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手を取れ、手を離せ。  作者: ホロウ・シカエルボク
departure(逸脱)
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2

店内の主と化していた化物が居なくなると、残りの連中は我に返ったようにその場で消えたり、どこかへ去って行った。店長さんはわたしが呼ぶ前に戻ってきた。「店の中が一瞬凄く光ったので、終わったのだと思った」そうだ。どうやら、少し見えている人らしい。

「本当にありがとうございました。これで明日から再営業に向けて動き出せます。あなたのお陰です。」

店長さんは料金の入った封筒を両手で差し出しながらそう言った。わたしは余裕の笑みでそれを受け取った。それでは、と一礼して店を出ようとしたが、店長さんはわたしを呼び止めた。

「まだ…なにか?」

店長さんはまだ決めかねている様子で、何度か頭を掻いた。話くらいなら伺ってもいいですよ、と、わたしは助け舟を出し、では…ということでわたしたちは客席に戻った。


「わたしの祖父が伊豆の方でやってたホテルがあるんですが…地元じゃ悪魔の館って呼ばれてましてね。」

昔のヘビメタか。わたしは吹き出しそうになったが、店長さんが本当に悩んでいる様子なので必死に我慢した。

「あなたはそこで何か見たことはありますか?」

店長さんは頷いた。

「子供の頃はそちらに住んでいましたんでね。色々見ましたよ。ベタですけど、血まみれの女とか。首の無い男とか…。」

「過去になにか、曰くがあったとか?」

「そういう話は聞いたことありませんね…ただまあ、大きなホテルなので、ね。広い土地を安く買って、建てたということなので。」

ああ、とわたしは頷いた。安くて広い土地は良くないことが多い。誰でも知ってる話だ。わたしの経験からしても、ほとんど例外は無い。

「始めは良かったんですが、お化けが出るだの、バブル崩壊だのでどんどん客足が遠のいたわけですよ。で、閉めたんですが、解体業者がみんな途中で逃げちまう。地元の業者がみんなそこの仕事は出来ないってことになった。余所の業者にも頼んでみたけれど、ああいう業界はヤバい物件の話は広まるのが早い。誰も受けてくれなかった。そんで、そのまま廃墟化してもうウン十年というわけです。放っとくわけにもいかないんでいまはわたしが管理してるんですけどね。数年前からちょっとタチの悪いのが住み着いてしまって…。」

「それは、人間ですか?」

「はい。半グレとか言うんですかね。防犯カメラとか、バリケードとかも壊しちまって…。今も居るかどうかはわからないんですけどね。」

うーん、と、わたしは唸った。

「霊のほうはどれぐらい居ても構わないんですけど、そういう人にはわたしはまるで無力なもんで…。」

「ですよねぇ~。」

ボクシングちょっと出来るくらいじゃ、そういう集団には太刀打ち出来ないだろう。ドラマじゃあるまいし。一度、現状を確認してみてもらえますか?と、わたしはお願いした。そうですね、そうしてみます、と、店長さんは頷いた。

「では、わたしはこれで。現状がわかったら、また連絡下さいね。」

ありがとうございました、と、店長さんは再度頭を下げた。凄く真面目な人なんだな、とわたしは思った。


その夜、ランさんから電話があった。

「あ、あゆ?」

「すみませんその呼び方本当にやめていただいていいですか。」

笑い声。それから、やっと実験終わったの。と弾んだ声。

「なんの薬作ってたんですか?」

「人体組織だけで火を起こして、内側から燃やす薬よ。」

「それはもう薬じゃないです。」

「まあ、成り行きでそういうものを作ってしまいまして…。興味でね。」

そんなことはいいのよ、とランさん。いいのかな…。

「どう?ご都合よろしければこっちに遊びに来ない?」

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