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科学館

いつもの公園は護国神社内にあり、中央部に池がある。

ぐるっと一周すると外周部には図書館があり、民家があり、市民プールがあり、美術館がある。


堤防を上がれば河川敷になっていて、何のためだか分からないが、舗装されている広いコンクリート広場と、少年野球場とサッカーコートがある。


市の施設をここに集めれば良いと思っているのでは無いかと思うほどギュッと集まっているのだが、そこまで人は多く無い。


大型ショッピングモールが郊外に出来てしまったので、この辺は年々寂れていっている印象なのだ。


ボード売り場には駄菓子屋が入っていて、軽食も売っていたらしいが、俺が知る頃にはソフトクリームとかき氷しか売っているのを見た事がなかった。


図書館の隣には、公園に面していない形で科学館がある。

とは言え古い建物で、別の場所に新館を作っている途中なので、あと数年で無くなるらしい。


「あそこには、未来の道具という展示コーナーがあってね、例えば、そうだな、どこかの国の万博で展示された、空飛ぶ車の模型とか、持ち運べる電話とかさ。


現代に生きる僕たちにとっては、すでに時代遅れになっているものもあってね。

その中の一つに、テレビ電話がある。


少し離れたところにもう一台設置してあって、その電話同士では顔を画面に映しながら通話が出来るってわけさ。


まぁ、もう今となってはね。

僕のポケットに入っているケータイですら同じ事が出来るわけだから、何の驚きもないんだよ。


ただね、一人でビデオ通話をしていると、たまに女の人の声で応答があるんだって。

だけど、姿は映らない。


開けた訳じゃないから実際のところは分からないけどさ、映像を出す仕組みは古いはずだから、単純にカメラと画面を線で繋いでいるだけだと思うんだよ。


だからあるものはラグなく写るはずなのに、映らない。


声は聞こえるのにね。


さ、行ってみようじゃないか。

お金は僕が払うから気にしなくて良いよ。」


二人で科学館へと足を踏み込む。

入り口にはクジラの骨格標本が飾られていて、左手へ進むとプラネタリウム、今回の目的の科学展示は右手に進んだ方向にある。


始めは古代のゾーンらしく、猿から人へと進化する様子のビデオが流れていて、次に石器が展示されている。

現代のゾーンには基盤が置いてあったり、地震体験が出来るコーナーや、1m走のタイムを測れる機会があった。

歪んだ鏡が並んでいるコーナーは、そこに立つだけで平衡感覚がおかしくなりそうで楽しかった。


「さて、これだね。」


「うん。」


四角の角を落として丸くしたブラウン管のテレビの様なものが置いてあり、その前にはインターフォンを受ける際に使う様な薄い受話器がおいてあった。


今となっては中々お目にかかれないブラウン管テレビのノイズが、逆に未来的な何かを感じる。


俺は受話器を上げて耳を澄ませてみるが、サーサーという音が聞こえるだけで、声は聞こえなかった。

先生に受話器を渡して聞いてもらうが、やはり同様らしく何も聞こえてはこなかった。


「ふむ…何も聞こえないね。

ちょっと僕が反対側の受話器を取ってこよう。


待っててくれるかい。」


「うん。」


そう言って先生が離れた瞬間、受話器からボソボソと男の人の声がした。

明確に人の声に聞こえる音で、内容は不明瞭だが、日本語の文章の様だ。


「……しゃ……い……。

えー……す……に……ます。」


サーサーというノイズではなく、ジジジという強いノイズも混ざっていて、余計に聞き取りにくい。


「……ジジ……ごう……3……。」


画面にはやはり何も映ってはいない。

耳をすましながら画面を凝視していると、ヌッと端から手が現れた。


そのままパタパタと何かを探すかの様にテーブルを探っている。

画面内を何往復かしたあと、目的の物が見つかったのだろう、手は下の方へと戻っていった。


「…くるしい…。」


ハッキリと受話器からそう聞こえてくる。


「…助けて…。」


苦しそうな声だが、なんにも怖くはない。

先生はテレビにカメラがついていると仮定して、低い姿勢で隠れて受話器を取ったつもりらしいが、実際はもう少し高い位置にカメラがあるため、丸見えだった。


「うらめしや。」


「先生、古いよ。

うらめしやってお化け屋敷でしか聞いた事ないもん。

今の、このテレビ電話に出て来るような幽霊はそんな事言わないでしょ。」


「う、そうだね。」


しゃがんでいた先生がヌッと下から飛び出てきた。

画質の悪い映像に知り合いが映っているだけの方が、不気味で恐ろしい。


「はぁ、なんにもなかったか。

でも楽しいもんだね、科学館ってさ。

戻るよ。

待ってておくれ。」


先生が受話器を置いて画面から消える瞬間、また何かが聞こえてきた。


「3ご……しゃ〜……ジジジ……3ごう……ジジジ願いします〜。」


頭にハテナが浮かぶ僕を見つけたのか、先生が顔を寄せて来た。


「…これは、タクシーの無線だね。

成程。

このテレビ電話は映像は有線で、音声は無線電波で飛ばしていたのか。


近くを通るタクシーの声を拾ってしまうんだね。

あっはっは。

いやぁ、解決するとは思わなかったよ。


今日はいい日だ。

ね。」


「うん。」


先生は納得して、そのまま展示を見ながら進んで行ったが、俺は全然不思議な気持ちのままだった。


タクシーの運転手の男女比は9:1程だろう。

ましてや無線交換手で女性の声は聞いた事がない。


先生は確かに言ったのだ。

電話から女性の声が聞こえてくると。


俺はもう一度受話器を上げるが、そこからは静かなノイズが流れるだけだった。

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