愛憎一如
愛憎一如という言葉がある。愛と憎悪は一つの如し。表裏一体、切っても切り離せないものという仏教の教えだ。
そう、だからこの感情は憎悪であり愛であり、そして自分が先輩を手にかけるのは仕方のないことなのだ。愛しているのだから、憎んでいるのだから、愛しているのだから。私はそんなことを、頭の端でぼんやりと考えていた。
「先輩、大好きです」
私は先輩に語りかける。だけど先輩はなにも答えない。……正確には“先輩だったもの”だけれども。
私は先輩が大好きだった。愛していた。
多分先輩も、私のことを好きでいてくれてたと思う。
だけどいつしか私は、その程度の好きじゃ満足できなくなってしまった。
だって先輩は、私以外にも好きを振りまくんだもの。そんなの許せるわけがない。
先輩の愛がほしい。先輩が笑いかけるのは、先輩に触れられるのは、先輩を愛するのは、私だけであってほしい。
そう考えた私が辿り着いた答えは、先輩を殺すことだった。
冷たくなっていく先輩の肢体、死体。
重力に逆らうことをやめた先輩の体が私にのしかかる。
その体温も、重さも、なにもかもが心地いい。
これでようやく、先輩は私だけのものになった。
私だけの先輩。私だけが愛せる先輩。私だけが触れられる先輩。もう誰も、私たちを邪魔することなんてできない。
「もっと早く、こうしておけばよかったな」
もしかしたら先輩は、私のことを欲張りだって笑うかもしれない。
その通り。私は欲張りなんだ。先輩のすべてを私のものにしたい。
世界で一番大好きな先輩。
世界で一番愛しくて、世界で一番憎らしい。殺したいほど大好きな先輩。
「これでずーっと一緒ですよ」