14話 模倣
「どうやら、教会側が浮浪者や難民を支援し、囲い込みを始めているようです」
砦衆の頭の報告を聞いて、集まった顔ぶれは皆渋い表情になった。
――いよいよ来たか、という思いではある。要は砦衆の模倣だ。
「こちらに情報を流さずに教会側に流している者も増えているようです」
教会側の優位性を考えればこちらが負けるのは必然だ。彼らの信仰の対象なのだから当然ではある。
「まあ、いつかは出てくるだろうとは思ってはいたが、教会がやったか」
俺は、別の貴族が模倣するだろうと思っていた。教会が手を出したのは意外だ。
「当てつけかもしれません」
頭の言葉に首を傾げた。当てつけとはどういう事だろう。
「出禁を言い渡していますからね」
ハゲ頭が教えてくれた。なるほど。確かにそう言われればそうだ。
あれ以来、教会関係者の歓楽町への出入りを禁止している。
最初はそれでも多くの教会関係者が来ていたそうだが、そのすべてが赤い月によって排除されている。それに対抗するために砦衆の模倣をしているという事か。
「まあ、気にするな。人の流れは水物だ。時には思いがけない場所に流れることもある」
頭が困ったような顔をしている。
「今まで通りにやれ。教会に情報を流してもいい。俺たちは引き続き親切にしてやれ。優先度としては困ってるやつの庇護だ。ついでに情報がはいればそれでいい」
教会がどこまで本気かが重要だ。
本気で浮浪者や難民の救済を目的にしているなら勝ち目はない。
だが、情報やこちらの模倣を優先するようなら隙ができる。浮浪者だからと舐めてると痛い目をみるぞ。
「教会側ですが……内部はなかなか複雑のようでして」
またしても頭が困ったような顔をしている。ちらりと諜報部門の細身の男に視線を向けた。
「私から説明します。教会ですが、大きく分けて三つの派閥があるようです」
細身の男が前に出て説明を始めた。
教会の内部には、三つの派閥があるという。
まずひとつは、王都を中心に動く派閥だ。
貴族との繋がりが強く、権威と金に取り憑かれた連中。教会の名を商売道具にしていると考えていい。
次に、地方を中心に活動する信仰派だ。
こちらは純粋に教義を信じ、信徒の救済に尽くしている者たち。力も資金もないが、民の信頼は厚い。一見、良い奴らに見えるが、信仰を否定する人間には容赦がない。
そして三つ目が、その中間にいる連中だ。表向きはどちらにも属さないが、状況次第で態度を変える。──この前会った修道姉妹もこの中立派に属しているらしい。こいつらも中立とは言っているが、……どっちつかずの奴らだ。甘い汁が吸える方に靡く。
つまり、王都派閥、地方派閥、中立派閥が入り乱れているらしい。現在は中立派閥が優勢らしいが、その差は微々たるものだ。
「王都派の提案で我らの模倣をしているようです。ただし実行は地方派閥が行っているようです」
なるほど。思ったより、筋が通っている。当てつけをしたい王都派だが、実行は地方派閥にやらせて意義を持たせている。地方派閥的には裏の意図なんて関係なく、善意を持って浮浪者たちに接しているのだろう。
「王都派は浮浪者を使って……お嬢様の噂を流しているようです」
細身の男が珍しく申し訳ないような顔をして報告してきた。
王都派は正妃競争を勝ちたいらしい。なので、対抗馬である姉の悪評を流しているらしい。そんなことしなくてもそっちが有利だろうが。と、文句を言いたいところだ。あと、普通に家族の陰口はむかつくな。
ただ、正直な話だが、何の意味があるのかを問いたい。現状、姉を正妃にと望んでいるのは王だけだ。それ以外は教会側の娘でいいんじゃね? という印象だろう。まあ、それは良いか。とりあえず、俺の姉ちゃんの悪口を言ってるやつは許さん。
「噂の出所を確認しろ。それとは別に王都にいる教会連中の人となりを調べろ。可能なら他の派閥の奴らが正妃の問題に対してどう思っているかもだ」
細身の男はにやりと笑い頭を下げた。
「歓楽町は大丈夫か?」
ここ最近は物騒だ。赤い月の治安維持に頼るしかない。
「大丈夫だ。雪と花館に何人かついてるしな。おかしな連中が居ればすぐにわかる」
リーダーが力強く頷く。問題はなさそうだ。━━だが。
「部下の教育もしっかりやれよ。雪館や花館に出入りして深入りするなよ」
「なるほど……了解だ」
男にとっては魅力的な場所だからな。万が一、赤い月のメンバーが花灯に手を出そうものなら、赤い月の存在意義が問われる。
「他にはなにかあるか?」
無ければ終わりたい。ここ、最近はいろいろありすぎて疲れる。
「王都から舞踏会の話が来ているそうです」
頭の言葉に怪訝な表情をしてしまった。舞踏会? またやるの?
「お嬢様宛と聞いていますが……」
「王がやるって言い出したのか?」
「恐らくは教会の者かと」
嫌な予感がする。どうして心配事は無くならないんだ……




