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食欲と愛情

作者: ぽてと

眼前、一汁三菜。


「世の中には食べようと思っても食べれない人もいるんだから。ご飯は残しちゃだめよ。」


仕事帰り、大切な人が作ってくれたご飯。温かいご飯。


世間は言う、幸福な家庭。

一人暮らしは栄養のことなど何も考えない。コンビニ弁当。肌は荒れ、特に胃が軋む。

食事が原因だと断言できない、しかし当時の食生活は荒んでいた。

 


最近、胃が痛くなる原因はストレスが原因だと知った。理由は明白、胃が痛い。反面、家で妻が健康的な料理。


「世の中には食べようと思っても食べれない人もいるんだから。ご飯は残しちゃだめよ。」


母親にも言われたことを、3歳になる娘に妻が言う。



俺は用意された食事を前に内臓が絞られるような痛みを感じる。

ちゃんと食べなくては___

彼女のことが大切だ。女性の社会進出が著しい昨今。彼女は家庭に入り、文句も言わず家事をこなす。俺がしていることは多くない。休日もそうだ。娘の相手をしているだけで十分だから、そう言って彼女は掃除、洗濯、すべてをこなしてしまう。


良妻。心からそう思う。



最高の家庭。幸せの典型例。俺はそれを手にしている。



だが、この時間だけはどうしても苦手だ。食事。


最近、食欲がない。精神的に参っているわけでもないし、間食を取るようになったという訳でもない。ただ単純に、食べる量が減ったのだ。歳を取ったからなのか。



妻が作ってくれる食事を、おいしく食べたい。実際、彼女の作るものはおいしい。


行動は言葉よりも雄弁に語る。平らげ、感謝を伝えたい。いただきます、ごちそうさまを言うことで娘にそれを姿勢として学ばせたい。



個々で分けられた主菜を取り、口に運ぶ。数回咀嚼し白米が追従する。数回繰り返し、副菜と汁物を間に挟む。


この作業を繰り返すことが難しくなってくる。腹が重い。もう十分だ。

しかし茶碗の米は半分しか減っていない。


「味薄いかもしれないから、醬油かけていいからね。」

味変__年始の大食いの人たちも行っていたような気がする。数滴。米が減る。


そして次に現れるのは胸の気持ち悪さだ。昔から油物は多く食べることが出来なかった。コンビニエンスストアのホットスナックは一つが限界。もうすぐ交換されるであろう酸化した油で作られたものであれば、腹も下してしまう。


今日の主菜は魚だ。臭みのないボラ。しかしそれでも油がのしかかってくる。副菜や汁物でごまかしながら、何とか食べ終える。



こんな日々の繰り返し。栄養のある食事を笑顔で作ってくれる妻。愛情の味がする食事。しかし愛情の味はどんなフライよりも重い。



彼女の思いやりに応えなくては。しかし食欲はその思いに反比例する。





「あなた、最近顔色が悪いわよ。大丈夫?」

妻は俺をしたから覗き込むように言った。俺は大丈夫だと伝えた。

「そう、ならいいけど、無理しないでね。」

朝のやりとり。


「今日はハンバーグ作っとくから、楽しみにしておいて。」

玄関、妻が言う。ドアを開け、出社する。




胃の痛みは昨日より強くなっていた。



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