桜の下で、君に歌う
※この作品はフィクションです。
登場する楽曲のイメージは、コブクロの名曲『桜』をモチーフにした演出として使用しています。
歌詞の一部を短く引用していますが、原曲の著作権を侵害する意図は一切ありません。
皆様、こんにちは、天照 です。
春の訪れとともに、Bar風花のカウンターから少し離れた場所で生まれた、とても小さな物語です。
優しいお姉さんと、彼女に甘える大切な人。
満開の桜の下で、ただ静かに歌を贈るひとときを、温かく描いてみました。
遅筆中の身ではありますが、こんな穏やかなシーンを、読んでくださる方のお心に少しでも届けられたら嬉しいです。
どうか、ゆっくりとお読みいただけますように。
天照
春の陽射しが、柔らかく優しい金色のヴェールのように庭を包み込んでいた。
神社の敷地内のはずれ、小さな和風の平屋の縁側は、満開の桜でまるで夢の中にいるような淡いピンクに染まっていた。
大きな一本の桜の木が、まるで守るように枝を広げ、花びらがひらひらと、ゆっくりと、まるで時間を止めるように舞い落ちる。
天ちゃんは膝にクッションを抱え、縁側にちょこんと座っていた。
淡いライトグレーのオーバーサイズパーカーが肩にゆったりと落ち、袖口が少し長めで指先を隠している。
フードを背中に垂らし、白のシンプルなTシャツの襟元から首筋が覗く。
ライトブルーのチノパンは裾を軽くロールアップして、素足で縁側に座る姿が無防備で愛らしい。
肩に落ちた桜の花びらを払おうとして、でも結局そのままにしておく。
頰がほんのり熱を帯び、瞳が少し潤んでいる。
美和さんの歌を待つように、息を潜めて、ただ静かに待っていた。
美和さんは、白の薄手コットン混のカーディガンを羽織り、袖を軽くロールアップして動きやすくしていた。
淡い桜色のミモレ丈フレアスカートが、風にふわりと揺れるたび、春の柔らかさをそのまま纏っているようだ。
インナーは白のシンプルなキャミソールで、Vネックのカーディガンが少し開くと肌の透明感がほのかに透ける。
足元はベージュのバレエシューズ風フラットシューズを脱いで、素足で縁側に座っている。
ハイポニーテールに銀のバレッタが光り、左耳のピジョンブラッド・ルビーが桜のピンクに溶け込むように輝く。
左手にはPatek Philippe Calatravaが静かに時を刻み、ローズゴールドのケースが淡い桜色と優しく呼応していた。
膝の上に置いたGretsch White Falconが、陽光を浴びて白く輝き、金のハードウェアが桜の花びらと溶け合うようにきらめく。
彼女の右のワインレッドの瞳は、深い情熱を湛えながらも今日は優しく溶け、左の淡い琥珀は春の光を映して、まるで涙のように銀色に揺れていた。
「天ちゃん……今日は、君にだけ、歌ってあげるね」
美和さんの声は、囁きに近いほど優しく、胸の奥に直接届くようだった。
天ちゃんは小さく頷く。言葉が出なくて、ただ瞳を潤ませて見つめ返す。
美和さんはWhite Falconのネックを、まるで大切な人の頰を撫でるように優しく触れ、弦に指を添えた。
最初のピックが弦を滑ると、豊かで温かなホロウボディの響きが、庭全体を優しく抱きしめるように広がった。
ジャズの余韻を残した、懐かしくて切ない音色。
桜の木の下で、このギターはまるで運命のようにぴったりだった。
そして、静かに、深く息を吸って、歌い始めた。
優しく、感情を込めて、春の別れと再会を思わせる懐かしいメロディーを紡ぎ出す。
声は、カウンター越しにカクテルを勧める時とは違う。
もっと近くて、もっと温かくて、もっと……天ちゃんだけのためのものだった。
一節ごとに、花びらがまた一枚、縁側に落ちる。
まるで歌が桜に直接語りかけているようで、天ちゃんの胸がぎゅっと締め付けられた。
美和さんの瞳が、天ちゃんをまっすぐに見つめる。
右のワインレッドが熱を帯び、左の琥珀が優しく溶ける。
天ちゃんはもう、涙を堪えきれなくて、頰を一筋伝う雫を感じた。
サビに差し掛かると、美和さんの指が少し強く弦を押さえ、White Falconのボディが深く、胸に響くように震えた。
金色のG-arrowが光を反射し、桜の花びらと重なり合う。
「桜の花びら散るたびに……」
美和さんの声が、わずかに震える。
それは、優しさと切なさと、溢れる愛情が混じり合った震えだった。
天ちゃんはもう、涙を拭うことも忘れて、ただ美和さんの顔を見つめていた。
心が、ぎゅうっと、温かく、痛いほどに締め付けられる。
美和さんは、その大切なフレーズを繰り返すたび、天ちゃんの瞳を覗き込むように歌った。
声が、まるで抱きしめるように、天ちゃんの心に染み込んでいく。
桜の花びらが、二人の間に舞い落ちて、まるで祝福のように。
間奏でギターの音色が庭に溶け、風が桜を優しく揺らす。
美和さんは再び歌い出す。
声に、もっと深い感情を乗せて。
天ちゃんの涙が、ぽろぽろと零れ落ちる。
美和さんはそれを優しく見つめながら、最後のサビへ。
そして、最後の音が、庭にゆっくり溶けていく。
美和さんはギターを膝から下ろし、天ちゃんをそっと抱き寄せた。
桜の花びらが、二人の肩に、髪に、頰に、優しく降り積もる。
淡い桜色のスカートが風に揺れ、白のカーディガンの袖が天ちゃんの背中を優しく包む。
天ちゃんのパーカーの袖口から覗く指先が、美和さんの服をそっと掴んだ。
「天ちゃん……どうだった?」
天ちゃんは、声にならない声で、ただ首を振って、美和さんの胸に顔を埋めた。
涙が止まらなくて、でもそれは悲しい涙じゃなくて、温かくて、嬉しくて、愛しくてたまらない涙だった。
美和さんは天ちゃんの背中を優しく撫でながら、耳元で囁く。
「また来年も、ここで歌ってあげるね。ずっと、ずっと……君の心に、桜を咲かせてあげる」
天ちゃんは、震える声で、ようやく言葉を絞り出した。
「……美和さん……大好き……この歌も、この桜も、美和さんも……ずっと、忘れない……」
縁側に座った二人の周りを、満開の桜が優しく、優しく、包み込んでいた。
風が吹くたび、花びらがひらひらと舞い、春の午後が、永遠に続くように温かく、静かに、流れていく。
美和さんは天ちゃんの髪を優しく撫でながら、もう一度だけ、囁くように歌った。
「無くさないで……君の中に……咲く Love……」
その声は、桜の木の下で、二人の心に永遠に咲き続ける花のように、優しく、深く、温かかった。
……ふぅ。桜の花びらが舞う縁側で、二人が寄り添う姿を想像しながら書き終えました。
美和さんの声が、優しくて少し震えていて、天ちゃんの涙が止まらなくて……
そんな情景が、頭の中にずっと残っています。
この短い物語を読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
春の午後みたいな、温かくて少し切ない気持ちを、少しでも共有できていたら幸いです。
またBar風花でお会いしましょうね。
次はどんなカクテルを淹れましょうか……
感想で「ここが好きだった!」とか教えてくれたら、次のお話の参考にします。
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天照




