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三階に上がった途端に、ランさんは左腕のムカデを振り回した。カカカカッ、と何かが床に落ちる音。囲まれてたみたいね、とユカさん。上がってきたところを一斉にマグライトで照らして、こちらの視界を奪う手筈だったのだろうか?ユカさんは階段を駆け上がり、ランさんに加勢した。わたしが三階に顔を出すころにはもう闘いは終わっていた。
「ひぃ、ふぅ、みぃ…十二人。」
ランさんが数えている間に、ユカさんは客室に隠れていた二人を探し出し、ムカデの腕でギチギチに巻いて尋問していた。それだけで二人とも発狂しそうになっていた。
「あと二人よ、最上階に居るそうよ。スイートに一人、スカイラウンジに一人。」
わたしの予想、大当たりだったわけね。
「ここからわたし、別行動でいいですか?」
「…いいけど、気を付けてね。」
「なにかあったら呼びます。」
わたしたちは階段を最上階まで上がり、ユカさんはスイートルームに、ランさんはスカイラウンジに、わたしはロビーのような場所に向かった。二人の向かった部屋から怒号が聞こえ、すぐに悲鳴に変わった。わたしはロビーの広い窓の下で壁にもたれているものを見て息を飲んだ。
元は女性だろうか。髪は毟られ、頭頂部は砕かれ、右目は刳り貫かれ、左目は零れ落ちそうになっていた。耳は二つとも削がれ、口は耳まで裂かれていた。首の真ん中には時間をかけて丁寧に掘られた丸い穴が空き、鎖骨は折られて、肌を突き破り装飾物のように上に突き出していた。左の乳房は切り取られて内側を剥き出しにし、右は花弁のように執拗に切り裂かれていた。腹は大きく開かれ、腸を引き摺り出され、カーペットみたいに円状に、本体を囲むように並べられていた。四肢はすべて関節のところで切られ、オブジェのように左脇に積み上げられていた。股間は、ハンマーで殴られたみたいにぺしゃんこに凹んでいた。それはずっと小さく唸っていた。その声にはどんな意味もなく、どんな感情も込められてはいなかった。恐怖と、困惑と、憎悪、恨み…おそらくしばらくの間ここに放置されていたのだろう、その間に、あらゆる負の感情が植物のように育ち、しっかりとここに根を下ろしていた。
負けるな、わたしはそれだけを言い聞かせた。
おそらくは最初に動きを封じられた。それから弄るように少しずつ壊された。かなりの間意識があったらしい。股間を潰されたときにそれは正常ではなくなった。痛みではなく、猛烈な熱のようなものが連続して訪れた…わたしの頬を生温い何かが流れた。拭ってみるとそれは血液だった。二、三度手を振るとそれは消えた。わたしを同じ目に遭わせようというのではない。この子は判って欲しいのだ、ここで自分が何を考えていたのか。少しの間、わたしは躊躇した。助けてやることは出来ないのか。魂を正常に戻して、きちんと向こうへ届けてやることは不可能なのか。わたしは両の頬を叩いた。いい加減にしろ。ふざけるな、この期に及んで。おまえは未熟者だ。出来もしないことで悩むな。いまわたしがここに来た。それはわたしがやるべきことをやれということだ。わたしは覚悟を決めた。いつもよりもゆっくりと息を吐き、一気に吸い込んだ。哀しき霊魂は一瞬でわたしに吸い込まれ、そして消えた。跡形もなく消えた。畜生。わたしはその場に跪き、剥き出しのコンクリの床を思い切り殴った。拳が切れ、血が流れだしたのかわかった。




