うそつきの懺悔
「はい先輩、ボトルとタオルどうぞ! はい、これはキャプテンの分でこっちは副キャプテンのです!」
「お、サンキューマネちゃん」
「いえいえ! じゃあ私、洗濯に行ってきますね!」
「あれ……? 俺のボトル、間違ってない?」
みんなにボトルとタオルを渡して、山になったビブスを洗濯しようとカゴを持って立ち上がると、先輩がボソリとそう漏らした。
一瞬、心臓が跳ねる。落ち着け、落ち着けと言い聞かせて、ひとつ深呼吸。用意していた言い訳を口にする。
「先輩のやつ、パッキンの部分が壊れて水漏れしちゃってたんです。だから新しいのにしておきました。勝手にすみません……」
少しだけしょげた様子を見せれば、優しい先輩は焦ったように首を振る。
「いや! 全然! むしろありがとな! 金払うよ。いくらだった?」
「昔景品で当たったやつが家にあったんです! うちにあっても使わないので、もらってください!」
「それは悪いって!」
「いいんです!」
「いや、でも!」「いいんです!」「だけど……」の応酬を何度か繰り広げていると、そばで見ていたキャプテンが「だったら代わりになるもの奢ってやれよ」と鶴の一言をあげてくれた。
自分のしていることを考えると、すごく悪いような気がする……。けど、キャプテンの提案は渡りに船だ。さすがキャプテン、この恩はマネージャーの仕事で返します!
「それでいいの……?」
「先輩がいいなら私は構いません!」
「じゃあ、今度なにか奢らせてくれな」
「はい! じゃあ私、今度こそ洗濯に行ってきます!」
元気よくそう告げて走り出す。表情筋が緩み切っただらしない顔を先輩に見せるわけにはいかない。心臓が別の生き物みたいに跳ね回って、口から出てきてしまいそうだった。
洗い場に行く前に、一度更衣室に寄る。自分のカバンを開けて最初に目に入るのは、先輩が元々使っていたボトル。
パッキンが壊れただなんてもちろん嘘だ。家に同じボトルがあったのも、同じく嘘。みんなが騙されてくれてよかった。今まで真面目にマネージャーをやってきた甲斐があるというものだ。
先輩の使っているボトル……。先輩の私物……。それが私のものになったんだと思うと、またしても表情筋が緩み切ってしまう。いけないいけない。
あんまり余韻に浸っていると、“真面目なマネージャー”だと思ってもらえなくなってしまう。さっさと用事を済ませて仕事に戻らないと。
ガサゴソとカバンの奥を探って、一枚のビブスを取り出す。部活で使っているものと同じやつだ。7の番号がプリントされたそれを洗濯カゴの上にポイと置いて、元々洗濯カゴに入っていた7番のビブスをその山から引っ張り出す。もちろん先輩が使っていたビブスだ。家から持ってきた番号のものと同じビブスをさりげなく先輩に渡すのも、もう慣れたものだ。もう5度目なのだから、当たり前と言えば当たり前か。そんなことを考えながら、ビブスを丁寧に畳んでビニール袋に入れて、カバンの奥にしまい込んだ。
「……へへ」
我ながら気持ちの悪いことをしていると思う。それでも私にこんな行動を起こさせてしまうのだから、恋というものは厄介なものだ。
……なんて、もっともらしく言ったところで私の気持ち悪さは変わらないんだけど。
今度なにか奢らせてくれと、そう言った先輩の笑顔を思い出す。
「先輩、ごめんなさい。大好きです」
明日は何番のビブスと取り替えようかな。