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横浜での待ち合わせ

私たちは桜山珈琲で得た重要な手掛かりから、横浜まで来た。


「⚪︎⚪︎ホテルはこっちみたいだな。」

翔がスマホの地図アプリを開きながら、歩き出した。


「ああ!!翔!返信が来た!神崎って人から!」

スマホを開くと『初めまして。神崎です。』という件名でメールが来ていた。


「本当か!なんて書いてある?」


私たちは足を止めてスマホを覗き込んだ。


『初めまして。神崎です。佐伯さんの妹の美咲さんですね。お兄さんからあなたのことは聞いています。今、私はお兄さんと一緒に横浜の⚪︎⚪︎ホテルのロビーにいます。待ち合わせの人がなかなか来ず、3日間通い続けている状況です。東京にいらしているとのことで、お時間があれば、合流しませんか?』


「今ホテルにいるって!急ごう!」

私は翔の方を振り向き、そう言った。


「そうだな。メールですぐ着くから会おうって送っとこう。」


「うん!」

私は翔の言う通りに神崎さんにメールで送った。そして私たちはホテルに急いで向かった。



「ああ!またメール来てる!」

横浜の駅から5分ほど歩いて私はスマホの通知音に気づき、画面を開いた。そこには『美咲へ』という件名でメールが送られてきていた。


「お兄ちゃんからか。なんて書いてある?」

翔がそう聞いてきた。


『美咲へ 兄だ。東京まで来たんだってな。なかなか連絡しなくて悪かった。ホテルで待ってる。でもすぐ帰ってもらうから。お前はすぐ長崎に帰れ。』

メールにはそう書いてあった。


「すぐ帰れって…何それ。こっちは心配で気になって来たのに。どうしてつけ離すようなこと言うの…」

私はやっと兄に会えると思って少し安心していたのに、その言葉で一気に悲しくなった。


「大丈夫か。会ってちゃんと話そう。そしたら納得いくこともあるかもしれない。なんか事情があるのかも。行こう。」

翔は私の心を察して、優しく語りかけてくれた。


「そうだね。とりあえず会って話す。ちゃんと。」

私は前を向き直し、再び歩み出した。



ホテルに着き、ここに入れば兄に会えるんだと思うと緊張してたまらなかった。


「よし!入るか!」

翔がそう意気込んで私の背中を押してロビーに向かった。



「いた!お兄ちゃんと神崎?さん」

私はロビーにあるテーブル席に座っている兄と中年の男を見つけそう言った。その声に気づいたのか、2人は私たちの方を向き、手を挙げてこちらに来るよう手招きした。


「よお。美咲。久しぶりだな。元気だったか。」

久しぶりに見た兄は、目の下にクマができ、痩せ細っていた。


「元気だよ。お兄ちゃんこそ、元気なの?随分痩せてるけど。」

私は思い出の中の兄とは全然違う見た目をした彼を見て、心配になった。


「元気だよ。まあ、一人暮らしだと、飯とか抜いちゃったり、最近調べ物が多くて徹夜だったりで大変だけどな。」

兄は半笑いで私にこれ以上心配な思いをさせないようにそう言った。


「こんにちは。神崎です。お兄さんとは最近知り合って共通の話題でよくお会いしてるんですよ。今日もある人との待ち合わせで…まあ、とりあえず座りましょうか。」

兄と桜山珈琲で会ってホテルまで一緒に来ていた中年の男がそう言った。やっぱり神崎だったか。お店の店主が言ってた通り、カメラにニット帽をしている。


「こんにちは。神崎さん。兄がお世話になっています。あっ。お兄ちゃんにも紹介するね。こちら、私の高校に最近転校して来たクラスメイトの翔。」

私は一緒に来ていた翔を2人に紹介した。


「はじめまして。高梨翔って言います。美咲さんと同じクラスで、元々東京に住んでたんで、一緒に来ました。」

翔は緊張している様子はなく、落ち着いたトーンで挨拶した。


「翔ね。よろしく。ごめんな。美咲の心配性に付き合わせて。」

兄は笑いながらそう言った。


「心配性じゃない。お兄ちゃんが連絡しても返してくれないからでしょ。」

私が呆れたように言うと、


「ごめん。ごめん。でもまさか東京にまで来るとは思わなかったよ。」

お兄ちゃんは半笑いでそう言った。


「今日、お兄ちゃんの部屋入ったよ。何あれ。何してるの?」

私は兄に帰される前にどうしても聞きたくて仕方なかった話題に触れた。すると、兄は驚いた表情をしてこう言った。


「俺の部屋入ったのか!?何やってんだよ。そこまでするか?!ったく、勝手に余計なことするなよな。」

兄は大きなため息をつきながら、少し怒ったような顔でそう言った。


「だって。お兄ちゃんのことが気になったんだもん…」

そう俯いて言うと、隣に座った翔がこう言った。


「すみません。僕がインターホン鳴らしても出なかったから管理人に開けてもらって入ろうって言ったんです。だから、美咲は悪くないです。」

翔は私の落ち込んでいる様子を見て、これ以上空気を悪くさせないようにと、そう言ってくれた。


「そうだったんだ。美咲ごめん。でもあれは俺が勝手にやってることだから、美咲は何も心配するな。忘れろ。」


「忘れるって。なんでそう言ってすぐつけ離そうとするの。無理だよ…写真とか、記事とか集めて何調べてるの?あの記事って神崎さんの書いたやつだよね?」

私は不安とつけ離されたショックで感情的になり、声を荒げてしまった。


「ちょっと落ち着けって!美咲!分かったから。」

兄は私の左隣に座って、背中をさすりながら、私が落ち着くのを待っていた。すると黙っていた神崎さんが声をかけてきた。


「美咲さん。美咲さんの言う通り、お兄さんが集めている記事のほとんどが僕が書いたものです。記事を読んだなら分かると思うのですが、僕は火事事件を中心に独自に調べて掲載してもらっているんです。それをお兄さんが見つけて僕に声をかけてくれたんです。一緒に調査させてくれって。」


「そうだったんですか…調査を…」

私はその話を聞いて、頭の中がぐちゃぐちゃになりながらもなんとか理解しようとした。


「美咲黙っててごめん。でも、今、神崎さんが言ったことは本当で、俺は知りたいんだ。15年前のあの事件と今起こってる連続放火殺人事件について。何か引っ掛かってるんだ。」


「何かって?」

私がそう聞くと、兄は少し黙ってまた話し始めた。


「それは分からない。でも、もしかしたら、辛い思いをすることになるかもしれない。だから、美咲にはこれ以上言えない。」

兄は苦しそうな表情をしながら、そう言った。


「15年前って。やっぱり、お父さんのこと…?」

私は恐る恐る震える声で聞いた。


「ああ。そうだ。母さんが死ぬ前に言ってたんだ。あの事件は、解決してないって。」


「解決してない…?でも、だって…あの事件はお父さんが起こしたんだってお母さん言ってたじゃん。しかも色んなとこでもそう書かれてるよ。今更調べたってお父さんは拘置所で…」

私がそう言いかけると、兄が遮るように言った。


「ああ。そうだ。父さんは死んだ。それでその事件はそのまま不起訴になった。だから、犯人も父さんっていうことで報道されて終わってる。それから何も進展はない。俺も母さんの言葉を聞くまではそう思ってた。でも、調べていくうちになんかおかしなことがどんどん見つかってきたんだ。」


「おかしなことって?」


「これ以上は言えない。美咲、お前はもう長崎に帰れ。美咲はこのことに関わるな。きっと、いや絶対、辛い目に遭う。そんなことはお兄ちゃんとしては耐えられないからな。」

兄はこれ以上、私に首を突っ込ませまいと、強い目力で訴えて来た。神崎さんも黙って、頷くだけだった。


「翔は?翔はどう思う?」

私は翔に助けを求めた。いつも弱って困っている時に優しい言葉をかけてくれる彼に。しかし、翔は何が起こっているのか訳がわからないという顔をして動揺していた。


「お、俺は、分からない。ここはお兄さんと神崎さんに任せるのが一番だと…思う。」

翔は声を振り絞って、そう言った。


「そっか。みんながそう言うなら分かった。でも、事件について分かった時には言えることは教えて。じゃないと心が休まらない。」

私はそう言って立ち上がった。


「おお。分かった。ごめんな。」

兄はそう言い、立ち上がって私と翔を入り口まで誘導した。そして私たちは横浜の街に出た。



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