春の縁側、梅の香りと濁り酒
【Bar風花 閑話・特別編】 春の縁側、梅の香りと濁り酒
※本編とは直接繋がらない、超・まったり日常回です。
※戦いも事件も成長もありません。ただただ甘くて静かな時間が流れます。
※肌の触れ合い・指輪の未来予感・お酒・梅の花・子狐のじゃれつきが好きな方向け
※ひな祭りの余韻を残した春の午後、という設定です。季節が少しずれてますがご容赦を。
よく晴れた春の日曜日。
美和さんの自宅の縁側で、天ちゃんは膝を抱えて梅の木を眺めている。
満開の梅の花びらがひらひらと舞い落ち、和室には雛飾りと菱餅の優しい彩り。
台所からは、ちらし寿司とはまぐりのお吸い物のいい香り。
そして、美和さんが運んできたのは、天ちゃんの大好きな「若の寿にごり」。
二人は肩を寄せ、箸で食べさせ合い、ぐい呑を合わせ、指を絡め、髪を梳き、耳元で囁き合う。
狐白は二人の膝の上で丸くなり、庭に梅の花びらが積もっていく。
急ぐものなど何もない。
ただ、触れ合う肌の温もりと、梅の香りと、濁り酒の甘い余韻に包まれて、時間がゆっくり溶けていく。
Bar風花のカウンター越しでは見せない、二人の「家モード」の、特別に甘い一日。
どうぞ、春の陽だまりのような時間を、一緒に味わってください。
よく晴れた春の日曜日の午後、美和さんの自宅は柔らかな陽光に満ちていた。
庭に一本だけ生えている梅の木は、満開の淡いピンクの花を枝いっぱいに広げ、そよ風ごとに花びらを優しく散らしている。
その香りが開け放たれた障子から和室へ流れ込み、静かな空気を甘く包む。
和室の隅には小さな雛飾りが置かれていた。一段だけの質素なものだが、雛人形の御内裏様とお雛様が寄り添う姿に、どこか温かみが感じられる。
雛飾りの前には菱餅とひなあられが控えめに供えられ、ひな祭りの余韻を残している。
縁側に座った天ちゃんは、膝を抱えて梅の木をぼんやり眺めていた。
今日は休日らしく、ライトブルーのオックスフォードシャツを着ている。
コットン100%の柔らかな生地で、ボタンダウンカラーが優しい印象を与え、首元を1つボタンを開けて鎖骨が少し覗くようにしている。
袖は軽くロールアップされ、腕のラインが自然に現れてカジュアルで親しみやすい。
今日は暖かいので、薄手のデニムジャケットは脱いで脇に置き、
シャツ一枚でくつろいでいた。
狐白がじゃれついても気にならない、汚れにくい素材を選んでいる。
ボトムスはミディアムブルーのスリムストレートジーンズ。
春らしく少し色落ちしたライトウォッシュで、ダメージのないきれいめな一本だ。
縁側に座っても動きやすく、足を軽く組んだり伸ばしたりする姿が自然に映える。
足元は素足で、畳と縁側の木の感触を直接感じながらリラックスしている。
左手首にはカジュアルな革ベルトの腕時計が巻かれ、右手には細いレザーのブレスレットが控えめに光っている。
髪は自然に少し乱れていて、穏やかな笑顔がより優しく見える。
台所からは、かすかな包丁の音と美味しそうな香りが漂ってくる。
暫くすると美和さんが料理を運んでくる気配が。
「天ちゃん、お待たせ」
そう言いながら美和さんが台所からお盆を持って現れた。
今日は家で過ごすための、穏やかで優しい装いだった。
淡いベージュのゆったりしたリネンシャツを着て、袖を軽くまくり上げている。
首元が少し開いた襟ぐりが、鎖骨のラインを柔らかく覗かせ、普段のBar風花のクールなベスト姿とはまるで違う、親しみやすい雰囲気をまとっている。
その上から、薄手のオフホワイトのカーディガンを羽織り、シンプルなコットンエプロンを腰に結んでいた。
エプロンの裾がふわりと揺れるたび、家庭的で温かな空気が漂う。
ボトムスはオフホワイトのワイドパンツ。
ゆったりとしたシルエットが足元まで流れ、素足に近い感覚で動きやすい。
足元はふわふわのルームソックス——美和さんのペットの白毛の子狐『狐白』がじゃれついても大丈夫な、柔らかな毛足のものだ。
耳にはピジョンブラッドルビーの小さなピアスが控えめに光り、髪はゆるく下ろして、梅の花を模した小さなヘアピンを一輪挿している。
盆の上には色鮮やかなちらし寿司の大皿。
海老の赤、錦糸卵の黄、豆の緑が春らしく映える。
隣にははまぐりのお吸い物、貝がぱっくり開いて澄んだ出汁の香りが立つ。
さらに菱餅の三色とひなあられの小さな器も添えられている。
天ちゃんの目が優しく輝いた。
「わあ……美和さん、これ全部作ってくれたんだ!すごいよ……ありがとう」
声は静かで、穏やかな喜びがにじんでいる。
美和さんは微笑んで盆を縁側に置き、もう一度奥へ。
戻ってきた手には一升瓶と江戸切子のぐい呑、片口徳利。
若竹屋酒造場の「若の寿にごり」だ。
乳白色の濁り酒が瓶の中でゆらゆら揺れている。
「「若の寿にごり」だよ♪これ、天ちゃんの好きなやつだよね?」
「うん……本当に嬉しいよ……美和さん、ありがとう♪」
天ちゃんは柔らかく笑ってぐい呑みを受け取った。
美和さんは天ちゃんのぐい呑に濁り酒をゆっくり注ぐ。
美和さんは嬉しそうに笑う天ちゃんの様子をじっと見つめ、ふっと大人びた微笑みを浮かべた。
徳利を注ぐ手つきは、いつものBar風花のカウンターで見せるプロのそれそのもの。
家モードの柔らかさの中に、ほんの少しだけ「彼女の色気」が覗く瞬間だった。
美和さんが隣に腰を下ろすと、二人は自然と肩を寄せ合った。
美和さんのカーディガンの袖が、天ちゃんのロールアップされたシャツの腕に軽く触れる。
狐白は二人の間をくぐり抜け、天ちゃんの膝に丸くなりながら、美和さんのふわふわソックスに鼻先をすり寄せる。
天ちゃんはちらし寿司を一口食べ、美和さんに箸で小さな海老を差し出した。
「美和さん、これ美味しいよ!食べてみて!」
美和さんは少し照れながら口を開け、天ちゃんの箸から受け取る。
頰がほんのり赤くなり、目を細めて味わう。
「ん……本当に美味しい。ありがとう、天ちゃん」
酒を注ぎ合う時も、ぐい呑を軽く合わせる指先が触れ合い、互いの体温が伝わる。
美和さんが狐白の背中を撫でていると、天ちゃんの手が自然に美和さんの肩に回り、そっと寄り添う。
美和さんは抵抗せずに身を預け、梅の木を見上げながら小さく息をついた。
天ちゃんは美和さんの髪を優しく指で梳き、耳元に落ちた梅の花びらをそっと取り除く。
その指先が頰に触れると、美和さんは目を閉じて小さく微笑んだ。
「天ちゃんの手、あったかい……」
「美和さんの髪、いい匂いがするよ。梅の香りと混ざって、もっと好きになる……」
美和さんは天ちゃんの胸にそっと額を寄せ、目を細めて囁く。
「……天ちゃんの匂いが好き。ずっと嗅いでいたい……」
天ちゃんは美和さんの左手の薬指をそっと握り、指輪の位置を親指で優しく撫でた。
まだ何もないその場所を、まるで未来を確かめるように。
美和さんはその感触に気づき、胸の奥がきゅっと締まるのを感じながら、静かに息を吐く。
「いつか……ここに、って思うこと、ある?」
天ちゃんは少し照れたように笑って、耳元で囁き返す。
「毎日、思ってるよ。美和さん」
美和さんはふっと笑って、天ちゃんの首筋に顔を埋めた。
狐白が二人の間に割り込んでくるのを、美和さんは笑いながら天ちゃんの胸に体を押しつけて邪魔ようにする。
狐白は不満げに尻尾をぱたぱたさせ、二人の膝の上でじゃれつきながらも、結局は二人の温もりに包まれて丸くなる。
梅の花びらが一枚、また一枚と舞い落ち、二人の膝の上に積もる。
二人はくすくすと笑い合い、肩を寄せたまま体を揺らす。
時折、天ちゃんが美和さんの手を握り直し、指を絡めてくる。
美和さんはその手を握り返し、親指で天ちゃんの手の甲を優しく撫でる。
触れ合う肌の温もりが、春の陽光よりも甘く、心を溶かしていく。
陽が少しずつ傾き始めても、二人は縁側から動こうとしなかった。
梅の香りと濁り酒の余韻に包まれながら、ただ寄り添い、時々視線を交わし、微笑み合う。
指先が絡み合い、息が混ざり合い、心が溶け合うような、静かで深い甘さがそこにあった。
ここには急ぐものなど何もない。ただ、まったりと、甘く、幸せな時間が流れている。
それが、美和さんと天ちゃんの、いつもの——でも特別な——日常だった。
あとがき
この話は、ただただ「春の縁側で二人きりで過ごす時間が、どれだけ幸せか」を描きたかっただけの一篇です。
梅の花びらが舞う様子、濁り酒を注ぐ手つき、指先が触れ合う瞬間、狐白が割り込んでくる可愛さ……そういう細かい「日常の甘さ」を、できるだけ丁寧に拾い集めてみました。
Bar風花の本編では、カウンター越しに少し距離を保ちながらのやりとりがほとんどですが、こういう「家の中の無防備な二人」も、たまには見せたくなるんですよね。
読んでくださった皆さん、ありがとうございます。
この穏やかで甘い時間が、少しでも心に残ってくれたら嬉しいです。
またいつか、こんな風に二人だけの時間を切り取れたらいいな、と思っています。
次はどんな季節に、どんな一杯と一緒に現れるのか……私もまだわかりません。
それでは、またBar風花の扉の向こうで、あるいは縁側の向こうで。
天照(Bar風花)




