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君と恋を  作者:
二章
8/41

8

 


 そして気が付けば大学にバイトにと明け暮れる日々はあっという間に過ぎ去っていき、裕がクラブ『ROSE』で働くようになってから、早三ヶ月が過ぎようとしていた。


 大学やらが忙しくてもきちんと真面目に仕事をしている裕を見てなのか知らぬが、有人もなにかと気にかけてくれ、そして年が同じと知ってからというもの、誠也、瑛、石やんとはもう友達のような関係となっていた。



 初めの頃は敬称で呼んでいたのが、誠也の、


「それやめない? もうツレみたいなもんじゃん」


 なんていう言葉でぐっと距離が縮まったというのも、大いにある。

 そしてホストクラブは午後六時から深夜の十二時までの一部営業と、深夜三時頃からお昼頃までの二部営業という風に時間帯が分かれている事がほとんどらしく、学生である裕は一部のみの出勤だが他の三人はフルで働いていたりする為なかなか時間は合わないものの、一部で上がりの時は飲みに行ったり、遊んだりすることが常になっていた。(そのまま学校に行く時もあり、そんな時は眠気と酔いが辛いが、これも若いうちだけだと裕は開き直っている)



 けれども、未だあの神出鬼没とでも言うのか中々シフトに入らない、入ったとしても一週間に一度だけで二部のみだったりする蓮とは、一度も顔を合わせた事はなく。

 しかしだんだんとあの日の醜態をわざわざ蒸し返し謝るのもなんだか気が引けてきて、もういっそこのまま会わずにやり過ごせないだろうか。なんてうっすらと思いながら、仕事を終えた裕は一人、ロッカーを開けた。

 しかしそこにある筈のハンガーに掛けていた自分の服はなく、鞄の中身もぐちゃぐちゃに放り出されていて。

 その現状に、裕は小さく息を吐いては腰に手を当てた。



 ナンバー1の誠也や優しいと人気の瑛、愛想が良く一緒に居て楽しい石やんらとつるんでいれば、ぽっと出のくせにと反感を買ってしまったらしく、最近から始まった正体不明の、この嫌がらせ。

 まぁ別に誰かから嫌がらせをされても自分は自分のしたいようにするし、別にごまをする為に誠也達とつるんでいる訳でもないし。と考えている裕は嫌がらせをされる事は屁でもないのだが、自身の物が荒らされたりされるのだけは気にくわないのか、眉間に皺を寄せながら、荷物を鞄の中に収めていった。


 それにしても、ちゃんと誠也達が居ない時に合わせてやってくる辺り、地味に悪質だよな。


 と、今日は二部までシフトが入っているため仮眠室で寝ている誠也達にはバレないと踏んでの犯行に、こんなんして何が楽しいんだろ。と裕が可哀想な気持ちにすらなっていれば、


「えっ!?」


 なんて扉の方から素っ頓狂な声が響き、裕はバッとその声のした方を見た。



 そこには、驚いた顔をして自分を見つめている、ずっと会いたいような会いたくないようなと思っていた、蓮の姿があって。

 裕は先ほどの考えがあっさりと覆された事に若干気まずくなりながらも、


「あっ、れ、蓮さん!」


 とバタンとロッカーを閉じてはピシッと背筋を伸ばした。



「え、裕君、だよね? なんで居るの? もしかして働いてるの?」

「あっ、はい、俺、あ、僕、今は内勤として働かせて貰ってて、」

「えっ、内勤? 」

「あのあと有さんに内勤としてならどうかって勧められて……、それであの、随分と遅くなってしまったんですが、その節は本当にご迷惑をおかけしました! すみません!」


 なんて未だ驚いている様子の蓮に、深々と頭を下げる裕。

 それに慌てて、いや気にしないで、と蓮が声を掛け、それから眉を下げ笑った。


「むしろ俺の方こそごめんね。初対面の人間に口のなかに手突っ込まれて嫌だったよね」

「いえ、……ほんと、迷惑かけてすいません」

「……そんな気にしなくていいのに。顔あげてよ裕君」


 そう名を呼ばれ、ようやく顔をあげた裕に向かってにっこり笑ったかと思うと、ポリポリと頭を掻きながら、


「それに、どうせならすみませんじゃなくてありがとうって言ってもらえると俺としてもありがたいんだけど、」


 なんて少しだけ困ったように眉を下げ言う、蓮。

 その言葉にハッとした裕は、またしても頭を下げて、ありがとうございました! と叫んだ。


「あははっ、うん、どういたしまして。これで裕君の件も俺の失礼さもチャラってことで」


 爽やかな顔でもうお互い気にしない事にしよう。という蓮に、もう一度裕がぺこりと頭を下げた、その時。



「ゆう~、この間の発注の件なんだけど」


 と有人が開いていたドアから発注リストが綴られたファイルを片手に顔を覗かせ、けれどもそこに珍しい人物が居ることに目を丸くした。


「え? 蓮なんで居んの? 今日店出んの?」

「いや、忘れ物取りに来ただけ」


 有人の言葉にそう返す蓮は、本当に中々出勤するつもりはないらしく。

 ……なんで辞めないんだろ。てか辞めさせられたりしないのか。なんて裕は心のなかで不思議に思ってしまった。



「ふーん。まぁいいや。あ、裕、これなんだけど」


 そう言っては、もう蓮に興味がないのか、当初の目的である裕に話しかけてくる有人。

 それに二人して発注リストを覗き込む。そうすれば裕が以前発注を任された際のリストの中に、有人が頼んでいたらしい備品が入っておらず、裕は申し訳なさそうにポリポリと首の後ろを掻いた。


「あ、……やりわすれてたのかも。ごめん」

「おーいー」


 裕がぽつりと気まずげに呟けば、そのファイルで肩を叩きながら、それでも有人が笑う。


 その有人の笑いに気恥ずかしそうにした裕が、ごめん。ともう一度謝れば、「まぁいいけど、次からは単独で発注かけるんじゃなくてちゃんと最後俺に確認しに来る事!」なんてきちんと締めてくれる有人に、うん。と素直に裕が頷いたが、しかしそんなやり取りを見ていた蓮が、突然驚きの声をあげた。


「ねぇ待って、なんか二人めちゃくちゃ仲良くなってない!?」

「え、だってもう裕が働いて三ヶ月? くらい経ってるし」

「うそ!? え、なんで誰も俺に教えてくれないの?」

「えっ、俺ちゃんと誠也に、蓮にも教えとけなって前言ったぞ?」

「いやいやいや、アリさんばかなの? 誠也にお願いしてちゃんと伝わるわけないじゃん」

「うっ、それは確かに……、けど! 蓮はお店の事に興味なさすぎ!お前がちゃんとシフト入ってお店の状況とか気にしてればすぐ分かることだろ!」


 なんて正論すぎる反論をされ、途端に口をつぐむしかない様子の蓮を見て、有人がふんと鼻を鳴らし笑う。

 それから、それじゃあ俺戻るから。と言って有人は足早にスタッフルームから出ていってしまった。



 その場には、ほぼ初対面の二人がぽつんと取り残されただけで。


 それに蓮が、恥ずかしい所を見せてしまった。というように気まずそうにしたあとへらっと笑ったので、その顔に裕も何を言えるでもなく、同じよう気まずげに笑い返しただけだった。





 

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