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8話 姉妹

「このたびはお時間をいただきまして光栄ですわ。北町のお噂は、王都にも届いておりますのよ」


目の前に座る二人組の女性の一人が口を開く。

司典の姉妹の姉だ。


この世界では美男美女が多いと言ったが、まじで多すぎないか?

ただ、この姉は若干化粧が濃い気がする。


「お姉さまは、ずっと北町を見に行きたいと申しておりました」


妹が言う。


口調は穏やかで、どこか俺の姉を思わせる雰囲気がある。

教会視察から戻ってすぐ、面会の打診が来た。

俺が“不快ではない”と答えたのが原因かもしれないが、断る理由もなかった。

そうして数日後、こうして二人が城館を訪れたわけだ。


「ここは田舎ですから。大して見るものなどないでしょう」


王都からは離れているので田舎ではある。


「まあ。歓楽町の発展は凄まじいと伺っておりますわ。職人や商人の数が倍になったとか。大典司の御方も通われているとか──」


司典の姉が手に持った扇で口元を隠しながらこちらに流し目を送ってくる。


この世界の聖職者は、多少の“俗っぽさ”では咎められない。

俺も金さえ落としてくれれば特に文句はない。ルールを守る限りは、な。

守らないなら、教会だろうが叩き出す。


「遠方からも多くの方が歓楽町を目指してくださっているのは存じています。ありがたいことです」


これも偽りはない。マジでありがたいことだ。おかげで儲かってしょうがない。


「男爵家とお聞きしていますが……その内情は伯爵家にも及ぶとか……」


司典の姉が探るような視線を投げかけてくるので思わず苦笑した。

まあ、間違いではない。


というか、俺も最近まで良く分かっていなかった。

先日、委員長に講義してもらった。最近は委員長が先生役になる事が多い気がする。美人教師役は似合っているのでぴったりではある。


結論から言うと北町の収入は毎月金貨五十枚近くある。

これは伯爵家の支出額と同程度だ。伯爵家がひと月に使う金が俺の懐に入っているということだ。

まじでびっくりして何度も聞き直してしまった。


北町では、様々な税を徴収している。

地租税、商税、漁税、酒税、宿税、鉄税、教会税、人頭税──ありとあらゆる名目がある。

言っておくが、北町の税は低めだ。それでも毎月多額の税が入ってくる。


その中で主な財源は人頭税だが、これが今や爆上がりだ。

現在の人口は約九千。

子爵家並みで、実家の町を合わせれば軽く一万を超える。

一般的な男爵家の三倍。……我ながら異常な成長率だ。


次に大きいのが酒税、宿税、商税。これらは主に歓楽町から上がる。

あそこが繁栄すれば税も増える。単純明快な理屈だ。


もちろん支出も多い。

歓楽町の基盤整備をはじめ、各区画のインフラ費用。

娼館には月一回の健康診断を義務づけているが、その費用も税から出している。


さらに水の町らしく、水路の維持や再整備にも金がかかる。

他にも教育支援、防衛費、福祉、療養支援……。収入の大半は北町の基盤づくりに回している。


免除もある。戦傷者、未亡人、孤児は免税。今後は新規商人を対象に商税半額の案も検討中だ。


税の細部は文官たちに任せているが、「町と民のために使え」とだけは口を出している。

風俗街を廃れさせるわけにはいかない。それが北町全体の生命線だからだ。俺の生命線でもある。


……それでも、毎月五十枚近い金貨が残る。


「まあ……流れは良くなりました。ですが、蓄えというほどのものでは」


誤魔化しおこう。わざわざ月収を公表する必要などない。


「お姉さま。あまり内情を探るようなことをしては失礼ではありませんか?」


「ふふ。つい興味が出てしまって。だって――北町は今、最も“輝いている場所”ですもの」


……すごいグイグイ来るな。


「そういえば、正妃の件はどこまで進んでおられるのかしら? 王都でも話題に上っているとか」


「姉さま、そのお話は……あまり今ここですることでは」


この姉、わかってて言ってるのか? うちの姉が対抗馬だって知ってるはずだろうに。


「まあ、そうね。悪意はないのよ。ただ、気になって」


「気にすることはありません。こちらは身分的にも望めぬ立場ですから」


これも事実だ。


「あら、それはどうかしら?」


意味深な視線を送ってくる。


「昇爵のお話も上がっているとお聞きしましたわ。それに……貴方様ほどの財力があれば、貴族の方々に“働きかける”こともできるのではなくて?」


なんか似たような事を似たようなインテリから言われたような気がする。

やらんがな。そんな金があるなら俺は雪館と花館を貸し切って遊びたい。


「まあ、そこまでの財力はないですが、仮にあったとしてもやりませんね」


「あら、それはなぜ?」


「やる意味がないからです」


その瞬間、場の空気が少しだけ変わった。司典の姉は一瞬、何かを測るような目をした。


「……ふふ、やる意味がない。なるほど、そうおっしゃるのね」


「そうですね」


お金は有効に使いたい。


「同感ですわ。今の王家は、名ばかりですもの。妹は花なのです」


なんか言い始めた。


「どんなに美しい花でもいつかは枯れますわ。水をやる者がいなければ、ね」


ちらりと妹の方を見た。水、つまりは富や名声を言いたいのだろうか。

それらをくれない家に嫁ぎたくはない。ということか。

お前が嫁ぐんじゃないだろう。と、思うが、姉という立場を生かして妹の嫁ぎ先から金を貰う気だろうか?


「それに比べればこの北町ならば、多くの水を与えてくれそうですわ」


「御冗談を」


「勿論冗談ですわ。さすがに男爵家……それにお若すぎますもの」


……失礼なやつだな。

とはいえ、打算が顔に出る分だけまだ可愛い。

妹の方は、その横で静かに微笑んでいる。姉に付きまとわれる人生だが、文句はないのだろうか。


まあ、もう会うこともないだろうし──どうでもいいか。

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