地獄の作り方
「これを見てご覧。」
それは木板を複雑に組み合わせた箱で、振るとカラカラと乾いた音がする。
重さは箱と同等と言った感じで、中に重量物が入っている感じがしない。
「これはね、死んだ人の魂を閉じ込めた箱なんだって。
偉いお坊さんだったんだけど、その時の権力者に寺院ごと焼き討ち…えーっと、燃やされちゃって、その時に魂だけ箱の中に逃げ込んだんだ。」
「凄いね。」
先生はこういう曰く付きの物をコレクションしているらしく、持って来ては謂れと一緒に見せてくれた。
今回は開けるのがとても難しい上、開けてはならないという事になっているらしい。
カラクリ箱という、少しづつ少しづつ板を動かしていくと開く様になっているのだが、年代物過ぎるしお札が貼られていた形跡があるので固まって動かないところや、滑りが悪くて正解かわからない箇所があるので余計に難儀するとの事だった。
「開けたら何が入っているの?」
「なんだろうねぇ。
一説には、極楽浄土へ辿りつく様な偉い偉いお坊さんが恨みのあまり死んだら、自分で自分に罰を与えるんだって。
そうやって恨みを晴らして、また生まれ変わった時はとても綺麗な魂になるらしいんだ。
だけど、この人はこの中に閉じ込められちゃっているからね。
輪廻から外れてしまっているから…ずっと自分で自分に罰を与え続けているかもしれないね。」
「可哀想。」
「うん。
罰を与えられるところを地獄っていうらしいから、つまりはこの中には小さな地獄が入っているんだと思うよ。」
「ふぅん。」
少し大きくなってから調べたところによると、割と有名な呪具だったらしい。
先生が言うには格の高い人間を使えば使うほど、小さな地獄の罰は辛く重い物になっていくそうな。
軽い物でも針で刺される痛みを繰り返すのだとか。
このお坊さんの格だと、ずっと燃やされているか、ずっと凍えているか、そう言ったところらしい。
「それ、僕も持ってるよ。」
「え?」
「灼熱地獄の方。
寒い方は当たらなかったんだ。
明日持って来てあげよっか?」
「…是非見てみたいね。」
そうして俺は自分の宝物入れから、当時コレクションしていた物を持ち出した。
中身が分からないタイプで、レアリティの高いそれは当時本当に大切にしていたのだ。
◆
「先生、これ。」
「噂の灼熱地獄だね?
…んー。
んー?
プラスチックの箱かい?
確かに似ているね。」
「知らないの?
これはね、こうやって…こうやると、ホラ。
ドラゴンになるんだ!」
当時流行した変形するルービックキューブの様なおもちゃで、何種類か存在していて、ゴリラになったり、鯨に変形したりする物だった。
その中でも最高レアリティの物は、真っ赤な物々しい箱形で、変形を完了するとドラゴンへと変形する。
小さな突起から翼が生えてくるギミックなんかに、当時の俺は大興奮したものだ。
「…ええと、これが地獄なのかい?」
「そうだよ?
あれ?
インフェルノって地獄でしょ?」
「…う、うん、そうだね。
英語で地獄の事だ。」
「ね?
これはインフェルノ・ボルケーノドラゴンって言うんだ。」
「…地獄の灼熱龍か…確かにそうだね。
…でもちょっと違うかな。
昨日見せた木箱は、地獄そのものだから。」
「でも、ドラゴンは怖いよ?
勝てないと思う。
地獄だし、火山だし。」
「そ、そうだね…。
確かに地獄だとまだ何とかなる可能性があるけど、これには勝てなさそうだ。
ウェルダンで美味しくいただかれちゃうね。」
当時はウェルダンが何のことか分からなかったが、おそらく強い技かなんかだと理解したのだろう。
なんとなく納得してくれた先生はクルクルとインフェルノ・ボルケーノドラゴンを四角く戻したり、またドラゴンにしたりしていた。
後日、先生からインフェルノ・ブリザードドラゴンを貰ったが、その時にはもう飽きてしまっていたので、今手元にある2体のドラゴンの内青い方はピカピカのままだ。