1
ひと月は遊んで暮らすつもりだったのに、一週間後、映画館でゴダール三本立てを観て、アンナかわええ~、と、満たされた気分で私用、仕事用のスマホの電源を入れたら、仕事用の方に十五件の着信履歴。あーこれ絶対面倒臭いヤツ。自分の思いを人に押し付けるのが大好きなかまってちゃん。嫌だなぁと思いながらかけ直し、翌日、某大型ショッピングモールのフードコートで会うことに。こういうタイプは常に人の群れの中で対応しないと、静かな場所で一対一で会っていると吸い込みたくなってしまう―生きている人間の霊魂も吸い込めるのかって?試したことは無いけれど、多分。
萌えキュンコスプレを敢えて私服として着用してます、というような感性が無自覚アバンギャルドな二十歳前くらいの女性がフードコートに足を踏み入れたのが見えた。あ、絶対アレだわ、と思っていたらやっぱりそうだった。約束の時間を十五分ほど遅れていたけれど、詫びもしなかった。一応あまり人気のないところに移動し、話を聞く。
「兄がまだ家に居る気がするんです。」
「…というと?」
「兄は、わたしが高校に入った時に死んだんですけど…わたしの家族はみんな、兄のことが大好きで…、いかないでって、みんなで頼んだんです。まだいかないでくれって。」
私は頷いた。よくあることだ。でも、それは時に残酷な結果になる。家族みんなが兄に依存。それは最もタチの悪い呪縛だ。それで?とわたしは続きを促した。女はなにが気に障ったのか、少し顔をしかめた。
「それで、ええと…それをあなたに確かめていただきたいんです。」
「確かめて、もしまだ居たら、どうしますか?ああ、まだ居たんだって安心するんですか?」
女はそんなこと考えても居なかったというような顔をして言い淀んだ。
「最近ずっと、体調がすぐれないのではないですか?それが、お兄さんの影響ではないかと考えているのでは…?」
女は、はっとした表情になって、渋々頷いた。出来れば話したくなかったのだろう。
「今日は、他のご家族の方は?」
いません、と女は答えた。
「父は去年死にました。母はそれから少しおかしくなって、施設に入ってます。」
もう少し、大人の女の言い方っていうものがあるんじゃないかなぁ?
「他には…?あなた一人?」
女は頷いた。
「お仕事は、なにかされているんですか?」
女はまた顔をしかめた。
「それ、なにか関係あるんですか?」
わたしは、愚かな子、という気持ちを込めて、微笑んだ。
「ご存じかと思いますが、わたしの仕事、とても高額です。踏み倒そうとする人も居ます。まあ、そういう人は、少々怖い目に遭ったりするんですけどね、なぜか。まだお若いようだし、支払い能力は確認しておかないと、後々面倒なことになったりしますから。」
女は質問には答えず、ウエディングケーキの縮小版みたいな鞄から封筒を取り出し、きちんと両手でこちらに差し出した。わたしも習って両手で受け取り、中身を確認した。
「確かに。それでは行きましょう。」
女は頷いた。
多分デリヘルみたいなことしてんだろな、と、浮ついた幸せの具現化のようなショッピングモールを歩きながら、わたしはこっそり思った。