【天使】養殖・第二話(5)
「わては能なしの日本人やが、徒手格闘には自信がある」
言いつつ、両手首ぶらぶらさして、
「皆さんがた言語遊戯と文明操作の天才ぞろいとはいえ、この状況でわてに勝てまっか?」
両足首ぐりぐりさして、
「【仙女】はんがた含めて、あとはたかだか絶世がとりえのべっぴんさんや。それが二十人足らず」
首を左右にこきこきさして、
「もちろん手加減はさしてもらいま。けど、そちら次第や」
言うてから、正面でただ聞いてる【神女】と【仙女】たちから視線はずして、
「嬢やんがた、ええこと教えたる」
少女と襟紗鈴にちらり一瞬、顔むけて【天使長】は言うた。
「勝ちたかったら、生きたかったら、『少年漫画の逆をやれ』。敵には数倍の優位で当たれ。確率九割行かん勝負ならベタ降り。常に相手の死角に刺しこめ。まっすぐな主人公とかぬかすバトル漫画は糖衣でくるんだ突撃ラッパや。まさに読む玉砕。ページめくる手がとまらんメチルアルコールかサッカリン言うてさしつかえない。染まれば染まるほど命取りになる」
ひと息入れて、
「こういう……」
(まだ続くの?)
目みはってよる少女の前で、
「こういう『週刊読む軍歌』掲載のお話で善玉は標準弁つらつらしゃべりながら一対万の特攻きめて、しかも生還さえしてしまう。ほんで勝利の理由は、覚悟とか精神力とか絆、て。アホも休み休み言わな」
襟紗鈴がぽつり、「ジャンプとか好きそう」
「標準弁には……」
て、【天使長】は続けよった。「標準弁には気いつけるんやで。このジェネリック日本語は『しゃべるヒロポン』や。特攻気質にはぴったりな後発言語。『特攻弁』や。意識高いレミングちゅうもんがあるなら、それを産み出すだけ。キラキラしながら飛びこんでいく『シャブ弁』で意識変容しすぎやねん。使こた果てにアルタードステイツは見えたか?」
「語る語る」
て【神女】、かすかに笑ろうて、
「まるで遺言そかり」
「最悪刺し違えるつもりではおまんな」こちらも同様、笑う【天使長】、「けど、そうはなりまへんやろ。戦力がまるで違う。どうぞ矢でも鉄砲でも持ち出しなはれ。ほんでもその細腕で満足に扱えまっか?」
その場でぴょんぴょん跳びはね、心身両面を完了さしてから、【天使長】は声を太うした。
「ほな皆さん、ひとわたり尻の二三発も叩いて、そいでまずは堪忍してさしあげま! さあそこで輪あになって膝ついてパンツおろしなはれ! 手向こうたら痛いで?」(『【天使】養殖・第二話(6)』に続)