兄の行方
「それにしても火事事件のことばっかだな。なんかこういう系の勉強でもしてるのか?法律とか。」
翔も兄のことが気になっているみたいだ。無理もない。だって部屋中が火事事件の記事で溢れかえってるんだから。
「違うと思う。お兄ちゃん、工学部だもん。ロボット作りたいって言って工学部に強い大学に入るために東京来たもん。」
だったら兄がこんな事件のことを調べている原因はなんなんだ。単なる興味本位か?いや、にしては尋常じゃない量だ。
何か他に手掛かりはないか。そう思い、私は部屋中を見漁った。壁だけじゃない。机や床にまで事件に関する資料が散らばっていた。これは手掛かりを見つけ出すだけにも時間がかかりそうだった。
すると、兄の机の引き出しにあった使い古した手帳が目に留まった。そこで私は兄が昔から大事なことは手帳にメモをする習慣があったことを思い出した。きっとこの手帳にも重要な手掛かりになることが書かれているに違いない。そう思い、手帳を開いた。
手帳の中には神崎という人の名刺が入っていた。それに、最近書き足したであろう、メモがあった。それは、
[8/⚪︎、p.m.12:00 神崎 桜山珈琲]
と書いてあった。これは有力な手掛かりになるかもしれない。そう思い、私は名刺に記された電話番号に電話をかけてみた。
ーおかけになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません。
「ダメか。」
直近で兄に会ったかもしれない神崎という人物に電話をかけたが通じなかった。
「どうした?」
どうしようかと考えあぐねていたところに翔が寄ってきた。
「これ、お兄ちゃんの手帳なんだけど、8/⚪︎に神崎って人と会ってたみたい。もしかしたらお兄ちゃんのこと何か知ってるかもって思って電話したんだけど、繋がらなかった。」
そう言いながら私は兄の手帳を翔に手渡した。
「うーん。神崎ねえ…。」
翔は手帳を見ながらボソッと呟いた。
「…ん?翔この人知ってるの?」
「いや。でも、この人、週刊誌書いてる記者みたいだよ。ほら、名刺に書いてある。」
翔が名刺を見せてきた。
「ほんとだ。でもなんでこんな人と?」
「さあ。分かんないけど…」
翔はそう言いながら、机に置かれた雑誌類をペラペラ見出した。すると何かに気づいた様に慌ててそこらじゅうに散らばった記事を読みはじめた。
「待って…。ここにある記事、全部この神崎って人が書いたものだ。見てくれよ。ここに神崎って名前が書いてある。」
翔に言われるがまま記事の内容を読み出すと、確かに神崎という文字が印刷されていた。
「これってつまり…どういうこと?」
私は頭の中の整理が追いつかずそう問いかけた。
「多分こうだ。美咲のお兄ちゃんはこの15年前の事件と、今起こってる連続放火殺人事件について調べてる。それでこの事件について調べてる神崎っていう記者と連絡を取って情報を聞き出そうとしてるんだ。」
翔にそう言われ、確かに今ここにある手掛かりだけ見ればそう推測できる。
「事件について調べてる…?でもなんで。」
「さあ。それは俺にも分かんねえ。けど、それを知るためにはこの神崎って人について知る必要があるな。美咲さっきこの人に電話したんだよな。」
「うん。でも通じなかった。」
「そっか。じゃあとりあえず、メールしてみろ。それで返信きたら神崎って人と会って話をしよう。」
「うん。そうだね。」
私は翔の言われるがまま、スマホを開き、名刺に記されたメールアドレスにそのことを送った。
「じゃあ、腹も減ったことだし、とりあえずこの桜山珈琲ってとこ行ってみるか。調べたら駅の反対側にあるみたいだぜ。そこで美咲のお兄ちゃんのことも聞いてみよう。何か分かるかも。」
翔はそう言いながら、立ち上がり、私たちは桜山珈琲に向かった。