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ごく最近に気づいたことだけど、田舎の空気というものは匂いでできているらしい。
その匂いとは、なんて言ったらいいんだろう。もっと根っこのところに属しているような、例えば、土とか草とか、誰かの家の台所から漂ってくる夕飯の匂いとか。とにかく、日常にあふれている、そんなような匂いだ。
無人駅のホームに降り立ち、その田舎の空気を肺いっぱいに吸いこんだとたん、「ああ、久しぶりに帰ってきたなあ」って思ってしまった。つい、こないだここに来たばかりだっていうのに。
しばらく田舎の空気を満喫してから、駅の外に出ると、さいわい、すぐにタクシーを拾うことができた。「おねがいします」と言って、スーツケースをトランクに入れてもらう。タクシーはのんびりとしたスピードで走りはじめた。
最寄り駅からタクシーで十五分、祖母の家は街のちょうど端っこにある。
うちの田舎はほんの数分、国道を走っただけで風景が変わる。ファミレス、家電量販店、スーパーなどで国道沿いはにぎわいを見せていても、すぐに建物はまばらになり、田畑が広がる景色しか見られなくなるのだ。
わたしは車窓に額をくっつけながら、通りすぎる田んぼをながめた。稲穂はまだ青く、少しうつむいていた。あとひと月もすれば黄金色になるだろう。
なのに、まるで今のわたしを見ているようだった。育つ過程にある青い稲穂が、中途半端で何者にもなれていない自分のようだった。黄金色になるまで耐えられず、田舎に逃げ帰ってきた自分みたいで。
こんな孫娘を見て、天国のおばあちゃんはなんて言うかな。きっと、笑われてしまうだろうなあ。目いっぱい顔をしわくちゃにして。
「沙織ちゃん、どんまい」って。




