表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手を取れ、手を離せ。  作者: ホロウ・シカエルボク
新しい段階
23/31

8

ユカさんは今日中に帰る予定だというので、山を降りたところで別れることになった。もちろん、連絡先も交換した。ランの実験が一段落したら一緒に遊びましょう、と約束して。

「じゃあ、今日はありがとう。助かった。」

「どういたしまして。」

わたしたちは互いにひらひらと手を振り合った。自転車にまたがって振り返ると、ユカさんの姿はもうなかった。脚が凄く速いのか、空を飛べるのか、もしかしたら姿を消せるのかもしれない。今度会ったらいろいろ聞いてみよう。


わたしは少し住職さんのことが気になっていた。弟さんの死を知った瞬間に、彼を取り巻く空気が一瞬にして変わったのだ。わたしには住職さんが、二度と戻ってこれない扉を開けてしまった気がした。一瞬お寺に取って返そうかと思ったが、住職さんはきっとそれを良くは思わないだろう。


家に帰るころには夜になってしまった。わたしは簡単なものを作って食べ、お風呂に入り、ストレッチをした。ストレッチをしながら、立って行う禅や、歩きながら行う禅のことを考えた。それは確かに凄く役に立ちそうな気がする。禅の世界にどこまで入って行けばいいのだろうと時々思うのだけど、もともと瞑想は続けていたわけだから、どっぷり浸かって学んでみても弊害はない気がする。わたしには断食の必要は無いし。住職さんが断食の話を出さないのも、なんとなくわかっているのだろという気がする。ストレッチが終わると眠くなった。歯を磨いてベッドに入り、朝までぐっすりと寝た。自転車に乗ると凄く疲れる。たとえそれが電動自転車でも―運動不足ではないはずなんだけどな。


目覚める間際に不思議な夢を見た。鹿と蜘蛛と一緒に、何も無い薄暗い空間に座り込んでただ微笑み合っていた。蜘蛛がユカさんで、鹿がランさん。それはすぐにわかった。だけど、もともとはランさんが蜘蛛なのに、鹿のイメージが強いのも不思議だなと思った。やはり、肉体というものはそれだけの意味を持つのだろうか。ユカさんが蜘蛛なのは、おそらくランさんが彼女の身体を作り変えたからだろう。わたしたちは座り続けていた。特になにかを待っているとか、誰かがやって来るとか、そういう理由ではなさそうだった。なんだか、特にやることもないのでそうしているという感じだった。どこかで柱時計が十二時を告げていた。わたしたちは円座になって目を閉じた。わたしたちは薄暗い空間の中に一度溶け込み、しばらくして再び現れた。その瞬間にユカさんとランさんは今の姿になった。溶けて消えてが何度か続いた。現れる度にわたしたちは、薄暗い室内を照らすように発光していた。蛍のような光だった。その光に照らされた室内はなにも無いだだっ広い空間だった。ライブハウスから機材をすべて取っ払ったみたいな感じだった。わたしたちはそのうち自らの光に飲み込まれ、姿が見えなくなった。光が消えたあと、もとの薄暗がりの中でぼんやりと見えたわたしたちは、ただの骸骨だった。上から落とされたみたいにクタクタに崩れていた。


その夢はただの夢のようにも思えたし、なにか予知夢のようなものにも思えた。骸骨が現れていたが不吉な感じはしなかった。あれは本質の表現のようなものだ。だってそうだろう、骨なんか誰だって持っているものだ。それを不吉というのならわたしたちの存在自体が不吉だという話になってしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ