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桜山珈琲

私たちは兄のマンションから歩いて20分ほどにある桜山珈琲にやってきた。それは、兄のマンションの最寄駅から歩いて3分の距離にあり、裏路地にひっそりと佇んでいた。店内は、5席ほどのカウンターにテーブル席が4席で、落ち着いた雰囲気の店だった。メニューも昔ながらのナポリタンにハンバーグ、メロンソーダと昭和の時代にタイムスリップしたかの様なレトロ喫茶だ。


私たちは店に入りカウンター席に座った。店員に兄のことを聞くのが一番の目的だが、2人ともお腹が空いていたためナポリタンと翔はアイスコーヒー、私はメロンソーダを頼んだ。アイスクリーム付きのだ。


「お待たせしました。ナポリタンとメロンソーダです。召し上がれ。」

ここの店主であろう白髪混じりの黒い蝶ネクタイをしたおじさんがカウンターから注文した料理を提供してくれた。


「ありがとうございます。いただきます。」

私たちは空腹の反動で食事に夢中になり、気づけば食べ終えるまで一言も発していなかった。長崎からの長旅で昼ごはんを食べ損ねた午後3時のことだ。


「あ〜腹一杯。もう食えねえ。」

隣に座る翔がそう言いながら、お腹をさすっていた。


「ね。ボリューミーだったし、家庭の味って感じで美味しかった。」

店内に客は私たちを入れて5人しかおらず、他の客は皆1人で来ていたようで、私たちの会話は店内に鳴り響いた。だからか、カウンターでコーヒー豆を挽いていたおじさん店主が話しかけてきた。


「いや〜、若い子達が美味しそうに食べてくれるのは嬉しいねえ。なかなかこんな古びた店に若いもんは来ないから珍しいよ。」


「そうなんですか。このナポリタンすごく美味しかったです。ね?」

私は翔にそう問いかけた。


「おー。めちゃくちゃ美味しかったです。コーヒーも挽きたてのものを頂けて最高でした。」

翔はおじさん店主の方を向き、お得意の営業マンのようなスマイルでそう言った。


「そうかい。嬉しいねえ。」

おじいさん店主は嬉しそうに笑っていた。そうして続け様に、


「ところで君たちはどこから来たんだ?この辺じゃ見かけないけど。地元かい?」

と、私たちにそう聞き、翔が答えた。


「いえ。僕たちは長崎から来たんです。こいつ、美咲のお兄ちゃんに会いに来たんです。」

翔が私を見ながらそう言った。


「おお。そうかい。お兄さんはこの辺に住んでるんかい?」

おじさん店主は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに笑顔になり私の方を振り向いた。


「はい。ここから歩いて20分くらいのとこに一人暮らししてて。このお店にも来たことあると思うんです。」

そう言ってさりげなく兄がこの店に来たことを伝えた。


「あら。そうかい。この店にも…そりゃ嬉しいね。」

おじさん店主がそう言ったので、私は勇気を振り絞って兄のことを聞いてみた。


「覚えてないですか?この人なんですけど。」

私はスマホから兄の写真を見せながらそう言った。


「ああ〜。この子ね。来たよ。つい最近。でも確か、中年の男と2人で来てたよ。ちょうど君たちと同じ席に座って。」

店主がそう答えてくれた。


「それ本当ですか?!その人どんな人でしたか?」

中年の男と2人で…きっと神崎って人に違いない。そう思っていると、隣に座る翔が続けてそう聞いた。


「うーん、なんかカメラぶら下げてたね。首から。それにこんな暑いのにニット帽かぶってマスクまでしてたよ。」

カメラにニット帽…身なりからして記者っぽい。神崎だろうと徐々に確信に変わっていった。


「兄とどんな話してたか知りませんか?」

翔はさらにそう聞いた。


「うーん。そこまで聞いてないけど、なんか机に写真たくさん並べて見てたね。あと新聞記事なんか広げてね。」


「それってなんの写真か分かりますか?」

今度は私が店主に聞いてみた。


「ああ。そうだ。」

店主は何かを思い出したかのように厨房の中に入って行った。


「これこれ。多分お兄さんが忘れてったのだと思うよ。机の下に落っこちてたんだよ。」

店主は急いで戻ってきて私たちに写真を渡してきた。


「これって…」

私はそう言うと。


「ああ。やっぱり。」

翔は写真を覗き込んでそう言った。


その写真に写っていたのは、火事で燃える中そびえ立つ立派な一軒家だった。


「一体これなんなんだい?」

店主が疑問そうな顔で私たちを見た。


「ちょっと大学の調べ学習だと思います。これもらって行って良いですか?」

翔がそう言った。


「そうかい。もちろん持って帰って。」

店主はそう言って疑問な顔をしたままこれ以上何も聞いてこなかった。


「ありがとうございます。あっ。お料理美味しかったです。また必ず来ます。」

翔はそう言いながら、席から立ち上がって店を後にしようとした。すると、


「ああ。ちょっと待って。確かね。あの2人あの後、横浜の⚪︎⚪︎ホテルに行くって言ってたよ。誰かと待ち合わせがあるみたい。」

店主が急に思い出したかのように慌ててそう言った。


「それ本当ですか?⚪︎⚪︎ホテル…ありがとうございます。」

翔と私は最後に有力な情報を掴めたことに興奮し店を後にした。そして横浜の⚪︎⚪︎ホテルに向かった。



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