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手を取れ、手を離せ。  作者: ホロウ・シカエルボク
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7

わたしたちは、お寺の方ではなく、住職さんの住まいの方へ通された。居間でお茶を貰い、住職さんが座るのを待った。

「あれはまた、なにか面倒ごとを起こしたのですかな?」

住職さんは座りながらそう言った。ユカさんは黙って首を横に振った。

「亡くなりました。島田のメモ帳に、こちらのお寺のアドレスと、住職さんのお名前がありました。」

そうですか、と、住職さんは眉間に皺を寄せた。

「なぜ死んだのですかな。」

「刺されました。」

ふう、と住職さんは息をついて背を伸ばした。でも、勘違いしないでください、と、ユカさんは静かに話を続けた。

「健司さんは悪いことからはすべて手を引いて、もともと持っていた不動産や、わたしの探偵業の手伝いなどで生計を立てて、組員だったものたちもすべて養っておりました。普通の人生の喜びを知り、ジムで知り合った女性と恋に落ち、結婚して、新婚旅行中に、過去に因縁のあった男と偶然出会い、刺されました。」

なんと、と、住職さんは心から驚いた声を出した。

「改心しとったのですか、そうですか…。」

住職さんは自分の膝の先の畳に目を落とした。そしてもう一度、そうですかと呟いた。

「住職さんはお兄様ということでよろしいので?」

母親が違いましてな、と、住職さんは補足した。

「昔からどこか、人生を諦めているようなところがありました。恥ずかしい話ですが、あまり褒められた家庭環境では御座いませんでしてな。わたしはそれに反発して生きたが、あれは染まってしまった。もちろん、家のせいにするわけではありませんがな。」

彼は真面目過ぎて人を撥ねつけてしまうようなところがありました、とユカさんは言った。住職さんは俯いてうんうんと頷いた。

「今日はこれをお伝えに。お骨はわたしたちが住んでいた街の納骨堂にあります。こちらが住所です。」

ユカさんはバッグから小さなパンフレットのようなものを差し出した。住職さんは一礼してそれを受け取った。

それでは、とユカさんは一礼して立ち上がった。住職さんも一礼し、わたしたちを門まで見送ってくれた。


わたしとユカさんはなんとなく急ぐ気にならず、自転車を押しながらしばらく黙って歩いていた。

「今日はありがとね。」

「いえ。」

「正直一人じゃ気が重かったんだ。追い返されるんじゃないかとか思っちゃって。」

「あの住職さんならそんなことはないと思いますよ。」

そうだね、と、ユカさんは同意した。

「わたしのことも気付いていたみたいだけど、触れないでいてくれた。一瞬だけ怖い目した。」

祓われるんじゃないかと思った、と、ユカさんは笑った。笑っていたけれど、どこか寂しそうだった。いろいろあった人なのだろうな、とわたしは思った。


わたしの人生はそういうドラマティックな出来事とは無縁だった。ただ普通に過ごしながら、たまに霊を吸い込んでお金を貰って来ただけの人生だった。自分はずっとそうして生きていくのだろうと今でも思っているし、それに何の不満もない。ただこうして、自分の知らないところでとんでもない悲しみや苦しみに触れながら生きている人たちが居るということを、わたしはとても不思議に感じた。なんとなく話しかけていいものか迷いながら自転車を押していると、ねえ、と、ユカさんが不意に口を開いた。

「そろそろ自転車乗りましょう、陽が暮れちゃいそう。」

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