友達の友達
「人を6人。
始めの人から6人数珠繋ぎで辿ると、世界中誰にでも行き着く事が出来るとか。
人には50人の知り合いがいると仮定すると、50の6乗で総人口を超えるからだ。」
「すげー。
何人?」
「世界人口が80億人くらいで、50の6乗が156億2500万だから倍くらい多くなるんだ。」
六次の隔たりという机上の空論だが、実験を行うと意外と遠くない数字が出るらしい。
一人一人追って行った場合でも7人目程でつながれるとか。
「つまり、怖い話なんかで出てくる友達の友達という相手の対象は聞き手から見て語り手がいるからそれで50。
その友達で50、さらに友達で50人が含まれる訳だろう?
つまり12万5千人が対象というわけだ。
そこそこの市の人口だよ。
多いよねぇ。
とてもじゃないが追いきれないが、あえて追ってみる事にしたんだ。」
追い探す噂は当時そこそこ広がっていたラブホテルの一室の怪談である。
まぁ、話自体はよくある、そこに泊まると呪われるだとか、カップルに嫉妬している女の幽霊が出るだとかそういったものだ。
そのホテルは立地もいいのと、宿泊料金は普通だが休憩料金が安かったので人気があった。
気軽にそういう所へ入れる様になった頃に利用した事もあったが、先生の話に出てくる怪談を何年も経ってから別の人から聞いた時は笑ってしまった。
「まずそれを話していた人から話を聞いた所、やはり友人から聞いたとの事で、その友人を紹介してもらったんだ。
それでね?
そうして怪談の出どころを聞いてまわった結果、今14人目まで来ている。
50の14乗だね。
幾つになるか分かるかい?」
「ううん。」
「6000垓以上さ。」
「がい?」
「うん。
星の数程って慣用句があるが、空に浮かんで見えるより全然多い程だね。
こうなると、逆に不思議だ。
始まりはあるはずなのに、追っても追っても始まりに辿りつかない。
キチンと話をした本人に聞いて話を聞いた人に繋げてもらったのだから、効率よく追えているはずなのに、だ。」
例えば、礼儀や相手の都合を無視した場合、小学生当時の俺でさえ、総理大臣に辿り着けるだろう。
自分の父親、車のディーラー、いくつか経由する必要はあるかもしれないが、車の製造元の社長へ飛べばおそらく辿り着ける。
更にそこからテレビ局のお偉いさんへと飛べば海外スターすら届く範囲だ。
なのに怪談の始まりには届かない。
不思議な話である。
「途中で俺が考えたんだって言うやつが居てもいいと思ったんだけどね、意外と居なかったよ。
始める前は、安くて人気のラブホテルを自分が利用しやすい様に噂を流したんだと思ってたんだ。
だから軽い気持ちで追ってみたんだけどさ、意外な結果だったね。
まるで、この怪談自体が幽霊の様だよ。」
世に蔓延る様々な噂は出所のしれないものが殆どで、元へと追っていくやつも記者でもなければ、まぁいないだろう。
「あのさ。」
「うん?」
「ラブホテルってなに?
ホテルだから、泊まるところ?
先生は行ったことあるの?
楽しい?」
「…あ、あぁ!
…勿論だとも、勿論だとも!
た、楽しいさ!
朝食が美味しかったなぁ!」
今思うと我ながら残酷な質問だった。
平日の放課時間に度々小学生と話す、大人だか大学生だかなのだ、先生は。
思いっきり社会不適合者である事は間違いない。
偏った知識を子供に吹聴して周る変人なのだ。
モテるはずなどあろう訳がない。
断言できる。
先生はモテなかったはずだ。
そしてなにより、4件だった。
4件。
先生のケータイの登録人数だ。
今ならその事の深刻さが分かるというもので、背筋が凍る気持ちがした。
というか先生、六次の隔たりの外にいるじゃないか。