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今日も生きてて、わりとごきげん  作者: このはな
ごきげん通帳、発見される
7/8


「ねえ、隼人って、よくうちに来ていたの?」


「うん、ちょいちょい。手伝いっていうか、なんか気になってさ。いつもじゃなくて、たまにね。草むしりとか、重いものを動かすとか、その程度だったけど」


「そうだったんだ。ありがとね」


「おれは別に何もしてないって。春江さんが昼飯を作って食べさせてくれるから」


「ふうん、餌付けされていたわけだ」


「そう、独り身には助かるよ。そういやさ、中学のとき理科の実験でさ」


「薬品こぼして、机を焦がしたやつ?」


 なんの脈絡もなく、中学生のときの思い出へと飛ぶ。話題があっちこっちへと、とっちらかるのは、隼人のわるいくせだ。


 わたしは慣れているからいいけど、東京で働いていたときはどうだったんだろう。周りのひとに迷惑がられていなかったかしらね。


「あのとき、すごく怒られて泣いてたよね?」


「泣いてねえって」


 隼人はムキになった。


「えー、うそ。ぜったい、泣いてたって。わたし、ちゃんと覚えてるもん」


「いーや、うそだ。泣いてねえだろ」


「いやいや、泣いてた」


 そんなくだらないやりとりを三十分ほどしてから、


「また来る」


 隼人は帰っていった。



   ※※※


 夕方になると、ミンミンゼミが鳴きはじめた。


「もう、こんな時間」


 気づくと、部屋は薄暗くなっていた。でも晩ご飯の準備をするまでには、まだ時間がある。隼人がたくさん野菜を置いていってくれたから、買い物に行く手間が省けたのだ。


 続きから読もうと、わたしはごきげん通帳を手に取り、パラパラとページをめくった。


『四月十五日 こぶしの花が咲いた。わたしも負けておれん。ごきげん』


『五月三日 やっとコタツをしまった。来年もよろしくね、ごきげん』


『五月十二日 テレビの旅番組。行けないけど、きれいな海にごきげん』


『五月十五日 水道代が先月より安かった、ごきげん』


 祖母は足腰が弱くなってから、遠出らしい外出はほとんどしなかった。それでも、テレビで旅番組を見ながら『ごきげん』と書いている。行けない体を嘆くのではなく、うれしいことしか書いていない。病で苦しくなかったの? 


 さらにページをめくる。ある日付に目がとまった。


『六月二十日 沙織ちゃんの異動が決まったと連絡。昇進にちがいない。一生懸命やったからだね。うれしくてごきげん』


 他でもない、わたしの記録だった。


「おばあちゃん……」


 その日付のところを何度も読み返した。


 確かに、あのころのわたしは一生懸命だった。仕事に打ち込んでいた。でも、一生懸命やった結果うまくいかなくて、結局こうして田舎に戻ってきてしまったのだ。わたしがそっちに帰りたいとはじめて言ったとき、祖母はどんな気持ちで聞いていたのだろう。


 今となっては、もう聞くことはできない。



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