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5話 北方

「ご主人様」


うさ耳が俺に声をかける。出迎えの準備が整った合図だ。


……なんか、この流れ、前にもやった気がするなと思いながらも俺は立ち上がり玄関へと向かった。外に出ると整然と並んだ使用人たちが列を作っていた。玄関を出て、列の中央に立つと、うさ耳たちが静かに配置についた。


つい先日、両親を出迎えた時と同じ光景が目の間に広がっている。


大きな馬車が正面で止まり、扉が開いた。

一人の男が姿を現す。北方伯爵家次男、インテリ君だ。

その直後、馬車を大きく軋ませて降りてきたのは――熊様だ。わが心の師はいつ見てもでかい。


「遠い所をようこそお越しいただきました。お久しぶりです」


男爵家三男と伯爵家の長男次男では身分差があるので、当然、俺が身を低くして出迎える。


「お久しぶりですな。見違えましたぞ。随分、大きくなられましたな」


熊様が体に似つかず優しく声をかけてくれた。さすがは熊様だ。頼りがいのある体の中に癒しも兼ね揃えている。


「お久しぶりです。色々と話題につきないようで……」


インテリも挨拶をしてくるがどこか棘を含んでいる。本当に兄弟なのか疑わしい。


「あー、まあ、この辺りは一時期騒がしかったですが、この北町は至って平和です」


適当に返したが変な目で見られた。


「長旅でお疲れでしょう。こちらへどうぞ。お部屋はすでに整えております。お茶の支度も間もなく整います」


委員長がにこやかに熊様とインテリに声をかける。おかしい。俺にはあんな笑顔向けてこないぞ。


「おお、これはかたじけない。折角だ。甘えよう」


熊様がインテリを促す。

大広間へと移動し席に着くと侍女たちが茶を出してくれた。

委員長の簡単な茶葉の説明があり、それぞれが茶を口に運ぶ。


ようやくひと段落と言った感じだ。


「王都奪還は見事でしたね。ですが、なかなか大変だったようですね」


インテリ君がこちらを見る。しつこいな。


「王の人徳があったからでしょう」


とりあえず流しておく。


「本来ならばこちらが先頭に立ち手助けしなければいけなかったのですが……」


熊様が申し訳なさそうにしている。

どこまで本当かはわからないが、熊様が言うと悪い意味ではないと思えてしまう。


「北の領地は復興に時間がかかっているようですね」


砦衆の報告では貴族に被害がなかった領地の復興は終わっている。

問題は貴族に被害があった領地だ。治める者がいないのだから復興にも時間がかかっているらしい。


「少なくない貴族が帝国によって討たれましたが、代わりの者がいませんからなぁ」


熊様が顔を歪める。


「我が伯爵家が面倒をみている領地はある程度の目途はついていますが、他は難しいですね」


インテリも苦々しそうにしている。


人がいないのはどうにもならないだろうな。優秀な人間だからと言って誰にでも任せられるというわけではないのだ。


「当初は土地が増えたと喜んでいた貴族もいますが、話はそう簡単ではないですしね。それに比べて、そちらはうまくやっておられるようで」


だから、その探るような物言いをやめたまえ。

インテリ君が言う言葉にはすべて含むものを感じてしまう。


「配下の者が優秀だと領主は楽です」


嘘ではない。


「羨ましい限りですな」


ははは。と、熊様が笑う。「……ところで、正妃の件、こちらでも話題になっていますぞ」


「我が家中でも色々と悩んでいるようです」


「ですが……身分の差があります。難しいのでは?」


意外にも気遣うようにインテリが言ってきた。


「まあ、まずは本人の気持ち次第でしょう」


言って、あっ、と、気づいた。またやってしまった。本人の意志はどうでもいいんだった。案の定、訝しげな眼をされてしまった。


「ま、まあ、私がどうこう言える立場ではないですし」


「姉想いですな」


熊様が良い感じに流してくれた。


「教会側の娘は評判が良いようですが……どうも一筋縄ではいかないらしい」


インテリ君が含むものがある様な言い方をする。なにか問題があるのだろうか。


「侯爵様は悩んでおられるようですな。王の気持ちを汲むか、実をとり教会側につくか」


「兄さん」


熊様がぼそりと呟くと、インテリが咎めるように言う。だが、熊様は首を横に振る。


「良いではないか、別に我々が男爵家に肩入れしているというわけではない。教会側への不信も少なくない」


「なにかあるので?」


「教会自体に不満はない。だが……一部の司祭たちには憤る思いもあるというのが正直なところ」


なるほど。権力がある人間は傲慢な奴も多いだろうからな。権力をかさに何かをしてくるのはどこの世界でも一緒か。


「王の気持ちを汲むとは言ってもこちらには実はないでしょう」


「はて、やりようはいくらでもあるでしょう。南方側の貴族は昇爵の話もでていますな。伯爵家の養女にするという方法もある」


昇爵か。一気にうちが伯爵級に上がるのはさすがに無理がある。だが、伯爵家の養女になって王家に嫁ぐ――それなら筋は通る。


「それに政治的という意味では貴公がおられる」


突然、熊様の含みのある言い方に困惑する。


「男爵家三男にそんな力はありませんよ」


俺の言い分は首を横に振られ否定された。


「北方侯爵様は気にしておられるのは事実。王都を取り囲んだあの兵力は貴公の影響が大いにあったのではないかと」


貴族連中を甘く見ていたかもしれない。彼らも馬鹿ではない。周りの状況にも常に目を光らせている。こちらの情報も手に入れてる可能性は高い。そもそも隠してないからな。


「教会連中も気にしてますよ。既に一部の人間は貴公の存在を認識している」


インテリの言葉にドキリとする。俺の認識が色々甘いのか。あまり良くない状況なのだと理解した。

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