虹 裏
コンクールの結果は、8位入賞。
これには驚いたらしい。
なんせ自由選曲で弾いた先生の楽譜の方は、フィッツさんがコンクール側へ提出したのとかなり中身が違っていたので、技術点方向の加点なんて全く無かっただろうからだ。
フィッツさんと誠也の、先生への解像度の違いが産んだ差異が大きく、先生ならこうはしない、先生ならこうする、先生ならこうするけどフィッツさんの考えたやつの方がカッコいい、なんじゃこりゃ二人の悪い所が出てるわ。
そんなのが散らばっている楽譜だったので、提出後に勝手に直した所ばかりで、結果的に理解度は上がったが、完成度は下がってしまっていたらしい。
「今まで聞いた話の流れから推測するに、これは先生のあのイキった恥ずかしい楽譜をフィッツさんが手直ししたものの筈なのでそんなことになってしまったのだろう。
結局、先生のお母さんからの連絡は来なかったから、その筈だ。」
誠也はそう言っていた。
珍しくフィッツさんの音楽に関する推測は外れたみたいだ、とも。
初見で別楽譜があると看過したのはすごい事だと思うのだけれどね。
元の作者なんてフィッツさんと比べたら素人同然なんだから、未完成やろって思う出来だったとしても仕方ないけれど、その続きを想像で再編したのがフィッツさん稿なんだろう、と。
「誠也、明日のガラ、何弾くん?」
「え、ガラ?ガラコンサートあんの?」
「こんなデカいコンクールなんやからあるに決まってるやろ。
なんか用意してんの?
レッツエンターテイメント!
さっぶいでースベったら。」
ガラコンサートとは、本戦の後に行われるエキシビジョンで、縛りのある本戦とは違い楽しむための催しだ。
コスプレをして弾く者もいれば、本来弾きたかった曲を弾く者もいる。
4年に一度の世界一を決める大会に出られる腕前を持つ猛者たちの技術の無駄遣いを楽しむ、それがガラコンサート。
意外と馬鹿にならないもので、エンターテイメントに特化している催しという事は、客を楽しませられる才能を観る場とも言える。
それがきっかけで世界に見つけられる可能性も大いにあるのだが、当然誠也は苦手としていた。
観るのは好きだ。
けれど、自分でやれと言われたら何をしていいかわからない。
そんな、こんな俺が人を楽しませんなんて、と。
前に海外で出たガラは、練習もしていないので弾きこなせもしていない日本の曲を弾いてお茶を濁したくらいだ。
「マジか。どうしよう。」
誠也は、さっきまでいい気分だった。
ウィナーにはなれなかったが、やる事をやって納得もしているので満足していた。
蛇足だ、こんな催し。
そうは思うが、端っことはいえ入賞してしまった者の義務がある。
それならば入賞しなくてよかった。
口には出さないが、誠也はそう思った。
負けて不貞腐れて帰ったと思われた方が良かった。
出来ればいい気分のまま帰りたかったから。
「…アンパンマンたいそうでも弾いて帰るよ。」
「なんやそれ…あぁ、偶に誠也がリンにせがまれて弾きまくっとる前奏が狂った難易度のアレか。
あっはっは、まぁ、少しはウケそうやな。
分かったわ、音響にはボクが伝えといたらぁ。
音源もあった方が楽しそうやな、ヴァイオリンを構えて5秒経ったら弾き始めたらええ。
そういう風に設定しといたる。」
妙だな。
普段の誠也なら間違いなくそう思っただろう。
フィッツさんがあんなあっさり投げやりな遊びを承認するわけが無い。
もっと何ラリーも煽られて、アホやなと言われて、誠也がヤケクソで面白そうな事を言うまで続ける筈なのに、あっさりと了承した。
しかし、その日誠也は疲れていた。
尽くしていたのだ、かなりの力を楽曲に。
故に気がつく事はなかった。
もしかすると、師のいたずらに慣れすぎてどうでも良くなっていたのかもしれないが。
これは僕も悪かった。
僕もそう言う節があったからね。
どちらにせよ明日の事など考える余裕などは微塵も残されてはいなかった。
何なら不正や新鮮さを損なう事を防ぐために、当日発表される順位すらもどうでも良いので、帰って眠りたかった。
集中し切ったばっかりに開いたまま忘れられた目に刺さったスポットライトの光線が、目の奥に焼き付き世界は虹色に輝いている。
その光がある内に眠りにつければ、何となく、何の根拠も無いけれど、先生にいい報告が出来るかもしれないと、そう思っていたんだって。
嬉しいね。




