死を呼ぶ帽子
ここは都内にある高級ホテル。昨日までは結婚式後の盛大な二次会パーティーが開かれていたのだが、今日は多数のパトカーと警察関係者でごった返している。
「被害者は?」
「はい、DJの男性で、パーティーに招待されていたようです」
壮年の警部と若手の刑事のコンビが、早足で現場である中ホールへと向かっていた。
「死因は薬物の過剰摂取とみられています。彼は普段からこの合法薬物を使っていましたが、鑑識によると明らかに血中濃度が逸脱しているようで、それで殺人が疑われたのです」
「中毒死にみせかけて、というわけか……うおっ!?」
警部が中ホールに入ろうとしたところ、警報音が鳴り響き、鉛色のシャッターに阻まれてしまった。
「な、なんだこれはっ!」
「警部、これは新婚夫婦の要請で設置された危険物探知ゲートだそうです。このホールの入り口に漏れなく設置されているみたいですよ」
「それを先に伝えんか!」
ホールに入ると、ステージ上で横たわっている被害者の姿が目に映った。二次会とはいえ、結婚式には相応しくないド派手な格好をしている。少し離れた所に、被害者の帽子も落ちていた。
「いったい誰が、招待客である彼に薬物を盛ることができたのだ?」
「ゲートのせいで、金属類のほとんどは持ち込めないはずです。つまり、注射器の類も使えないということですね」
「薬物が致死量のものにすり替えられたのか? ん、待てよ。さっきのゲート、なぜ俺に反応した? 今回は拳銃なぞ持ってきてないのだが」
「あれ、そういえば変ですね」
警部は少し考えて、そして視線を落とした。その先にあるのは、被害者が被っていた帽子。
「そうか、帽子かもしれん!」
「えっ?」
「至急、あのゲートを設置、操作した人物を洗ってみろ!」
この判断は当たっていた。犯人は、ゲートに引っかかった人物のボディチェックを担当するSPであった。犯人は事前にゲートのプログラムを改竄し、頭部に被り物をしている人物を無条件に止めるようにしていたのだ。こんな場所で、帽子を被っているのは被害者のDJぐらいなもの。ボディチェックを行う時に、薬物を致死量のものにすり替えたのである。
「警部、お手柄でしたね。しかしあのゲートは、どうして警部に反応したんでしょう」
「さあ、それは俺もわからん」
警部は言葉を濁し、トイレに向かった。そして洗面台の鏡に相対すると、自らの髪の毛を取り外した。
「言えるわけねえだろ、俺も被り物をしているなんて」
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