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「お待たせー。」
「ぅえっ!?」
部屋の中に突然ランさんが現れた。一拍遅れてユカさんも。
「…人生で一番驚いた。」
二人は笑った。
「どういうカラクリなんですか?」
言ってなかったっけ?とランさんは微笑む。
「わたしたちの身体の中には、百匹の虫の遺伝子があるのよ。そして、彼らの特性を好きなように使えるってわけ。」
スズメバチの羽で飛んできたのよ、と後ろからユカさん。
わたしはポカンとしていたが、どうしても聞きたいことがあった。
「その…生えてくるんですかね、背中に。」
「生やそうと思えば出来るけど、なんていうかイメージだからね。普段は出さないのよ。」
「誰かに見られたら…って、姿消せるんですもんね。」
頷く二人。
「これはさすがにキャパオーバーですわ…。」
そんなことより、とランさん。
「そろそろ行きましょうよ。」
わたしは気付いてはいけないことに気付いた。
「まさか、わたしはどちらかの背中に乗せられるのですか?」
二人はにやにやした。
「もっと凄く、乗り心地のいいやり方があるのよ。」
かくして数分後、わたしは宙に浮かんでいた。彼女らの言う方法とは、蜘蛛の糸で籠を作り、そこにわたしを乗せて二人で運ぶというものだった。意外と乗り心地良いでしょ?と左を飛ぶランさん。
「いいですね、決して下は見たくないですけど。」
わたしはもうどうにでもなれという気持ちになっていた。霊を吸い込む女ってだけでいい加減逸脱したつもりでいたけれど、百匹の虫の遺伝子?そんで姿消して空飛ぶ?スズメバチの羽で…?もしも手に取った本がこんなお話だったら、わたしはそこで本を閉じてしまうわ。
そろそろ着くよ、とユカさんが言った。そういえばユカさん、ホテルの名前を言った時からちょっと口数が少なかった気がする。地図もちらっと見ただけだったし。
ホテルは思ったよりも大きかった。回数や部屋数から想像するサイズよりもずっと。それが高度成長期というものの特徴なのかどうかは、わたしにはわからなかった。わたしたちはホテルの数軒隣の、やはり廃墟のホテルの駐車場に着地した。蜘蛛の糸を編んで作った籠は、着地の際にも衝撃ひとつ感じなかった。
「凄いですね、これ。こんなベッド欲しいわ。」
ふふん、と二人は誇らしげな顔をした。
「さて…作戦会議でもします?」
「そんなもんないわよ。」
「なにっ」
「あゆちゃんはわたしたちの後ろに隠れて、わたしたちが人間をやっつけるからあなたは悪霊を始末していきなさい。」
「…イエッサー。」
「で、どうなの…霊の感じは。」
わたしは少し建物を眺めた。上から下まで、みっちりと詰まっている感じだ…。どこかの部屋で酒盛りでもやっているのか、野蛮な感じの笑い声が小さく聞こえている。
「一個なんか、得体のしれないのが居ますね。それが雑多なものをどんどん呼び込んでいるみたい。」
「時間かかりそう?」
「全力で行きますけど、手強そうなのもいくつか居るからすぐには終わらないでしょうね。」
そっか、とユカ。
「わたしたちが先に入って、ヒトを始末するまで待ってる?」
いえ、とわたしはそれを断固拒否した。
「正直、凄く興味があるので。あなたたちがどんなことをするのか。」
わたしがそう言うと二人は凄く嬉しそうな顔になった。
「よし、じゃあ…半グレと悪霊、まとめて討伐じゃああ!」
ランさんがどこぞの塾の人みたいな口調になった。おい、とわたしとユカさんは同時にツッコんだ。




