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二人の襲撃には、アクション映画によくあるスリリングな展開というものはまるでなさそうだった。まるでショッピングモールに入っていくみたいに、世間話をしながらがら空きの正面入り口から乗り込んで行った。
「見張りが来るかしら?それとも数人で私たちを拉致しに来るかしら?」
ランさんがどっちでもいいけどという調子で言う。ユカさんは耳を澄ます。
「見張りだけみたいね。右奥の暗がりに階段があるわ。」
「オケ。」
ランさんは左腕を前方に伸ばした。その腕が数メートルはあろうかという巨大なムカデに変わり、ゾワゾワとホテルの床を右奥の暗がりに向かって這って行った。わたしはおわ?と変な声を出した。
「おい、姉ちゃんたち!ここは立入禁止だよ!」
そう言いながら、二十歳前後の大柄な男が下品な笑みを浮かべながら降りてきた。なかなかパワーのあるマグライトを持っているようで、その光はわたしたちの顔まで照らすことが出来た。まあ、大きな方が凶器にもなるし、ということなんだろう。
「そんなことより足元気にした方がいいよ。」とユカさん。
はぁ?と割れた声で男は自分の足元を照らし、今まさに到達せんとする巨大なムカデと対面した。いや、と何か言おうとしたが、その喉笛にムカデが食いつき、男はたちまち全身を真っ赤な浮腫に包まれて動かなくなった。巨大なムカデの毒によるアナフィラキシーショック。わたしは息を飲んだ。いったいどれだけの毒があの男の身体に注がれたのか。わたしはその一戦だけで二人を心配することは無くなった。言いたいことはいろいろあるが今は自分の仕事に集中しよう。普段押さえているものを遠慮なく使わせてもらおう。気を付けることはひとつだけ。自分の力に引っ張られないようにすること。わたしは二人の後ろで、そこらへんに溜まっている雑多なものを一気に吸い込んだ。手の掛かるものは落ち着いてからやるために残しておいた。二人には見えていないようだけど、瞬間二人は確かになにかを感じたようだった。
そうこうするうち、見張りが帰ってこないことを訝しんだものが数人降りてきた。そして、左腕がムカデと化しているエスニック系美人と、右腕を同じくムカデに変え、先端にスズメバチの針をつけたキレカワ系美人を見つけてだらしない悲鳴を上げた。そんなものを相手にただの半グレが何か出来るわけもなく、腰を抜かして漏らしている彼らを二人はあっという間に片付けた。
「いやぁなんて言うか…悪趣味だけどカッコイイですね、あなたたち。」
あ~ら、わかってるじゃない、とユカさんが峰不二子の抑揚で言う。わたしたちは死体の転がる階段を二階へと上がる。
二階は遊技場や土産物の店などが並ぶフロアーのようで、そこだけ見るとデパートの一角みたいだった。明かりは無かったけれど、巨大な窓が前面にあり、おまけにすべてガラスを破られているため、爽やかな夜の風と、山中の湿気以外のものはなにも感じなかった。どこかから話声がする。ホテルは確か五階建てということだった。声の調子から察するに、ここを占拠している半グレたちはすぐ上に居るようだ。もしかしたら、ボス的なやつだけがスイートルームとか、展望ラウンジなどを自分のスペースとして使っているのかもしれない、とわたしは考えた。そして、おそらくは一番上の階に、このホテルが魔窟となった原因を作ったものが居る。意気揚々とする二人とは裏腹に、わたしは微かに困惑していた。こんな魂の在り方をそれまでに経験したことが無かったのだ。




