やあだ、おばあちゃんったら」
思わず声をだして笑っていると、またタイミングを計ったように、「おーい、何してんの?」と隼人の声。台所の横にある居間から聞こえてきたのだ。
イスから立ちあがって縁側にいこうとしたが、まだ着替えていなかったことを思い出した。まあ、いっか。高校のジャージだし、隼人だし。
「おはよう、早いんだね」と言ってから、ごきげん通帳を持って縁側へ向かった。




