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ナイショのおへやは入るためにあります!

作者: 夜朝

本作、いくつか違和感があるよとご意見をいただき、今回全体的に手直ししてみました!


よろしくお願いします。

 かちゃん。

 カギをする、かるい音。

 あやちゃんはいそいでへやを出ました。

 するとやっぱり、パパがいちばんおくのドアの前に立っています。

 おうちの中でカギができるへやは、パパのしゅみのへやしかないのです。

 あやちゃんは、もうなんどめか分からないことばをくりかえしました。


「ねえぱぱ、そのおへやには何があるの?」

「ここはナイショ。あやがもっと大きくなったら、いっしょに見ような」

「大きいってどのくらい? あたしもう大きいよ。ひとりでおるすばんだってできるんだから」

「うーん。まだ早いかな」

「やだ! ぱぱのけち! きらい!」


 あやちゃんは今年で五才になりました。

 近ごろはジャンプして自分の身長より高いところにタッチするのがお気に入りです。


 そんなあやちゃんには、ひとつナイショにしていることがありました。

 それはナイショ。パパはもちろん、ママにもナイショのこと。


 カギをにぎってあるきはじめたパパのうしろをおいかけて、あやちゃんもあるいていきます。

 そうしてふたりリビングにやってくると、パパは本だなの上のほうにカギをおいてから、キッチンにいきます。

 あやちゃんはパパの手がどこにおかれたか、しっかり見ておきました。

 うんうん。

 あやちゃんはうなずきます。


 あやちゃんがナイショにしていること。

 それはあのカギがおいてあるたなにも、ジャンプすれば手が届くようになったということです。


(だから、ぱぱがナイショにしているあのおへやにも、もう入れるの)


 あやちゃんは近ごろ決めていることがありました。

 それは次のおるすばんの日に、パパがナイショにしているあのへやに入ってみるということ。

 それはナイショ。だれにもナイショのぼうけんです。


(はやくこないかなぁ。次のおるすばんの日)


 ひとりでおるすばんする日は、いつもよりちょっとたくさんおやつがあります。

 そのため、あやちゃんはもともとおるすばんの日は好きなほうでしたが、今回はとくべつにたのしみでした。

 それに気付いたママはちょっとふしぎそうにしていましたが、あやちゃんが何を考えているのかまでは分かりませんでした。


 * * *


 さて。いよいよおるすばん当日です。

 あやちゃんはにこにこえがおで二人を見おくると閉まったドアをじっと見つめました。

 するとドアノブのカギが外からかかります。


 さあここまで来れば、ようやく、あやちゃんの出番です。

 あやちゃんはスキップしながらまっすぐにリビングまでやってきました。


 本だなの前に立って、とんとん。と、かるく何回かとんでみます。

 どうやら思いきりとんでもだいじょうぶそうです。

 本だなはびくともしませんでしたから。


 両方の足をまげのばし。

 うでも、両方まげのばし。


 さあ、いきます。

 はずみをつけて――。

 えぃっ。


「……!」


 いっしゅん。

 ほんの少しのじかん。

 じぶんのおもさがゼロになった気がしました。

 そのいっしゅんに、さわったカギをつかむと、あやちゃんは空中からゆかの上までおちてきます。

 ちゃくちせいこう!

 あやちゃんはカギをにぎったままで、両手を高く上げて決めポーズをとりました。

 そのかおはにっこりえがおです。


 でもこうしてはいられません。

 あやちゃんが本当にしたいことは、べつにあるのですから。


 カギをにぎった手をむねにぎゅっとあてたあやちゃんは、いそいで、ろうかのいちばんおくのドアの前までやってきました。


 ワクワクとドキドキがあやちゃんの心の中をいったりきたりします。

 このドアの向こうで見たことは、パパにもママにも、だれにもナイショ。

 だって教えてしまったら、きっとパパから大目玉です。


 あやちゃんはちょっと心配になってしまいました。


 入っちゃってもいいのかな。

 パパが良いよって言うまで、まっていなくていいのかな。本当に?


 でもパパが良いよって言ってくれるまでまっていたら、いつになるのか分かりません。


 あやちゃんは今、見たいんです。

 今が良いんです。

 前に見たテレビで言っていました。


「『どきどきがわくわくにかわったら、こうどうしなくちゃいけないんだよ』」


 あやちゃんは、カギをドアノブにあるカギ穴にさしこもうとします。

 ちょっとふるえて、何回かやり直しました。


(だいじょうぶ。だいじょうぶ。ちょっと見るだけだもん)


 何があるか分からないけど。

 きっと、だいじょうぶ。


 あやちゃんは、すーはー。としんこきゅうしてから、カギ穴にさしたカギを回しました。


 ドアを開けたら、かおがあついあやちゃんです。

 きっと今、赤くなっているんだろうなと思います。

 ドキドキしすぎてむねがいたいです。

 でも、なぜか楽しいのです。

 あやちゃんはむねを手でおさえてドアをくぐりました。


「わぁぁぁぁ……!」


 そこはなんてキレイなんでしょう。

 あやちゃんは思わずため息をつきました。


 パパのナイショのへやの中は、暗い中でぼんやりとキレイな青色の明かりが水をてらしていました。

 水。そう、たくさんのたなの上に、たくさんの水そうが並んでいます。

 たぶんその水そうの中には魚が泳いでいるのだと思いますが、たなが高くてあやちゃんからはよく見えません。

 ただ、水がユラユラしていて、そこに光が当たってキラキラしていて、ずっと見ていてもあきません。


「りゅうぐうじょうだぁ」


 あやちゃんにとってそこは、絵にもかけないうつくしいばしょでした。


 もっと近くで見たくて、ぴょん。ぴょん。と、とんでみますが、よく見えません。


 あやちゃんはジャンプして水そうのふちにつかまりました。

 何かが水そうの向こうがわに落ちてしまいましたが、あやちゃんにとっては、それどころではありません。


 水そうにぶら下がって見ていると、そこでは、かおが黒くて体はうすい青色の魚が、ふよふよとおよいでいます。


「かわいい!」


 でも魚はふよふよしているだけで、あやちゃんのことは気にもしません。

 魚と遊びたいあやちゃん。

 そーっと右手を水に入れて、魚の目の前でひとさしゆびを行ったり来たり、うごかします。


 ですが、片方のうでだけでは自分をささえられなくなったあやちゃんは、左手のほうも水そうの中に入れてバランスをとろうとしました。

 けれどもこのポーズをとりつづけるのが、少しずつ、つらくなってきてしまったのです。


 だから、からだをもっともち上げて、らくちんなポーズを、さがそうとしました。

 すると、たなの上のほうにあった明かりに、あたまをつよくぶつけてしまったのです!


「あっ……いたぁ……」


 水そうからおっこちそうになったあやちゃんです。

 何とかおちるのだけはしないようにとがんばるのですが、うまくいきません。

 水の中に手を入れて、じたばたして、さいごは手にくっついた何かをつかんで、そのまま、ゆかにおっこちてしまいました。

 おしりも、しりもちをついて。

 あたまも、まだいたくて。

 水そうの中から引っぱり出してしまった水草や何かのきかいが、スカートを水びたしにしていて。

 あやちゃんは、わんわん泣き出しました。


「あや!? あや! あやちゃん!」


 あやちゃんが泣いていると、まだとうぶんのあいだはかえってこないはずのママがへやに入ってきました。

 どうして、と考えるよゆうはなくて。

 あやちゃんはママにだっこされて、安心したはずなのに、よけいにたくさん泣きたくなりました。


「あやちゃんケガはない? いたいところない?」

「どうしたママ、あやは……こら、あや! どうしてここに入ったりしたんだ! 魚が死んでしまうじゃないか!」

「パパ! 何を言ってるのよ! あやのしんぱいが先でしょ!?」

「見たところ水びたしなだけで、ケガもしてないじゃないか! この水そうには80万はするまぼろしの魚がいるんだぞ!?」

「ごめんなさいごめんなさい。ぱぱまま、あやのせいでけんかしないで~!」


 泣きながらもパパとママのケンカを止めようとするあやちゃん。

 パパとママもそのようすを見るとさすがにケンカをつづける気にはならず、ママはあやちゃんのシャワーときがえを手つだい、パパは水そうの片付けをしました。


 * * *


 あやちゃんは温かくなっておちつくと、泣き止んでふくをきました。

 みんなは、おたがいに、これまでのことをせつめいします。

 パパとママはわすれものをしたのでとりにかえってきたこと。

 あやちゃんはじぶんでパパのナイショのへやに入ったこと。水そうにつかまってじたばたしていると、あたまをあかりにぶつけたりしたこと。さいごに水そうからおっこちてしりもちをついたこと。

 おふろ上りによく見ると、あやちゃんがいたがっていたおでこには、たんこぶができてしまっていました。たんこぶは今もさわるといたみますが、しりもちはもういたくありません。


「パパだってわるいわ。あやちゃんはいつも見たいって言ってたんだから、もうパパがいっしょの時に見せてあげれば良かったのよ」

「おとなしくしてないと魚がつかれるからさ。あや、見たらぜったいにさわぐだろう? だからもう少し大きくなったらって思ってたんだ」

「ごめんなさい……おさかなさん、あんなにキレイだったのに。あのおさかなさん、しんじゃったの?」

「いや、水草と、水をキレイにするものをとり出しただけだったからね。魚はげんきにしているよ。それに、たしかにパパもわるかった。魚もだいじだが、もちろん、あやがぶじなのがいちばんだからね。わるいパパをゆるしてくれるかい? あや」

「うん! あやもごめんだから!」


 あやちゃんはパパにだきついて、うれしい時のぎゅーをしました。

 パパから、ぎゅーがかえってきたので、にこっとえがおがふえました。

 それを見たママも、それはそれはうれしそうにわらっていました。


 ほかのへやをかってに開けないことをやくそくすることになってしまいましたが、あやちゃんはしあわせなのでした。


〜おわり〜

お読みいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
やってはダメって言われたことほどやってみたくなるお年頃ですよねー。
2025/01/30 08:34 退会済み
管理
 子供の冒険心。あるあるですね。つい危ないことをしてしまう。    でも気になることが少々あり。  野暮を承知であえて書くと……。  体格的にドアノブに手が届くようになるのは1歳~2歳ぐらい。この頃…
この部屋には入ってはいけない、と言われても、そう言われるからこそ、5才のあやちゃんにとって、ワクワクとドキドキが止まらないですよね。 水槽を倒してしまったけれど、怪我はなくて、パパとママからやさしく…
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