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11話 錬金

「あ、ど、どうも……にちわ」


相変わらず陰気臭さ満点の長髪眼鏡君だ。


「元気してたか? 今日は頼む」


「あ、はい……す」


まったく聞えない。

同行している委員長が何か言いたげにしているが、止めておいた。

相性的に連れてくるのは犬耳のほうが良かったかもしれない。


今日は錬金ギルドの見学だ。

北町にそんな施設があると聞いたのはつい最近だった。

そもそも南方派閥では錬金術に対する偏見が強く、“得体の知れない学問”と扱われていた。


この地を統治していた男爵は錬金術に興味があったので、申し訳ない程度ではあるが錬金術に関する物が残っている。

そんなわけで、北町に錬金ギルドがあることに気が付かなかったのも仕方がないというものだ。


長髪眼鏡君の案内で職人町を歩く。

暫くするとくたびれた建物が見えてきた。どうやらここが錬金ギルドらしい。

ギィと軋みをたてながら扉が開く。


中も外と同じく、くたびれた木造建築。そして、物が多い。


「あ、ど、どちらさまでしょう……」


奥から髪をぼさぼさにした女性が出てくる。


「あ、ども……」


「あ、城館の……ちわ」


「……ちわ」


錬金術ギルに所属する人間は陰気臭いとかの条件があるのだろうか。


「こ……ちら、領主様……です」


「あ、え? え!?」


「すまんな。見学したいと無理を言って連れてきてもらった」


「りょ、領主様!? え、えっと……あの……す、すみません! えっと、掃除、してなくて……その、整理も途中で……」


慌てるように近くの資料を拾おうとして、資料をばら撒いた。


「あ、あ、す、すいません……」


「そもそも、錬金術ってなんなんだ?」


普通に疑問だった。

現代でも過去に錬金術という学問があったという事は知っている。

基本的には金属変化とか不老長寿の追及とかをしていた気がする。

この世界での錬金術とはなにを指すのか。魔法の模倣という認識だったのだが、違うのだろうか?


「錬金術に興味がおありですか!?」


いきなり、胸ぐらを捕まれ顔を引き寄せられた。

顔が近い。長髪眼鏡君と言いこの種の人間は自分の興味ある事を聞かれると興奮するのか。

男に言い寄られるよりはマシではあるが……


「無礼ですよ」


委員長が間に入ってくれた。


「主様に対してそのような真似は許されません」


「あ、も、申し訳ありません!!」


土下座するんじゃないかと思うぐらい頭を下げている。


「とりあえず、座ったままもなんだ。椅子とかないのか?」


空気が悪くなったので話題を変えた。部屋の奥にある椅子へと案内された。


「で、錬金術ってなんだ?」


仕切り直しである。


「き、基本的には物質、生命、魔力を”構成する要素”として理解し、それを再配置、再結合することで新しい形、性質、物質を作り出すものとして考えられています」


女性職員が教えてくれるがさっぱりわからん。


「魔法が力を直接発現させるのに対して、錬金術は条件を整え、力を引き出す。つまり、即効性の魔法に対して、再現性の錬金術。と言うとわかりやすいかもしれませんねぇ」


長髪眼鏡君が補足してくれる。錬金術になると饒舌になるな。


「んー、つまり、火を出す魔法があったとしたら、それを再現するのが錬金術ってことか?」


「いえ、ちょっと違いますね。魔法の結果に対して錬金術の結果が同じになるとは限りません。なぜなら、魔法と錬金術は原理、性質、媒介などが一致しません。なので、魔法の結果を模倣しようとしても、結果は違う物になります」


「だとしたら、錬金術の最終到達点はなんだ? 魔法の模倣なら再現性の一致だろう。結果が違うなら辿り着く到達点も変わる」


「模倣ではなく、理解だと私は考えています」


「理解?」


「魔法は世界に流れる魔力を、意思と詠唱で直接操作します。つまり、現象を呼び出す力です。一方の錬金術は世界に流れる法則を再構築します。つまり、現象を組み立てる力です」


「なるほど。魔法を真似るんじゃなく、同じ現象に別の道を通って辿り着くわけか?」


「はい、その通りです」


なんとなくだが、錬金術が発展しない理由が分かった気がする。

現象としては科学なのだ。だが、根本には魔法がある。

魔法ありきの実験であれば物の性質への理解は狭まる。

ある物質の性質の理解ではなく。目的の魔法に合致する性質を持つ物の探求になるからだ。


とはいえ、その辺りをどう説明すればいいのかはわからない。

物理も理科もからっきしだ。というか、得意分野なんてそもそもない。


「リンスを作りたい」

いきなり核心を突いた。というより、面倒になった。

当然の事だが、リンスというものは存在しない。俺の言葉を聞いた二人の動きが固まった。


「は? え、えっと? なんですか? 何を作りたいと?」


女性職員が困惑気味に聞き直す。


「石鹸は汚れを落す。油を剥がす物だ」


長髪眼鏡君が真剣な目でこちらを見ている。


「汚れは良いが、油を落しすぎると体が乾燥してしまう。それを防ぎたい。つまり、石鹸の逆を作りたい」


「ですが、どうやって……」


「物質を理解すればわかることだ。石鹸の逆を作りたいんだ。つまり逆の物を使えば良いんじゃないか?」


正直、あってるかはわからない。

でも理屈ではそういう事なんじゃないんだろうか? 石鹸は灰汁と獣油を使う。

灰汁はアルカリ? 酸性? わからんけど、どっちかだ。それに獣油を混ぜて固める。


逆に灰汁の逆ってなんだ。酸性には見えないから、灰汁はアルカリ性だろう。ってことは酸性の何かを用意する。お酢とか酸性じゃないか? お酢と油を混ぜればいいんじゃないの? 固める必要もないし、植物性油とか。


「考えたこともなかった……そうなるとそもそも灰塊の作り方から調べ直すべきですね」


「あ、そ、それは僕が調べ直してます。以前、領主様に言われて調査しました。その時に気になったんですが……」


「うまく行くかはわからんからな。何度か試す必要はあるだろうな」


「え、たしかに言われてみれば……ま、待ってください。ということは……」


なんか、完全に無視されている気がする。

委員長に助けを求めたが、返ってきたのは呆れたため息だけだった。

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