△区
私たちは、外が暗くなってるのに気づき、東京に戻って、慌ててホテルの部屋を取った。
「夕飯どうする?近くのファミレスにでも行くか?」
翔は夕飯の提案をしてきたので私は頷き、近くにあるイタリアンのファミレスに入った。そこは夏休みということもあり、ファミリーや学生の団体で席がいっぱいだった。
私たちが席に案内されたのは、ファミレスに入ってから、20分が経った頃だった。
「あ〜長かった。お腹ペコペコ。」
私は席に着くや否やそう声に出して早速メニューを広げた。
注文を終え、ドリンクバーで飲み物を取り、メニューが届くまでの間私たちはこの先どうするか相談した。
「ねえ。私、決めた。事件について調べる。」
すると、スマホを片手にコーラを飲んでいた翔が驚いた表情で、こちらを見てきた。
「それ本気か?お兄ちゃんがもう関わるなって言ってたのに?」
翔はスマホを置いて眉間に皺を寄せながら聞いてきた。
「うん。もう決めたことだし、私も知りたいの、本当のこと。だから、翔も手伝ってくれない?」
兄に内緒で調べると決めた手前、何か自分の手で真相になるものを掴みたいと思い、翔に手伝いをお願いした。
「本気なんだな?」
「うん。お兄ちゃんには怒られるかもしれないけど、私だって、お父さんの事件についてちゃんと知りたい。確かめたい。」
私は真剣な表情でまっすぐ翔の目を見た。
「そっか…分かった。本気なら。」
翔は私の熱意に負け渋々OKしてくれた。
「ありがとう。」
私は、翔と二人で15年前の事件の真相を掴めば、これまで抱え込んでいた孤独や世間からの冷たい目を乗り越えて楽になれると、そう思った。
「そう言えば、翔って昔東京のどこに住んでたの?」
私は15年前の東京のことを知るために、翔に聞いてみた。
「15年前?確か、△区ってとこのアパートに住んでたよ。でもちょうど今頃みたいな夏休み入ってすぐくらいに引っ越して、この前まで□区に住んでた。」
「△区?待って、確か私も15年前そこに住んでたよ。家族4人で。」
私は翔が住んでいた地区を聞き、同じ地域に住んでいたことに驚いてなんだか嬉しくなった。
「まじ?じゃー俺らどっかで出会ってたかも知れねえな。」
私たちはテンションが上がって家族のことについて話し合った。
「え、翔は一人っ子なの?」
「ああ。母さんは俺を産んですぐに父さんと別れて、どっか行っちまったけどな。それからずっと父さんと二人暮らし。」
翔は笑顔だったがどこか遠い目をしながらそう言った。
「そうだったんだ。お母さんに会いたいって思わない?」
私はそれを聞くのはナンセンスだと思ったが、気になって聞いてみることにした。
「うーん。考えたことないな。産んでくれたことには感謝してるけど、覚えてないし、育ててくれた父さんがいるし、今更会いたいとは思わない。」
翔は真剣な表情でそう答えた。
「お父さんのこと大好きなんだね。」
「大好きって。はは。子供じゃあるまいし。」
翔は照れくさそうにそう答えたが、お父さんへの信頼が確固たるものだということは話を聞くだけで感じ取れた。
「まあ。父さんは俺が生まれた時、仕事でミスして、辞めさせられそうになってたから、それで喧嘩でもしたんだと思う。それで母さんは嫌気がさして、出てったんだよ。」
「まあ、今では2人で普通に暮らせてるし良いんだけどね。」
翔はそう言いながら、グラスに入ったコーラをグビグビ飲み始めた。
「そっか。」
私は翔のその言葉を聞き、どこか安心した。私は親を2人とも失って寂しい思いをしてきたから、翔がそう思ってなさそうで良かったと思った。
「お待たせしました。マルゲリータピザとたらこスパゲッティです。」
若い店員が慣れた手つきで注文した料理をテーブルに並べた。出来上がったばかりのスパゲッティからは湯気がモンモンとたっていた。
「わあ〜美味しそう!」
「ご注文は以上でお済みでしょうか?」
「はい。ありがとうございます。」
「ごゆっくり〜」
店員が、伝票をテーブルに置きその場を去ると、
「昼過ぎにナポリタン食ったのにまたスパゲッティかよ。」
翔は私が注文した料理を見て、笑いながらそう言った。
「別に良いでしょっ!イタリアン好きなんだもん。」
私は頬を膨らませ、ムッとした表情を見せた。
「はは。まっ、とりあえず食おうぜ。」
翔は「なんだその表情」と言いたげな顔をしてそう言った。
私たちは冷めないうちにはやく食べようとイタリアン料理に食らいついた。