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手を取れ、手を離せ。  作者: ホロウ・シカエルボク
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5

わたしが座るのをやめると、見計らったかのようなタイミングで住職さんは現れた。わたしたちは互いに一礼した。住職さんはどうやらわたしの修行について考えてくれていたらしく、このような話を持ち掛けられた。

「禅は座るだけではありません。立って行うものもあれば、歩きながら行うものもあります。ご存じでしたかな?」

わたしは首を横に振った。知らん人がほとんどです、と住職さんは微笑んだ。

「あなたの仕事の性質を考えれば、立ったり、歩いたりするものの方がいいかと思いましてな。座るのは座るのでこのまま続けていただいて、次回いらしたときからそういう、立つ、歩く、という禅について少し手ほどきをさせてもらおうかと思うとるんですが、どうですかな。」

是非とも、と、わたしは意気込んだ。よしよし、と、住職さんは頷いた。わたしはバッグから封筒を取り出し、住職さんに差し出した。

「よろしければ。」

おやおや、と、住職さんは驚いた顔を見せた。

「あなたからお金を頂くつもりはなかったのですがな。」

いえ、とわたしは住職さんを真っすぐに見て、言った。

「わたしはきちんとこれを教えていただきたいと思っています。どうかお受け取り下さい。」

では、と住職さんは両手で封筒を受け取り、袖口に仕舞い込んだ。

「それならば、如何でしょう、月一、きっちりと指南させていただくように、しましょうかね。」

よろしくお願いいたします、と、わたしは深く礼をした。


…という、真剣な場面のあと、電動自転車に乗って山を下る、というのはいかがなものか。なんだかのほほんとしてしまう。そんなこと言ったってしかたないじゃないか。わたしはのんびりと山道を走らせる―つもりだったが、行きとは違う気配があった。それもなにか、不思議な―ふもとが近くなり、道が広くなったあたりで、わたしの後頭部あたりになにかが放たれた。わたしは首を傾けてそれを避け、自転車を止めて、振り返った。二十歳くらいの、綺麗可愛い感じのシンプルないでたちの女性が薄っすら笑いながらわたしのことを見ていた。

「いたずらですか?」

そうかな…、そうかも、と、女は言った。からかっているのではなく、そこには特に定義は無かった、という感じだ。

「でも、当たったからってどうというものでもないわ。」

まあ、それはいいんです、と、わたしは言った。

「わたしがお寺を出てから、ずっとついて来てましたよね?なにが目的なんですか?」

目的、と女は繰り返した。それから、目的か、と呟きながら軽く頭を掻いた。なんなんだろう、この人は。わたしが戸惑っていると慌てて微笑んで、こう言った。

「ごめんなさい、わたしはユカと言います。このお寺に少し用があって訪ねてきたんだけど…あなたに興味を持ってしまって、尾行しちゃった。」

ユカ、という女に習い、わたしもとりあえず自己紹介をした。

「それで、とりあえず、尾行するに至った経緯をもう少し詳細にお願いしたいんですけども。」

そうですね…と、ユカさんは考え込む表情になった。考えるより先に身体が動いちゃうタイプなのかな。

「あなたの、気配、というか、空気?なんかこう、普通じゃないものを感じまして。」

あー、と、わたしはある程度納得した。

「でも、気配と言うことで言えば…ユカさん?あなた、なんというか…。」

わたしはそこで少し言い淀んだ。彼女がそれに自覚的なのかどうか、わからなかったからだ。

「ご遠慮なさらず。」

わたしが黙り込むとユカさんはそう言った。じゃあ、とわたしは思ったままを口にした。

「わたしには、あなたは無数の虫と、人の、融合体のような奇妙な生きものに見える。」

ユカとは何者なのか?知りたい人はわたしの「百虫少女」という作品を読もう!(二回目)

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